present



例のキスシーンを見てから、弘樹のガードの日々が始まった。
一見普通の叔父だが、たまにあるへの過剰スキンシップを止めているのは弘樹。
しっかりし過ぎな甥を前に、茂は苦笑いをする他なかった。


「…ん〜……くはぁ。」
やっとの休日。
は寝ぼけ頭を起こすために大きく伸びをした。
時計に手を伸ばしてみると、8時30分をまわった所。
隣に目をやると、弘樹がうっすらと目を開けた。
「おハヨ、弘樹。」
「ああ、おハヨ……。」
はベッドから降りると再度伸びをし、遮光ウィンドーを開ける。
光の眩しさに、少々めを細めた。
「弘樹、私叔父さん起こして来るね。」
「うん、気をつけて。」
ただ起こしに行くだけなのに“気をつけて”とは。
思わず苦笑いした。
色々心配してくれるのは嬉しいが、ここまで行くと叔父より過保護だ。
“大丈夫だから”と念を押すと、叔父の部屋へと向かった。


相変わらず激しく散らかっている叔父の部屋。
仕事部屋でもないのに物の散乱具合は凄まじいが、まだゴミの上に寝ていないだけよしとしよう。
ベッドの上で爆睡している叔父を起こすために揺する。
しかし、が声をかけても唸るばかり。
「叔父さんってば、起きてよ!」
「う゛〜…昨日…夜、遅……寝かせろ…」
布団を抱き込み、また寝の態勢へ。
「…またお酒飲んで、夜中まで変なテレビ見てたんでしょ。」
「うるせ〜、弘樹と一緒にさっさと寝た奴……の…言う事…なんか…聞くか…。」
半分寝ながら言った茂のその発言に、ちょっとムッとする
「大体なぁ…“叔父さんといるとが危ない”とかぬかして…俺は野獣かっての…。」
いつの間にか、叔父の寝かせろコールは弘樹への文句へとすり替わっていた。
弘樹がこの場にいたら“野獣だろ”と突っ込みを入れていたかもしれない。
「とにかく起きてよー、今日買い物するって言っ……」
「ぐー。」
あからさまな狸寝入りに、思わずの頭に怒りマークが飛ぶ。
「…叔父さんっ。」
ベッドに手をつき茂を覗き込む…と、は一瞬の内に茂の腕の中にいた。
「な、叔父さんっ!?」
「んー、柔らかくて気持ちいーなぁ…。」
真正面から抱き合っている為、全身余す所なく密着している。
なんとか離れようとするが、叔父の手は彼女をつかんだままだ。
「やだ、叔父さんっ。」
「あーもー、静かにしとけ。弘樹のヤツが飛んで来るだろうが。」
「じゃあ静かにするから、手、放して起きて。」
「却下。」
きゅーっと抱きしめられ、の鼓動が早くなる。
ここしばらく弘樹ががっちりガードしていたので、こういう抱擁は久々だった。
茂は相当我慢していたのだが、ここにきて、寝室に想い人が入って来たものだから我慢が切れた。
臨界点突破する前でよかったと心底思う。
突破した後だったら、弘樹の言うとおり“野獣”といわれるような行為をしてしまったかもしれないから。
「叔父さんてば……。」
「…もう少しだけ、黙ってこーさせろ………。」
仕方なさ気に茂の言葉に従う。
茂は暫く幸福感に浸っていた………のだが。



「なにしてるんだよ叔父さんっ!!!」

……ガーディアン弘樹登場。

なんで、こう、タイミングがいいのかと頭を抱える叔父の姿がそこにあった……。




結局、嫌がる茂を無理矢理引っ張り出し、買い物に連れ出した。
買うものは主に日用生活品。
本当は、茂の部屋の収納用具も買いたかったのだが、当の叔父に全く整理整頓する気がないと無意味極まりないものになる。
一度使ったものを同じ所に戻そうという気がなければ、収納用具などスペース取りに過ぎない。
ということで、日用生活品のみの買い物。

