miai marriagh? 「叔父さんがお見合い!?」 いきなり聞かされた話に、思わず叫ぶ。 その、お見合いをするという茂はビールを飲みながら写真を出した。 どうやら、相手の写真のようだ。 ………見てビックリ。 凄くおしとやかそうで美人さん。 茂にははっきり言って勿体無いかもしれない程。 「…なんで…いきなり…。」 「社長がどうしてもってうるさくてなぁ。」 「、僕にも見せて。」 弘樹に写真を渡すと、は茂の食べ終わった食器を片付けた。 『なに、暗くなってるの私。』 自分が沈んでいる明確な理由が見つからず、首をかしげる。 「叔父さん、本気でお見合いするの?」 茂は、ビールを注ぎ足しながら弘樹に返事を返す。 「しょーがねーだろ、明後日だって言うからよ…。」 ―明後日。 早すぎる話に、はモヤモヤしたまま席に戻った。 「この部屋、綺麗にしておかないと後々大変だね。」 確かに部屋に関してはその通りなのだが、自分で言っていて哀しくなってくる。 …もっと喜ばないと、協力しなきゃ、という思いを打ち消す程のモヤモヤがを包む。 「…、どーした…腹イタか?」 「ちがうっ!」 いつもの叔父。 大好きな叔父。 ならば、自分がすべき事はわかっている。 「叔父さん、私が叔父さんをバッチリ仕立ててあげるからねっ!」 かくて、茂改造計画は実行に移された。 見合い当日。 弘樹は茂を見て言葉をなくした。 は得意満面である。 「…お、叔父さん……だよね…。」 「弘樹、なに言ってんだよ、いつもの素敵な叔父さんだろう。」 「いつもと違うからカッコイイんだろ…全く、口開くと全然変わりないな。」 も弘樹も一応正装していた。 見合いの席に立ち会うからだ。 それにしても、弘樹が驚くのも無理はなかった。 ヒゲを剃って紺色のスーツで身を固め、メガネからコンタクトへ、髪を少々整える。 これでかなりカッコイイ叔父になってしまったのが、弘樹には脅威の出来事で。 の苦労がしのばれた。 「さてさて行きましょうか。先方待たしちゃ悪いしね。」 は複雑な思いを抱えながら、茂と弘樹をあおった。 綺麗な結婚式場の一室でお見合いは始まった。 結婚式場の一室、といっても、ちゃんとお見合い用の和室で、こんなものがあるのかとも弘樹もビックリした。 相手の女の人は写真で見るより美人さんで……外回り用の茂の態度でも、デレッとしているのがわかる辺りは、長年一緒に住んでいる者の洞察力だろう。 弘樹は本当に茂の縁者だが、はそうではない。 なんとなく、見合いの場に居辛い。 「そちらはお子さんですか?…あら、でも片山さんはお1人の身では…?」 「ええ、未婚です。ほら、自己紹介しろ。」 茂にせっつかれ、弘樹のほうが先に自己紹介をする。 「片山弘樹です。叔父にずっと世話になってます。」 「そちらの方は?」 物腰丁寧で、とても綺麗な声の女性に、少々バツが悪そうにしながら、も自己紹介をする。 「…片山…、です。…えっと……居候です。」 他に表現のしようがなかった。 家族だとは思っているけれど、正確には違うのだから。 それだけで色々察してくれたのか、相手の女性は微笑み、話題を変えた。 この人だったら多分、茂の素を見せても、きっと受け入れてくれるのではないか。 美人で優しくて、気配りができて――茂が好意をもつのもわかる。 自身、女性として尊敬できるのだから。 …しばらく会話をした後、二人だけで話を…ということになった。 ドラマ風に言うなら、“後は若いお二人で…”というやつである。 それに伴い、と弘樹も外へ出た。 は、1人ラウンジでお茶をしていた。 すぐ近くに広い庭が見える。 