奪取商品




 年に一度だから。大切な人の生まれた日だから。
 自分で出来る精一杯の事をしたいと‥‥思うのに。
 それなのに、この男は‥‥。

「弘樹、誕生日プレゼントなにが欲しい?」
「そうだなぁ‥‥トイレットペーパー、そろそろ切れそうだから、欲しいな。」

 そうじゃナシに。

 3月28日、本日は弘樹の誕生日である。
 毎年、なにかしらプレゼントを贈っているのだけれど、いつもはが勝手に決めて、プレゼントしていた。
 だが、今年は弘樹に決めてもらいたくて‥‥。
 そう思うにも、きちんと理由がある。
 毎年毎年、は自分が弘樹が好きそうなものを贈っていた。
 長い付き合いだから、好みとかを聞く必要も殆どなく、渡した物も喜ばれていた。
 ‥‥だが、いい加減ネタが切れてしまったのだ。
 どうも、今まで渡した物とかぶってしまう。
 悩んだ結果、どうせだったら弘樹に決めてもらおうという結論に達した‥‥のだが、当人がこれでは、どうしようもない。
 プレゼント=何が欲しい=トイレットペーパー=日用品=プレゼントじゃない。
 こんな図式が、の頭の中に展開された。
 本気でそういうプレゼントを所望しているのだろうから、尚更性質悪し。
 は弘樹と一緒に下校しながら、彼がなにを欲しいかしつこく聞いた。
 けれど、結局聞き出す事はできずに、家についてしまう。

「‥‥ねぇ弘樹、ホントにトイレットペーパーが欲しいワケ?」
 リビングでジュースを飲みながら、は弘樹を睨んだ。
 別にプレゼントを押し付けようと思っている気はないが、たまには弘樹のおねだりを叶えたい。
 いつもは、自分ばかりがおねだりやお願いをしているから。
 弘樹はちょっと困ったような表情を浮かべた。
「そういう訳じゃないけど‥‥、だって、僕、もうプレゼント貰ってるし。」
「??」
がいつも傍にいてくれる事が、僕にとってはプレゼントなんだよ。」
 にこり、人のいい微笑を称えながら、凄い事を言う。
 私がプレゼントですか、と思うと、ガックリくると同時に、嬉しく感じる
 でも、昔から傍にいるし。
 今日のこの日のためのプレゼント、という感じはしない。
「でも、それじゃあ私の気が‥‥‥‥。」
「それに、実はからもう一つ貰ったものがあるし。」
「――なに。」
「ヒミツ。」
 くすくす笑う弘樹。
 今度は、なにを貰ったのかと問うの姿があった。

 実は朝、弘樹はを起こしに部屋へ入って、あまりの寝顔の可愛さに、思わずキスしてしまった。
 ‥‥本人の承諾ナシで。
 そんなワケで、弘樹にしてみたら、凄い誕生日プレゼントを”勝手に”貰ってしまった事になるため、他のプレゼントを貰うつもりは毛頭なく。
 が起きたときには既に、”貰わない”という意思でいた。
 彼女が知ったら、きっと顔を真っ赤にして怒る。
 忘れた頃に、言おうと思う。

「弘樹ってば!理由はっ!!?」
「言わないよ〜(って言うか、言えない)」
「‥‥意地悪っ!!」




2002・3・28

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