Drive Your Dream’s




 18歳になった片山が、一番最初に望んだもの。
 それは…運転免許。
 期間をかなり残して、教習所での勉強も終わり、本日試験が合格すれば晴れて運転免許保持者だ。
 バタバタと走る音がして、ドアが勢いよく開いた。
「やったーー!やっと取ったよ免許ーーーー!!」
 家に帰って来ての第一声がこれだった。
 弘樹もの後ろから、のろのろと出て来る。
 と弘樹は、一緒に免許を取りに行った。
 二人とも合格…の割には暗い弘樹。
 茂と、その場に居合わせた啓介は不思議そうな顔をした。
「弘樹君、なに暗くなって…?」
「だって五十嵐さん…免許証の写真写り……最悪で……はぁ…。」
「………。」
 別にどうでもいいと思う、とは言わないでおく。
 啓介はに微笑むと、『二人ともおめでとう』と言葉をかけた。
 嬉しそうに微笑むを見る彼の目は、とても優し気だ。
「…そうだ、ちゃん、明日日曜だし、どこか出かけないか?」
「え?」
「もちろん、君の運転で。」


「弘樹君はいいとして、なんでシゲさんまで?」
「まぁ気にするな。」
 皆で出かけることが嬉しいらしく、にこにこしているの前で…まさか二人きりでいたいとも言えず、結局、四人でドライブすることになった。
 運転席に、助手席に啓介、後ろに残り二人が席を確保。
 車はAT(オートマ)である。
 …ちなみに、いつも啓介が乗っている車ではなく、茂と啓介の会社から奪ってきた社用車だ。
 バレるとちょっとヤバイかもしれない。
 啓介の車はマニュアルなので、弘樹はともかくは運転不可なので仕方ないが。
「えーと、どこ行くんですか?」
 弘樹の問いに、目的地を決めていなかったことに気付く他一同。
 どうしたものかと考え、折角なので紅葉でも見に行こうかということになった。
(ということで、今は秋真っ盛りである)
 海底トンネルを抜けて延々と走り、新都市を抜けて暫くすると見える山裾まで、とりあえず行くことにする。
 …初心者にはキツイのだが、啓介は自分が運転するのに慣れてしまっていた為、
 が運転するということを余り深く考えていなかった。
 弘樹は、嫌な予感がじんわりと身を包んでいることに気がついたが、止めることが出来ない。
 …いざとなったら、スペクトラルドームで車ごとガードだ、と、思いを廻らせる。
「じゃあ、とにかくトンネル抜けようか。」
「はいっ。………えぇっと…。」
 エンジンをかけて、ギアをドライブにいれて発進。
 何か忘れていませんか、さん。
 ――と、弘樹は心の中で思った。
「……ちゃん、ハンドブレーキ。」
「あ!ごめんなさい!!」
「っうわ!!」
 アクセルふかしたまま、いきなりハンドブレーキを下ろすものだから、一気に加速してお向かいの壁に衝突しそうになった。
 慌ててブレーキを踏んだので、大事には至らなかったが……。
 を除く三人は、青ざめている。
「し、失礼…。」
「ひ、弘樹君、ちゃん、よく試験受かったね…。」
「……大丈夫です…基本的には安全運転…ですから…。」
 言う弘樹も自信なさ気だ。
 茂に至っては、恐怖の余り眠ろうとしている。
「…ちゃん、慌てずに行こう。」
「はいっ、先生!!」
「……ち、違うから…。」
 汗を額に浮かせつつ、溜息をつく啓介と弘樹。
 非常に先が怖い。

