ダレノ? 「影守さん、こんにちは。」 休日、は病院に顔を出した。 別に聖の診察室にいる訳ではなく真由香の病院に来たのだが、丁度聖もいたのだ。 「ああ、女片や……」 「お姉ちゃんっ。」 聖の言葉を遮り、真由香がひょこっと現れた。 言葉を遮られた聖がちょっとムッとするが、とりたてて文句をいうことでもないと思ったのか、そのまま口をつぐんだ。 は『お邪魔します』というと、部屋の中に入り、扉を閉めた。 「真由香ちゃん、こんにちはっ。この前約束した物、持って来たよ。」 「えっ!本当!!?」 真由香の顔が喜びに輝く。 はにっこり微笑んだ。 一向に話の内容がつかめない聖は少々苛立ち、に視線を送った。 「、約束とはなんの事だ?」 「ああ、それはー……。」 ちらっと真由香の顔を伺ってから、聖に事情を話した。 この前、真由香のお見舞いに来た時、好きなお菓子の話になり、今度来る時にはクッキーをたくさん焼いて持って来る、という事になったのだ。 クッキーだけではなんだかわびしいので、プリンも作って持ってきた。 伊達に片山家で(当番の日は)料理を作っているわけではない。 特に自分の好きな物となると、美味しく作ろうとする努力だって惜しまない。 …嫌いなものには目もくれない、というのはこの際置いておく。 「……すまんな。」 「?」 聖にいきなり謝られ、疑問符が飛ぶ。 「うちのじゃじゃ馬が迷惑かける。」 「影守さん…迷惑じゃないですって。妹が出来たみたいで嬉しいんですよ?」 本当に嬉しそうに微笑むを見て、聖も顔を緩ませた。 「そう言って貰えると助かる。」 ふわり、微笑んだ彼を目の当たりにして、は少し赤らんだ。 真由香の視線に気づいて慌てて取り繕うように笑ったが。 「ねー、お兄ちゃん、真由香、外で食べたいな。」 「………余り他人に迷惑かけるなよ。」 「はぁーい!」 元気よく返事をし、“お姉ちゃん行こう!”との手を引き、真由香は病院内にある中庭へと出た。 外来の人もかなりいて、結構賑わっている。 と真由香は近場のベンチに座ってお菓子を広げた。 こんなことならお弁当も持って来ればよかったとちょっと後悔する。 「影守さんにも少し残しておこうね。」 「……ねぇ、お姉ちゃん。」 クッキーを一口かじり、真由香が真剣な表情を向けた。 なにか大事な話なのかと息を呑むから視線を外さず、口を開いた。 「お兄ちゃんの事、どう思う?」 「………え?」 いきなりの真由香からの聖についての質問に、ちょと動きが止まる。 思わずクッキーを落としそうになった。頭の中をぐるぐる言葉が回る。 「…キライなの?」 「そっ、そんなことないよ、好きだけどー……。」 “好き”の一言を聞いた瞬間、真由香の顔がパッと明るくなった。 「じゃあお兄ちゃんと結婚して、真由香の本当のお姉ちゃんになって!」 「え…えええ!!?」 いきなり結婚とか言われて思わず大声を上げてしまう。 周りの視線に気づいて慌てて口元を押さえはしたものの、バッチリ視線を受けてしまった。 は自分を落ち着かせるように大きく息を吸って吐くと、苦笑いしながら、真由香に“それはちょっと…”と返事をした。 途端に両頬を膨れさせる。 慌てて取り繕うように真由香に言い聞かせた。 「ほらっ、影守さん私のこと余り好きじゃないみたいだし…。」 「お兄ちゃんが?…甘いなあ、お姉ちゃん…。」 そもそも、聖が嫌いな人間と会話なんかしないとは思うのだが。 とにかくは余り聖に好かれていないのではないかと思うことが多々あった。 「甘いって…。」 「お兄ちゃんはね、無愛想にテレてるのよ。」 無愛想にテレる……は首をかしげた。 「今度お兄ちゃんの事、名前で呼んでみてよ。ぜぇったい反応起こすから。」 「う、うん…。」 がコクンと頷くと、真由香は満足気に微笑んだ。 妹である自分には、兄の聖が誰を思っているかなんてちょっとした動作ですぐわかる。 確信を持って、兄はが好きだと言えた。 真由香の頭の中には、色々と面白そうな―…否、幸せそうな、聖とのやりとりが展開されていたのだが……。 