Let’s battle





 は今、体育館に来ていた。
 なんでかというと、仲間である速水健吾が弘樹に稽古をつけているのを見るためである。
 瓦割りをスカスカ外している弘樹を見るのは結構楽しい。
 笑っちゃいけない…本人は物凄く真面目なんだっ……と思いつつも、口の端が引きつる

「ぜぇ…ぜぇ……。」
「瓦割りでこんなにヘロヘロになっちゃって…。速水さんなんか、あんなに元気なのに」
 弘樹にタオルを渡しつつ、はその健吾を見た。
 健吾は視線に気づいたのか、こちらへ向かってくる。


「片山はバテてるのか。」
「速水さん、私も片山ですよ。」
 くすくす笑いながらが言う。
 いつも健吾は、弘樹とを両方片山と呼ぶので、この前から弘樹を苗字で、を名前で呼ぶようにさせているのだが…気を抜くと元に戻る。
「そ、そうだな、スマン。」
「いいですって。」
 汗をかいている健吾にも、タオルを渡す。
 微笑み、受け取った。
「片山はもう少し稽古した方がいいな。」
「あ、あはは……。」
 苦笑いし、少し引きつる弘樹。
「…私も少しやってみたいなぁ。」
が空手!?」
 がポツリともらした一言に、弘樹が大げさな程のリアクションで驚く。
「なによっ!」
「凶暴性が増されても困………いや、ごほごほ。」
 に睨みつけられ、誤魔化すように咳をする弘樹。
「少しやってみるか、。稽古着なら貸すぞ。」
「はいっ。」


 ――と、いうことで。
 更衣室で着替えて出てきた
 健吾と弘樹の元へ小走りで戻って来る。
「速水さーん、ちょっと大きいみたいですけど、大丈夫ですよね。」
「大き………………………。」
 健吾は出てきたの姿を見て、思わず視線をそらし、弘樹は大きく口を開けた。
「…な、なによ弘樹に速水さんてば。」
 二人の態度を見て、少し不安になる。
 なんか、着かたが物凄い間違っているのかと。
 でも、稽古着を物凄く間違って着る人間なんかいるのだろうか、と首を傾げる。
「……ちょっと……。」
「さっ、速水さん!」
 弘樹が口を開き発言する前に、が健吾に向かって話し掛けていた。
 ああ〜、と頭を抱える弘樹。
「す、少し待ってくれ。」
 さぁっ、と言われても…と健吾は思った。
 いくら武道精神を常日頃鍛えていても、やっぱり健吾だって立派な男。
 理性にも限界があるというものだ。
 は、その彼の限界をひょいっと越えてしまいそうな姿をしていた。
 少し大きめの稽古儀から覗く肌。少し高く上げてくくっている髪。
 そのせいで、たまに見えるうなじ。
 周りの男子ですら目線を送っている事に、彼女は気づいていないのだろうか。
 …全く気づいていない辺りがなのだが。

「…速水さんがこないなら、私が行きますよ。」
「!?」
 突如、から繰り出された蹴りを片腕で受けた。
!?」
 弘樹が驚く。健吾も驚いていた。弘樹とは別の意味での驚き。
 弘樹は突然が健吾に攻撃したことに対して驚いていたのだが、健吾の方の驚きは、の蹴りの高さに対しての驚きだった。
…、お前どこかで習ったのか?」
 健吾は構えて間をとりつつ、言葉をかける。
「小さい頃、父に。」
 親の顔は覚えていないが、父親に習った少しばかりの武術は覚えていた。
 覚醒能力の代わりになるように、と、教えられたものだった。
「そうか…さぁ、来い!」
「はいっ!」
 弘樹が見ていてハラハラするぐらいの攻防だった。
 健吾は手加減しているが、も結構頑張っている。
 元々のの体の柔軟性があってか、まるで体操を見ているような避け方。
 ちなみに、覚醒能力は全く未使用である。
 健吾がの腹に一撃入れた。
 といっても、軽くだが、それでも疲労のたまっていたはへたり込んだ。
「だっ、大丈夫か、!?」
「はぁっ…大丈夫です。…疲れたぁ……。」
 汗を拭きつつ、正座で話をする。
「なかなかやるものだな…片山よりセンスあるんじゃないか?」
「ひっ、酷いですよ速水さん!」
 少々ショックを受ける弘樹を見て、二人とも笑いをこぼすのだった。


「速水さん、今日はありがとうございました。」
 ヘロヘロの弘樹は、すでに帰宅。
 結局最後まで道場にいたは、片づけまで手伝って健吾に家まで送ってもらった。
「いや…また道場に来るといい。…と、女性に言う言葉ではないな。」
 ちょっと慌てる健吾に、“大丈夫ですよ”と笑いかける
 その微笑に少々見惚れてしまい、ポーっとする彼。
「…速水さん?」
「あ、いや…なんでもないんだ。…今度どこかに遊びに行こう。が嫌じゃなければ…だが。」
 キョトっとしているのその態度に、顔が真っ赤になる。
 勢いとはいえ、なんてことを口走ったのだっ、と、その場を駆け出したい気分だったが、それは彼女の一言で破られた。
「…はい。」
「―――なに?」
「ですから、はい、です。今度どこ行くか決めましょうねっ。」
「あっ、ああ…。」
 楽しげに笑い、それじゃ、と手を振って走り出る
 健吾はしばらく呆然としていたが、の返事が頭に回るとにやけそうになる顔を必死に自制し、自宅へと走った。

 次の日、後輩に何処がいいデート場所か聞く健吾の姿があった。
 硬派 台無しである。





2001/6/29

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