Inside Blue 1




 フローリングの床の一点を見つめていた。
 磨かれた床は、周囲の色を反映して橙がかっている。
 
 ――おいで。

 幼い声が降って来る。
 その声に覚えはない。
 覚えはないのに、けれどひどく胸を締め付けられる。

 ――来るんだ、一緒に。

 ふいに視線が上げられた。
 明るい赤茶の髪、見下す視線は冷ややかな少年。
 あんたなんて大嫌いだ、と彼に言う。
 言っているのは自分なのに、どこか遠くの世界からの音のよう。
 少年の表情が、一瞬だけ悲しみの色に染まったような気がした。
 瞬きの間ほどの時間も置かず冷淡な瞳で射抜かれ、悲しそうだったなんて勘違いだったも知れないと思い直す。
 彼の手が近づく。
 額への温もりは、周りの温度と違ってやたらと冷たかった。

 ――と同じく、忘れているといい。
 ――でも、必ず。

 少年の声は静かで、額に当てられた手も気持ちよくて。
 瞼が落ちていく。

 ――必ず君を、僕のものにするよ。





 声をかけられ、はハッとして瞳を開いた。
 正面には青色をした座席の背中がある。
 右を向けば、窓の外にある空色の世界。
 フローリングの床になどおらず、飛行機の座席に座っている。
「……?」
 左隣からもう一度声をかけられ、はそちらを見た。
 夢の中の少年にどことなく似ている、落ち着いた茶の髪、透き通った青い瞳――。
「弘樹」
 ああ、そうだ。
 彼は片山弘樹――私は、片山
 片山の性を名乗っているが、決しては片山家の人間ではない。
 養子として、弘樹の叔父である片山茂に育てられている。
、大丈夫か?」
「うん……夢見てて、なんかごっちゃになってるみたい」
 ごめんねと微笑むと、弘樹は苦笑した。
「もうすぐ着くみたいだよ」
「ブルージェネシスかあ……今度はどんな所だろうね」
 引っ越し回数が並ではない片山家。
 叔父の仕事の都合で次に選ばれた場所は、ブルージェネシスと呼ばれる海上都市だった。
 そこへ向かうため、飛行機に乗って――そこで眠って夢を見てしまったらしい。
 考えてみれば、あの夢を見だしたのは、ブルージェネシス(BG)へ行くと決定してからのような気がしている。
 もっとも、単なる夢だ。
 気にすることはないだろう。
 考えることを放棄し、は窓の外を見やった。
 既に、BGの概観が見えている。
 殆どが海面下にあるという都市だけあって、海面にせり出ている部分は思ったほど大きくはない。
 機内アナウンスの『着陸態勢に入りますので、シートベルトを……』を聞き、は窓から視線を外した。




ゲーム本編の方のお話です。BG崩壊前。覚醒夜想の前のお話。ちょこちょこ更新します。
2006・9・8