Declare 片山茂と片山 。 養う立場と養われる立場。 年齢差、20歳とちょっと。 血は繋がっていない。 いい所も嫌な所も、全部とはいえないがあらかた判っている。 どちらかが、その同居人を好きになってしまっても、誰にも文句は言えないんじゃないかと思う。 「叔父さん、朝だよ起きて。」 「ふぁ〜……なんだよ、たまの休みなんだから少しはゆっくり……。」 寝ぼけ顔で頭を掻きつつ起き上がる。 は掛け布団をたたんだ。 よく、恋は盲目、欠点も見えないほど、好きな人ならどんな格好でも何をしてても好きというが、に関しては、一緒にい過ぎるだけかもしれないが、そういう事例は適用されないようで。 「あーもうっ、顔荒ってひげ剃って、髪とかして、終わったら着替えてご飯!」 まるで嫁のようだが、普段はこれを弘樹がやっている。 その上、自分まで起こしてくれるのだからありがたすぎる。 見合いの一件以来、 は茂にひげ剃りを命じ始めた。 コンタクトはたまにだが。 なんでかというと、叔父は酔っぱらって に顔をすりつけてくる事があり、その際、おひげを剃っていないと凄く痛いからだったりする。 今まで“剃る”という行為があるということを、は忘れていた。 「へいへい、仰せの通りに。」 茂が身支度している間に、 はちゃっちゃと料理を作った。 珍しく弘樹がご飯を用意しなかった為である。 「…そういや弘樹はどこ行った?」 「うん、なんか友達の手伝いするって学校行った。」 皿に盛り付け、テーブルに置く。頂きますをして、ぱくつく茂。 「叔父さん、ひげないだけで相当若いよね。」 「男前だろ〜、惚れ直したか?」 「…うん。」 余りに素直な答えに茂が一瞬固まるが、すぐにいつもの軽い口調でさらりと突っ込んだ。 「そうかそうか、視力は悪くないようだな。」 むーっとしつつ、今日の予定を聞く 。 一応把握しておかないと、夕食の用意も出来ないということで。 「今日はオフ?」 「ああ、昼前ぐらいに書類を届けに社員が来るけどな。」 「そか。」 食器荒いをしつつ、会話に相槌を打つ。 水がひんやり冷たくて気持ちいい。 「今日来るのは、社内でも凄い美人さんでなぁ。」 ぴくん、と が反応した。 美人→女性 なんとなくむかむか来る。 「やっぱり女は美人でグラマーさんじゃないとなー。」 んな事を言うんだったら、あの見合い断らなくてもいいじゃないか、と思わず額に怒りマークをつけつつ、思った。 破談して喜んだのは、他でもない なのだが。 怒りというか嫉妬心で、洗い物をしている手元が危ない。 水切りをし、拭こうとして案の定手元が滑って落として割ってしまう。 「っちゃー…やっちゃった…。」 「なにやってるんだお間抜け。」 「あーはいはい。」 茂のイヤミをさらっと回避し、割れたグラスの欠片を集める。 イライラしているせいか、扱いが乱暴で欠片の一つで指を切ってしまった。 「いっ……最悪、なにしてるんだか。」 「なんだ、大丈夫か?」 心配されるが、今の に可愛い返事を返せる精神的余裕はないようで。 「大丈夫、死にはしないから。」 可愛さの欠片もない応答。 茂は苦笑いすると、食器を片付け破片をかたし終わった の手をぐっと引いた。 「…あーあー、結構サックリいってるな。」 「大丈夫だって。」 「傷物を嫁に行かせられんからな。」 と言って、引き出しにある薬箱からバンソーコを取り出しペタッと貼った。 「…叔父さんって、そんなに私を嫁に出したいの?」 「言ったろー?お前のドレス姿を見るのが叔父さんの目標だって。」 はなんとなく苦しくて、嫌で、叔父のそばから離れた。 「…弘樹のところ行って来るね。」 「 ?」 無理矢理笑顔を作ると、 は茂を残して一旦自室へ戻り、カバンをもって学校へ向かった。 心の中で、これ以上ないぐらい叔父を罵りながら。 一方の茂は、溜息をつきながら、仕事の為自室のパソコンをいじリ始めた。 