粗方買い終えると、ちょっと休憩しようということで、喫茶店へと入った。
3人ともコーヒーを飲む。
呑みながら、弘樹はすでにお疲れモード。
荷物持ちやらなにやらで疲れきってしまっている。
一方の茂はいつもの調子。
さすがに記者なんていう仕事をしていると、並々ならぬ体力がつくらしい。
「弘樹、あと買ってないのある?」
「えーと…あとは夕食の材料だね。」
3人(内1人は余り役には立っていない)で買い物すると早く終わっていい。
普通なら時間のかかりそうなものだが、と弘樹はバラけて買うので効率がいいようだ。

「それじゃ、食事材料買って帰………」
。」
帰ろうか、と弘樹が言おうとしたのを阻み、茂がに声をかける。
なに?という目を向けるに向かって、茂はにんまり笑った。
「ちょっと叔父さんの買い物に付き合ってくれないかな〜。」
「?」



茂の買い物にはが付き合うことになり、弘樹は心配しながらも
1人で夕食の買い物に行くことになった。
「どこ行くの?」
「ちょっとな。」
行き先を言わずに引っ張られ、辿り着いたのは婦人服売り場。
叔父がなんで婦人服売り場に用があるのか考える。
「叔父さん…誰かにあげるワケ?」
心なし声のトーンが低くなり、睨むようにして叔父を見てしまう
叔父は嬉しそうに微笑んだ。
「おっ、ヤキモチか?」
「…………別に。」
「安心しろ、お前の服買いにきたんだよ。」
「…わ、私の!?」

なんで急にそんな事を言い出したのか判らないけれど、茂が服を買ってくれると言っているのだ。
は素直に好意に甘える事にした。
「なぁ、これ似合うんじゃないか?」
「……ナニ、その時代錯誤の引きずるような激ロンスカは。」
ブーたれるに、茂ははははと笑いながら頭の中では
“誰が他のヤローにの足見せるような物着せるか”なんて考えていた。
そうとは知らず、嬉々として服を見る彼女。
まあ、基本的にミニスカート等を着るようなタイプではないので、見る服もおとなしめなものばかり。
「……うーん、コレっ!」
「決まったのか?」
「うん、コレがいい。」
茂が渡されたのは、背中にファスナーがついたワンピース。
ほんのちょっと背中と前が開いてるけど、それでも大人しい。
これで本当にいいのか?と念を押すと、はコクリと頷いて微笑んだ。

「…ありがとね。」
「なんで礼言うんだ?」
服が入っている袋をぎゅっと抱きしめ、嬉しそうに茂を見た。
の頭をぽんぽんと叩くと、車に戻る。
弘樹は結構待ったようで、大荷物を抱えて少し機嫌が悪そう。
“ごめん”とが笑いかけると仕方なさ気に弘樹も微笑む。
幼馴染に心底甘い甥に、茂は苦笑いすると車のトランクを開けた―。





家へ帰り弘樹が食事を作っている間、は茂と一緒にテレビを見ていた。
疲れきっている弘樹の手伝いをしようとが立ち上がると、茂はちょっと考え彼女を自分のあぐらの上に座らせる。
「叔父さんっ!?」
がいなくなっちゃうの、叔父さん悲しいなぁ〜。」
大好きな叔父が悲しげに言うので、は“う゛っ”と詰まってしまった。
服も買ってもらったことだし、弘樹に心の中で詫びながらも叔父の上に素直に座っていることにした。
暫く大人しくテレビを見ていたのだが、叔父が思いついたようにを抱きしめ耳にキスをする。
その行動に顔を真っ赤にして振り向くと、ちょっと意地悪な顔をした茂がいた。
「なにすんのよ叔父さんっ!変態って言われたいわけ?」
「…、男が女に服を送るって、どういう意味だか知ってるか?」
「…………男が女に、じゃなくて、叔父がムスメに、でしょ、この場合。」


正論。


だが顔が真っ赤なのは叔父の言った意味、その理由を知っているから。
「…逃がすと思うな?」
見聞きしてしまった茂の男の部分に、は固まる他なかった。




弘樹が食事できたよ、と呼びにくるまで、は1人逃走手段を考えていたという。









2001/8/9

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