「…結婚、オメデトウ。」 ポソッと誰にともなく言ってみる。 余りに感情のこもらない白々しい台詞に、自身が苦笑いしてしまう。 茂に言う事になるかもしれない言葉。 いつから来るだろう、茂が誰かと一緒になる日。 その日に近づく一歩目が今日。 自分がもし、あと3年も早く生まれていれば、茂は自分を女性として見てくれていただろうか…なんて、無意味な想像してみたり。 「…馬鹿みたい。」 お茶を飲み干し庭を見る。カップルが歩いていく。 叔父とあの女性ではないようだ。 「…弘樹、どこ行ったろ。」 ラウンジを後にして、弘樹を探しに出歩く。 なにかをしていないと、更に暗くなりそうで恐かった。 …結局、なにをしていても暗くなるのだが。 地に足がついていない、というのはこういうものかな、と思ってしまう。 それも、嬉しいので…ではないから性質が悪い。 「あっ、弘樹。」 ウェディングドレスが飾られているウィンドーの前に弘樹はいた。 「、どこ行ってたんだよ。」 「ラウンジだけど……弘樹迷ってたりしたワケ?」 くすくす笑うに、反論できない弘樹。 本当に迷っていたため反論できないようだ。 「…ドレス綺麗だね。」 「も一応女の子なんだね。」 「ひっどいなぁー!」 けらけら笑うに、弘樹も笑う。 多分、なんとなくだがが沈んでいる理由を察しているのだろう。 「……。」 には、ちゃんとわかっていた。 自分が茂の隣にい続けられないことを。 にとって茂が育ての親以上に大切な人でも、茂にとっての自分は違う。 茂にとって、は弘樹と同じ、家族であり養うべき子供。 それ以上でもそれ以下でもない。 「…しょうがない、よね。」 子供なら、子供のなすべき事をする。 それが茂の幸せ。 ―そう自分に言い聞かせる。 「、あれ叔父さんだ。終わったのかな。」 「……あー、待ちくたびれたっ!いこ、弘樹。」 ぱっといつものに戻る。 苦笑いし、先に進むを追った。 「叔父さんどうだった?」 家に帰ってきて食事も風呂も済ませ、ビールとおつまみを出しては茂と会話していた。 弘樹はナビがなにやらうるさいらしく、部屋にいるようである。 「凄い美人で叔父さんドキドキだったね〜。」 とぼけ調子で言う叔父。 “そっか”といつもの返事をする。 「で、OKしたんだ。」 「断った。」 「…………なに?」 は耳を疑った。 「今、断ったって言った?」 「ああ。」 「な……どうして!?」 くいーっとビールを飲んでコップを置く。 慌てて注ぎ足す。 「お前ら二人いるのに、結婚なんかするか。自分の事よりお前らのコトだよ。」 「……ごめん…なさい。私が…いなかったら……もしかしたら…。」 上手くいかなくてホッとしているのと、茂に負担をかけているのとで目に涙がたまる。 「ガキが余計な気を利かすな。」 「…どうせ…ガキだもん。」 いつもなら突っかかってくるのに、シュンとしてしまったを見て、少し心配になる茂。 「……おい、どうした?悪いモンでも食ったか?」 「食べてないっ!」 「…………なぁ、。」 ビールのグラスをテーブルに置き、体をテーブルに寄りかからせてを見た。 「俺はお前と弘樹を家族だと思ってる。…でも、見合いを責任感で断ったんじゃない。俺が断りたいと思ったから、断ったんだ。」 理由になっていないような理由を話す茂。 珍しく叔父の真剣な顔を見て、少々驚く。 「だから、お前は気にするな。お前や弘樹のせいじゃない。」 そう言われても、にとってみれば弘樹はともかく自分はお荷物、という感じが強い。 なんというか、今日のは色々卑屈だ。 「………。」 「…まぁったく、お前は思いつめるとコレだからなあ。」 