My name ボクは望まれていない ボクの周りは悪意ばかり だからボクは目を閉じる なにも見えないように だからボクは耳を閉ざす なにも聞こえないように だから ボクの声は ボクにも聞こえない 声は 想いは 誰にも届かない 『どうして、ずっと目を閉じて俯いているの?』 ボクは、俯いたままだった。 …ボクは、片山弘樹の中にいる精神体……。 ひろきの兄である弘一の中にいる、タナトスの片割れ。 生まれついてはいけない存在なのだと周りから見られる度に、ボクが認められない世界なら壊してしまおうという考えさえ頭に浮かぶ。 だから、ある意味では今の宿主…ひろきの言葉は、ボクには愚問ですらあった。 『目をつぶっていれば、嫌なものを見なくても済む。』 聞こえたり見えたりするのは、皆、ボクの存在を認めないという意味合いのことばかり。 そんなもの、見たくもないし聞きたくもない。 「でも、いいことも見逃したり聞き逃したりしちゃうよ…?」 『いいこと?そんなの、無い。』 ボクの言葉に、ひろきは困ったようだった。 多分、ボクの発した言葉に対しての明確な返事が出来ないからだろう。 だがすぐに気を取り直したようだ。 同じイデアに住むもの同士、感情の変化はすぐにわかる。 「じゃあ少しの間、僕の身体を使ってそれで決めて…でも、君にとって危ないことはしないでね?」 ひろきの言葉もあるし、少しの間だけなら表に出てもいいかもしれない。 お遊びとしては丁度いい。 ダメなら又、今までのようにしているだけだ。 そう思ったボクは、ひろきの言葉に頷き、ゆっくりと目をあけた…。 「じゃあ、タッチ……。」 『うん…。』 ひろきの手が伸びてくる。 ボクは、その手に触れた―――― 目をあけると、家の中のようだった。 兄はいないようだ…と、突然インターホン鳴った。 なるべく弘樹らしくしようと思いつつ、玄関の鍵を開ける。 「弘樹、遊ぼっ!」 目の前にいる少女を見て、すぐに判断がついた。 確か、隣に住んでいるという子だ。 とにかく、ボクは今ひろきだから…ひろきらしく振舞おう。 「う、うん、どこで遊ぶ?」 「公園!」 外は暑くもなく寒くもなく、丁度いいぐらいだった。 に連れられ、公園に着く。 暫く色々と遊んだ。 いい加減疲れてきた頃、休憩のためにベンチに座る。 結構暴れたので、じんわりと汗をかいた。 …肉体的に汗をかくというのを始めて経験したような気がする。 精神体では、汗をかくというのも感覚でしかない。 そんな事を思っているところに、いきなりが話し掛けてきた。 「ねぇ。」 「…なに?」 がその大きな瞳をきらきらさせて語りかけてくる。 余りに顔が近くて、少し身を引く。 ……宿主の心音が高鳴ったことはすぐにわかった。 ひろきは…このコに愛情とやらを抱いているらしかった。 そんな事を考えていると、は突然ボクの目を見て言った。 「あなた、だぁれ?」 にっこり微笑まれながら聞かれ、一瞬絶句する。 自分では凄くひろきと同じ行動をとっていたと思うのに……という驚きと、別のものと知っていても一緒にいるに対して驚いてしまう。 今更どう隠しても誤魔化しても、きっと彼女は気づくよ、とイデア内からひろきに言われ、腹をくくる。 すでに、気づいているようだし。 「…ボクは、ひろきの中にいる、もう1人のひろき。」 …そっか、と前を向く。 人間にとっては結構驚く発言な気がするのに、彼女は酷く普通だ。 あまり重要な事ではないということだろうか。 「名前はなんていうの?」 「…ボクはタナトスの片割れだから…タナトス、が名前なのかな…。」 改めて名前は?と聞かれると、自分の名前をしっかりと認識したことはなかった。 周りの人間はボクを忌み嫌い、アレ、とか、ソレ、とか言う事が多かったし。 は“うーん”と首を傾げると、じっとボクを見た。 暫くして、思いついたようにぱっと表情を明るくさせる彼女。 「じゃあ、キミは弘(コウ)君ね!」 「……なに?」 は目を輝かせて顔を近づける。 「だって、両方弘樹って呼ぶと混ざっちゃうし…弘君かひー君のどっちか。」 「……どっちでもいいよ。」 この子が信じられない。 自分より不可思議な生き物に見えてきてしまう。 ……何故、彼女はボクを嫌わない? 大人ですら嫌うのに……。 「キミは、ボクが怖くないの?嫌いじゃないのか?」 きょとんっ、とする。 何を言っているのか分らないようだ。 俯いて、声を絞るようにボクは話を続ける。 「周りの大人は…ボクを消そうとする。ボクは嫌な夢ばかり見る。……どうして生まれてきたのかわからない……。」 そっと、がボクの手を握った。 驚いて顔を上げると、微笑む彼女がそこにいた。 「一緒に、イイユメ見ようよ。」 「……?」 「1人でダメなら、2人でイイユメ見よ。嫌なユメも2人ならイイユメになるかもしれないよ。もし、2人でもダメなら3人!」 …なんて子だろうと思いながら、自然と自分の顔が緩むのがわかった。 …そして気が付く。 この子とひろきは、ボクを許し、必要としてくれていることに。 悪夢にもなりえるボクを、許してくれている。 一緒に、イイユメを見ようといってくれている。 それだけなのに、凄く暖かい。 「…ボクにも見れるかな…イイユメ…。」 「見れるよ。」 誰だって、イイユメを見れる力があるんだよ、と、嬉しそうに言う。 ひろきにとって、彼女はイイユメなんだろう…。 ……そして、今、この時から……ボクにとっても…… 「…お帰り。」 イデアの中、ひろきと向き合う。 ひろきは“いいことあった?”と笑った。 多分、ボクがこうなる事を知っていて身体を貸したのだろう。 ひろきには、ボクがどういう心を持つかも、わかっていたのかもしれない。 謀られたようで、少し悔しい。 『ひろき……ボクにもイイユメ見れるかな。』 にしたのと同じ質問を、ひろきにも向けた。 ひろきもと同じく微笑むと“見れるよ”と言ってくれた…。 ボクは、いつもと同じ場所に座ると、目を閉じた。 目をつぶると、鮮明にとひろきの顔が浮かぶ。 ……ひろきに、たまには外に出てもいいか?と聞いた所、“うん”と躊躇せず答えてくれた。 ボクには居場所がある…。 一緒にいてくれる人がいる。 そう思いながら、ゆっくりと眠りに落ちた。 とひろきとボク。 3人一緒に遊ぶユメ。 ――もう、イヤなユメを見ることはないんだ……。 今回は普通に後書きです。 えと、一応弘樹の中にいる、もう1人のタナトスのお話なんですが…文才なくてまとまってないですね(--: 弘はコウと呼びます かなりオリジナル入りですが…ごめんなさい、寛大な心で許してやってくださいね(^^; 大きくなった版でもタナ弘樹(弘君)かきたかったりするので、複線くさいことになってますが…。 本当は弘樹と同化しているような気もしないでもないんですけどね。 ま、まあ、うちにはこういう子もいるのよって事で…許してやってください。 また出没すると思いますが…。 2001/7/17 2001/8/23 改定 ブラウザback |