「………しゃーない…よな。」 「あの、片山 さん…ですよね?」 「そーだけど…。」 弘樹を探しに学校へ向かう途中、突然呼び止められた。 見た所、同い年ぐらいの男子。 ただ、 の知らない人で、少々警戒気味。 「…僕、 と言います。同じクラスなんですけど…。」 「あ…ご、ごめん、まだよくわかんなくて…。えと、それで…何のようかなぁ。」 覚えていない、なんて失礼だなと自分を戒め、改めて用件を聞く。 は少し躊躇していたが、やがて思い切ったように を見た。 「あっ、貴方が好きです、付き合ってください!」 「ごめんなさい。」 「………。」 即、ごめんなさいをされ、かなりのショックを受ける 。 だが、彼もそれでは引き下がらない。 「だっ、誰か好きな人でも!?」 「………一応。」 「誰ですか!?」 詰め寄られるが、まさか叔父、だなんていえる訳がない。 血は繋がっていなくても、一応は親子。 どこからか噂がまわって、弘樹や茂に迷惑がかからないとも限らない。 「…ごめんなさい。」 「あっ!!」 逃げるように走り去る。 それしか出来なかったのだから、仕方がないとも言える。 結局、家に帰りづらくて弘樹が朝から図書の整理を手伝っている、史学科へとお邪魔した。 さしてやることもなかったので、 も図書室の主の桐生院綾彦さんの手伝いをし、弘樹よりも先に家に帰る。 食事の支度があるから。 茂にも会いづらかったが、あの という男子には更に会いづらかった。 というか、なるべくなら会いたくない。 夕食を作り、弘樹の分をラップする。 叔父は部屋にいるようだ。 「叔父さん、ご飯できたよ。」 「ああ。」 叔父はパソコンで仕事をしているようだったが、 の声に気づき、電源を落として出て来た。 「いただきます。」 食事をしながら、茂は の手を見た。 ガラスできった所に貼ってあるバンソーコから血が滲んでいる。 は気にとめていないようだが。 「 、風呂から上がったら、そのバンソーコ変えろよ。」 「うん。」 食事を終え、片付けのため水ものをしている時は少々の洗剤の刺激もあってか、しかめっ面をすること数回。 ビールを飲みながらテレビを見ている茂は、背後の を結構心配していたりする。 「弘樹、遅ぇなぁ…。」 「綾彦さんに虐められてるんじゃない?」 くすくす笑う に、なんとなく気まずさが解けて茂も笑った。 片付けを済まし、 は風呂に入って出てくる。 時刻はもうすぐ8時30分を回ろうという所。 そろそろ弘樹も帰ってきてもよさそうなものだ。 ここまで遅いと、余程凄い失敗でもやらかして、綾彦さんにコッテリ絞られているのではなかろうかと心配になってくる。 ぬれた髪を拭き、イスに座って水を飲む。 「…なぁ。」 「んー?」 「間違っても自惚れてる訳じゃないからな。」 茂の意味不明な発言に、“?”を飛ばす 。 「……お前、俺のこと好きか?」 「叔父さんは?私のこと好き?」 質問を即で返され、なんとか逃げようとしてみるが、冗談で返せない程の真剣な表情を向けられて、思わず茂が言葉を詰まらせる。 言ってしまったら、もしかしたら養い人と養われ人、親子という関係ではいられなくなるかもしれない。 「…俺は…。」 茂が言葉を発したと同時に、玄関のチャイムが鳴った。 「あ、弘樹かな。」 「…いータイミングで帰ってきやがる……。」 小声で愚痴をもらす茂に気づかず、玄関へと向かう 。 「おかえ…り………え?」 「ご、ごめん、こんな遅くに…。」 は目の前の人物を見て驚いた。 今日、学校に行く途中に告白を受けた がいたからだ。 「な、なんで…ウチに…。あ、名簿に載ってるか…。」 「片山さん、どうしても…付き合って欲しいんだ!」 「困るからっ、叔父さんいるし、悪いけど今日は…」 「返事を聞くまで帰らない!」 鬼気迫るような必死さの 。 “返事はNOだって言ったよね?”と がなだめるように言っても、付き合えないならその理由、つまり、誰が好きかを教えて欲しいと懇願される。 