茂はよっ、と立ち上がると、を抱え上げ自分の部屋に連れて行った。 「おっ、叔父さん!?」 ちょっとわたわたして暴れるが、お姫様抱っこ状態であった為、“暴れると魚みたいだぞ”と茂に言われてしまい、おとなしくする。 茂は抱っこしたまま、本棚からにアルバムを取らせ、あぐらをかいた上に彼女を座らせた。 小さい頃、よくやってもらっていた座り方。 茂の上にちょこんっ、と座るのが大好きだった。 「おじさ…」 「これ見てみろ。」 「…アルバムでしょ?」 ペラペラ中を見てみると、弘樹と自分がたくさん写っていた。 が撮ったのか、ピンボケしている弘樹と茂の写真もある。 「うわっ!叔父さん変なの撮らないでよ!」 思わず声を上げた理由は、転んだのか大泣きしている写真と、お風呂上りの全裸のの写真を見てしまったから。 どちらもかなり小さな頃のものだ。 「レアだろー♪」 にんまり笑う茂に、赤くなる。 「…こんなに写真撮ってたんだ……。」 「大切な家族だからな。」 「………叔父さん…。」 はアルバムを見ながら、頬を涙で濡らした。 家族としてずっと扱ってくれていた事が嬉しくて、血の繋がりもない自分の事を大切にしてくれているのが嬉しくて。 アルバムを抱き締めて声を殺して泣いた。 茂はの頭を撫で、微笑む。 「俺はな、弘樹の嫁と、お前の花嫁姿を見る事のほうが、自分の結婚より大事なんだよ。だから断った、それだけだ。」 は泣き止み、ごしごし目をこする。 「………私結婚しない。」 茂の方は向かず、アルバムを抱えたままでポツリと言う。 “なに言ってんだよ”と、茂がの頭を小突いた。 「…ずっと叔父さんと一緒にいる。」 「…そーかそーか、一生叔父さんの部屋の片付けしてくれるのかー、助かるなぁー!はははっ!」 頭をぐりぐり撫でると、がくるっと振り向いて微笑んだ。 「自分で片付ける努力はしようね。…眠いから寝る。おやすみなさいっ。」 「お、おい!?」 言うが早いか、茂の服を引っつかんでくーっと寝てしまう。 最初は狸寝入りかと思ったが、どうやら本気で寝ているようで。 相当心身共に疲れていたのだろう。 茂は少々困りつつ、を起こさないようにベッドに寝かせた。 「…いつの間にこんなにデカくなったんだか……。」 服をつかんでいる手をそっと離させ、の髪を撫で、愛しげに見つめる茂がそこにいた。 なにかを振り切るように自室を出て、弘樹の部屋へ。 「…あれ、叔父さん?」 「弘樹、お前まだ起きてたのか?」 「叔父さんこそ……は?」 “俺の部屋で寝てる”と言いながら、弘樹のベッドに腰掛ける。 「……一緒に寝ればよかったのに。」 くすくす笑いながら言う弘樹に、茂はごろんと横になりながら答えた。 「バカ言え。なんかあったら、亡くなったのご両親に顔向けできん。」 「……叔父さん?」 弘樹が覗き込むと、そこにはほんのり顔を赤くした茂がいた。 信じられないものを見たように驚き、茂を指さす。 「おっ……叔父さんが赤くなっている!!」 「…酒のせいだ、酒の。」 「………ふぅーん。」 ニヤニヤしている弘樹に茂はデコピンした。 「いっ……なにするんだよ叔父さん!」 「愛のムチだ。そんな生意気を言う奴は、今日は床で寝なさいの刑。」 「なっ…僕の部屋なんだよ!?」 弘樹の反論をよそに、掛け布団を一枚弘樹に渡し、自分は布団に潜り込む。 「叔父さんっ!」 「素直じゃないと、明日の夕食は闇鍋だぞー。」 「……おっ……おやすみなさい。」 しぶしぶくるまって床で寝る弘樹。 茂はなんとなく、の両親に土下座したい気分になりつつ、眠りに落ちるのだった……。 2001/6/28 ブラウザback |