ある人の声によって、それは半ば強引に中断させられた。 「、こんな所にいたのかい…。」 「あ…御剣さん、こんにちは。」 真由香はぎょっとした。 兄からよく聞いている、あの悪名高い科学庁の悪秘書官(かなり失礼)が、と親し気に話しているからだ。 それも話の内容から察するに、かの御剣晃はを探していたようだ。 しかも、もなんだかんだ嬉し気なのが少々気に食わない。 「今日はどうしたんですか?」 「美味しいケーキがあるんだけど、食べに行かないかい?」 晃の台詞に顔を輝かせる。 微笑んでいる晃を見て、真由香は思った。 この男は敵だ!と。 多分、を餌付けしているのだろう。 聖にはできない芸当だ。 「ダメーーーー!!」 立ち上がり、晃に向かってビシィッ!と指をさす。 ビックリしている2人を見ながら、真由香は晃に睨みをきかせた。 「ああ、君は影守の妹か。」 「お姉ちゃんは、アンタみたいな悪の大魔王なんかに渡さないわ!」 晃がムッとして眉間にしわを寄せた。 「失礼な子だね…さすが、毒舌影守の妹なだけはあるな。」 「あ…あの、御剣さん…真由香ちゃん…??」 を間にして、晃と真由香の間に火花が散る。 背景は炎、といったところか。 真由香がフン、と鼻を鳴らした。聖そっくり。 「大体、日曜だってのに私服も着ないで会いに来るあたり、お姉ちゃんを科学庁に連れ込もうとしてるんじゃないの!?」 晃がうっ、と詰まった。 まさにその通りだったからだ。負けじと晃も応戦する。 「心外だね、連れ込むなんて事はしないよ。ただ、に楽しんでもらおうと思っているだけだ。」 「真由香やお兄ちゃんといるほうが、お姉ちゃんは楽しいの!」 余りに大声なため、かなりの好奇な視線を向けられているのだが、2人は全く意に介さない。 慌てているのはだけだ。 3人を囲むようにして輪が出来ている。 片方が科学庁のお偉方なだけに、注目度合いも相当なもの。 「日曜だというのに仕事ばかりの影守が、を楽しませる事なんて出来ないと思うけど?」 「くぅーっ!」 ひょいっと晃の手がの腰を掴んで、自分の方へ引き寄せた。 「御剣さん!?」 「あっ!離れろこの変態ーーーー!!」 「失敬な。」 しかし、が自分から晃を押した。 「?」 「ごめんなさい、今日は真由香ちゃんと約束してたから…また今度誘ってください。」 「…ふぅ、仕方ないね。」 溜息をつくと、抱いている手を緩めてを離した。 ちょっとホッとしながら、真由香を見る。 ――かなりいきり立っている。 「やっぱり振られた。」 にんまり笑いながら言う真由香をじっと見て、もう一度深々と溜息をついた。 「…いい性格だね、君。」 晃は半ばゲンナリしつつ、に“じゃあ”とだけ言うと、その場から立ち去った。 頭の仲では、真由香をなんとか自分の味方につけられないかと考えながら。 やれやれ、とイスに座る。 「疲れた……。」 「真由香、お姉ちゃんを守りきったわ!」 「あ、ありがと…。」 軍配は真由香に上がったか、なんて思いながら、クッキーを1つ頬張る。 周りの野次馬もばらけていった。 「…影守さんに、クッキー持っていこうか。」 「うん。」 とんでもなく疲れを感じながら、クッキーを聖に持っていくために広げたものを片付け始めた。 「あ、お姉ちゃん。」 「ん?」 「名前で呼んであげてね、お兄ちゃんのコト。」 その後、に名前で呼ばれた聖は表面上なんら変わりなく、“やっぱり好かれてない”と少しガックリくるを余所に、妹の真由香だけが、兄のほんの少しの変化を読みとっていた。 これは、もう少し私が頑張らないと!と意気込む真由香。 「真由香、まだまだ頑張るわよー!」 元ネタをyukiko様から頂きました、真由香VS晃、のお話です。 練り方が足りなかったか、中途半端な出来になってしまいました…申し訳ないっ!! 機会があればリベンジということで、また書いてみたいです。 えー…いらないでしょうが、yukiko様に捧ぐ。 名前勝手に出しちゃってスミマセン〜。不都合あるなら名前消します(汗) 2001/9/9 ブラウザBack |