 弘樹や啓介、茂が心配するほど酷い運転をすることはなく、基本的には安全運転というのも頷ける。
 そろそろ休憩しようか、という所になり、弘樹がハッと気付いたように青ざめた。
「どうした、弘樹君…?」
 それが危険予告であるかのごとく、啓介が弘樹に話し掛ける。
 の方は目の前に必死で、話し掛けて気を散らして事故られても困るので、余り話し掛けない。
苦手なんです…。」
「なにが?」
「………駐車。」
 一同、またもを除いて、真っ白になりかかる。
 とはいえ、茂は恐怖の余り熟睡しているので実質二人だが。
 …だが、駐車が苦手というのなら、啓介が手伝えばいいこと。
 休憩所の駐車場につき、手ごろな所を見つけて入れるように啓介が指示をする。
「…えーと。」
 丁度開いている所を見つけ、酷く緊張した面持ちでがバックし始める。
「うわ。」
 後ろも見ないでバックしはじめるに、慌てて弘樹が後ろの確認をした。
 額に汗しながら、ゆぅぅっくり車を後退させる。
ちゃん、もう少し右に――」
「右!!」
 ぐぃぃぃっと思い切り右にハンドルを切るに、悲鳴を上げる弘樹。
 スペクトラルドームをかけることも忘れている。
 慌てていて、“少し”というフレーズをスッポ抜かして聞いた
「行きすぎ!!ちゃんハンドル戻して、ちょっと前だして…そうそう。」
「ゆっくりゆっくり…。」
 今度はすっと入る。
 停車措置を取り、エンジンを切ると、も啓介も弘樹もヘロヘロになった。
 唯一寝ている茂のみ、いい気分だが。
「…ちゃん、暫くは…最低二人で乗れよ?…一人は危ない…。」
「わ、私もそう思います…。」
 眠りこけている茂を残して、紅葉を見に行く。
 ついでに、食事もしに。……茂、昼抜き。


 じっくり紅葉を堪能した三人。
 …啓介と弘樹がけん制しあっているように見えるが、それはさておき。
 ヘロヘロに疲れてしまったと替わって、帰りは弘樹が運転することに。
「弘樹君、無茶しないでくれよ?」
「大丈夫ですよ。」
 さっさと発進準備をして、進んでいく。
 ……上手い。
 上手いと言っても、啓介と比べてはいけないけれど、と比べると格段に上手い。
 同じ場所で習ったとは思えないほどだ。
「弘樹君、そこ右。」
「はい。」
「うわー、弘樹カッコイ〜。」
「そ、そうかな?」
「うん、惚れる。」
 ニコニコしている弘樹とに対して、啓介は一気に不機嫌になった。
 自分の前で、好きな女が他の男とイチャイチャしていれば、誰だっていい気はしなかろう。
 たとえそれが一緒に住んでいる家族でも。
 …家族にも嫉妬といのは、少し行きすぎかもしれないが。
 隣からかもし出される殺気じみた空気に気がついたのか、慌てて弘樹はマジメな表情に戻った。
「五十嵐さんの車って、マニュアルですよね?」
 いきなりに話を振られ、少々ばつの悪そうな顔をしながら『そうだよ』と答える。
「じゃあ、上手くなっても私乗れないね。」
 というより、啓介が他人に自分の車を貸し出すとは思えなかったが。
 物凄く大事にしている愛車だ、傷なんぞつこうものなら…啓介の逆鱗に触れそうで怖い。
 ニコリ微笑み、に顔を近づけた。
「俺の車に乗るときは、ちゃん助手席。…の特等席だからな。」
 啓介の口唇に、の口唇が塞がれる。
 瞬間。
 弘樹が急ブレーキを踏んだ。
「うわっ!!」 「っわ!!」
 が後ろに、重力に引っ張られるようにして座り込み、啓介は慌ててイスを掴んで体を支えた。
 …がお尻で茂を踏んでしまったのは、この際不慮の事故ということにしておこう。
 ……気付かないでまだ寝てるし。
「ひ、弘樹君…一体…?」
「いえ、子供がいたもので。」
 にぃっこりと微笑む弘樹に、と啓介は威圧感を覚える。
 ――弘樹はルームミラーに映る、二人のキスシーンをばっちり見てしまい、怒りの余り、思わず急ブレーキを踏んでしまったのだった。
 後続車ゴメンナサイ。


「「今日はありがとうございました。」」
 ペコリと啓介にお辞儀をする二人。
 もう一人は車から運び出され、無造作にリビングに転がっている。
「いや、いいんだ。…なかなかスリルがあったし…。」
 彼の言葉に、あはは〜と誤魔化し笑いをする
「それじゃあな、ちゃんに弘樹君、シゲさんも。………、あ、ちゃんちょっと。」
「はい?」
 手招きされ、てほてほと寄って行くと、耳元で彼が囁いた。
「今度は俺と二人で、出かけような。」
「えっ!?」
 ―ちゅ、と頬にキスを落とす。
「い、五十嵐さん!!」
 真っ赤になって反抗するの頭をなで、『じゃあ』と言って爽快に去っていった。
 ポーッとなるに対して、至極不機嫌な弘樹。
 こうして、大変?な一日が終わりを告げたが…。
 本当に大変なのは、いつまでも眠り続ける叔父を、ベッドまで運ぶことかもしれないとどちらともなく思った。





2001/12/2

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