教えられない 。 そんなことを何度か続けるうち、相手のほうが痺れを切らして の肩をおもむろに掴んだ。 「いっ……」 「なんで教えてくれないんだよ、聞く権利ぐらい……」 余りに強く肩をつかまれ、 の顔が苦痛に歪む。 目の前の人から逃げ出したい一心で目を閉じた。 言えば叔父に迷惑がかかる、絶対に口にしてはいけないと思いながら。 …ふっと急に肩の痛みがなくなった。 ぱっと目を開けると後ろから茂が の手をつかんで持ち上げていた。 「おっ、叔父さん!?」 「まぁったく……なにゴタついてるんだ。」 「だ、だって……。」 ぱっと手を離す茂。 はすまなそうに俯いた。 「少年、悪いがこいつは売約済みでな、婚約者がいるんだ。」 「叔父さん!?」 「ブルージェネシス外の男だからな、ま、諦めろ。」 「………ご迷惑おかけしました。」 茂の言葉に言いくるめられてか、ペコリとお辞儀をし、出ていく 。 ドアがパタンと閉まると、 はその場にヘナヘナとへたり込んでしまった。 茂も一緒に床に座る。 「あ…はは、焦っちゃった…。」 「お前、モテんだなぁ…叔父さん知らなかったぞ〜。」 茂は明るく言いながら、 を後ろから抱きしめた。 少々びくつく 。 「…叔父さん、幼児体型とかいってバカにしたら怒るよ。」 「チッ……と、まあ冗談はおいといてだ。ちょっと手見せてみろ。」 「切れた手?はい。」 抱っこされているので、後ろ向きのまま手だけ見せる。 バンソーコは貼っていない。 風呂で水に触れ、傷が開いたのかうっすらと血が滲んでいる。 茂はその血を舐めとった。 「なに!?」 驚いて手を引っ込め、後ろを見ようとするが茂は後ろを向くことを許さない。 の肩に額を当て、言葉をかける。 「お前の保護者失格だな。」 「?」 「ご両親にあわせる顔がない…。」 「どうして?叔父さんちゃんと面倒みてくれて……」 茂はきゅっと を抱きしめ、一度深呼吸する。 そして、ずっと閉まっておいた言葉を空へと投げた。 「俺にとってお前は女だ。」 「………叔父さん?」 背中越しに緊張が伝わる。 いつもぐーたらで適当で飄々としている茂とは違いすぎる。 「…ど、どういう意味?」 「…お前をどこのどいつにもくれてやる気はない。…あー、もう、これ以上言わせるな。」 「叔父さ……」 の体が喜びに震える。 激しく胸を打つ鼓動が、今聞いた言葉が嘘でないのを証明していた。 「叔父さん、お酒くさいよ。」 「うるせ。」 「叔父さん、苦しいよ。」 「やかまし。」 「叔父さん、好き。」 「………バカヤロ。」 後ろで真っ赤になっているであろう叔父の姿を考えると、自然と微笑みがこぼれる。 抱きしめている茂の手を、きゅっと掴んだ。 「…茂。」 「ばっ……な、なに!?」 「あ、名前で呼ばれたぐらいで慌ててる〜。」 「…そーいう事を言う奴はこうだっ!」 「ふにゃ!?」 くるっと回転させ、正面から抱きしめる。 慌てる をよそに、茂は彼女の首に口唇を落とした。 「へっ、変態!」 「スキンシップだ、気にするな。」 過剰スキンシップだと膨れる に、微笑む茂。 その笑顔がらしくなくて、頬を染めてしまう。 「おっ、赤いぞ?」 「叔父さんのせいじゃないっ!」 「口にしたらどうなるのかなぁ〜。」 「わ、ちょ…!!」 茂が のあごを持ち上げる。 近づいてくる茂を受け入れるかのように、目を閉じた。 その対応に驚きつつ、口唇を重ねる。 触れ合わせるだけのそれなのに、は軽く喘いだ。 娘ではない、女のとしての の声に、茂は只の男になってしまいそうだった――が。 「ただい…………。」 突然、弘樹が帰ってきて、目下で行われている行為を目の当たりにしてしまい、3人の時間が止まる。 「なっ、…お、叔父さん、 にナニヲッ!?」 3人が動けるようになるまで、暫くの時間を要したという。 2001/7/1 ブラウザback |