初参り 一月一日、元旦。 片山家のお正月は、初詣から始まる。 「わー、寒い〜!」 外に出ると、あまりの空気の冷たさに、は思わず身震いした。 「弘樹、叔父さんっ、寒いから早く行こうよ〜。」 「もう少しぐらい、酒飲ましてくれたって…。」 「叔父さん財布忘れてるよ!」 新年でも、片山家は片山家らしい。 騒がしいのは、どんな時でも変わらないようだ。 片山家の初詣では、夜行われる。 一日に日付が変わったら、その足でお参りしに行く。 夜なので、が着物を着てお参りに行かないのが、弘樹や茂にとっては少し残念なタネ。 ブルージェネシスに神社があるのか、と問われれば、それはしっかりとあり、行事ごとにはしっかり対応している。 まあそれはともかく、お参りする為に三人は神社へと向かった。 五十嵐さんに車で送ってもらい、待ち合わせていた優美、守と合流。 他のメンツも誘ったのだが、 健吾→道場で精神統一しながら年を越すらしい 良太→家族と一緒に初詣 綾彦+深雪→龍神様にお祈り(!?) 聖→まだ仕事中で病院勤務 等等、皆何かしらの用事があって来られない模様。 ちょっと残念だが仕方ない。 本堂でお祓いをしてもらおうと、本堂へ向かって歩いていて―――いきなり声をかけられた。 「やぁ君達、奇遇だね。」 「あっ、あけましておめでとうございます。」 周りが警戒する中、はその人物――、御剣晃に、ご挨拶をする。 新年早々、彼の顔を見るとは思ってもみなかった。 弘樹が警戒して、を自分の後ろに隠す。 周りに結構人がいて込んでいるのに、晃が科学庁の人間というだけで人々は避けていく。 ある意味では、人ごみを避けられて便利ではあるが。 「おめでとうございます御剣さん…新年早々なにか?」 「おや…僕は初詣に来てはいけないのかな?」 「そうじゃないですけど…。」 弘樹が口ごもる。 タナトスが神様にお参りするというのも、中々凄いものがあると思う。 が、後ろからひょっこり顔を出して、とんでもない事を言い出した。 「御剣さんも、一緒にお参りしません?」 そのホクホク笑顔に、晃がくらくら来た。 「ダメだよ!そんな悩殺笑顔向けちゃっ!御剣さんは野獣だから所構わず――」 「随分な言い様だね、片山君。」 スミマセンとすぐに謝る弘樹。 結局、御剣晃含みでお祓いしてもらうことになった。 中でお祓いを済ませ、お神酒を飲んで出る。 入った時と違い、大分少なくなっていた。 「いるかどうかも分からない神に祈るより、僕に願った方が余程叶いそうなものだがね。」 晃が呟いた。 まあ、龍神、とか呼ばれていた人物だけに仕方ないともいえるが。 その発言を聞いて、彼の横に並んで歩いていたがクスクス笑う。 「でも、御剣さんに頼むと、代償が大きそうだし。」 「のためなら、いくらでも叶えるけど?」 何を望まれるか分からないだろう、と、後ろにいるほかのメンツは思った。 楽しそうに笑いあう二人が、物凄く面白くない。 まるで恋人のようなと晃を割るようにして、啓介が間に入った。 「ちゃん、明日の‥‥いや、今日の予定は?」 その態度に、晃が眉をひそめる。 「随分、大人気ないんだね。」 晃が不機嫌なのを隠そうともせず、冷ややかに攻撃する。 だが、啓介はそんな事ではびくともしない。 「独り占め、というのは良くないんじゃないかな、御剣君。」 実にトゲトゲしい。 険悪な二人から逃げるように、は守に話し掛けた。 「大塚君、何をお願いしたの?やっぱり研究のこと?」 いきなり話を振ったが、驚く事もなく守は優しく言葉を返す。 「うん、新しいエネルギーの研究がうまくいきますようにって。」 「さすが大塚君!私も応援のし甲斐があるよ〜。」 本当に、嬉しそうに守は微笑んだ。 好きな人に応援してもらう事が、こんなにも嬉しいものなのだと彼は知った。 が守の後ろの方を見ると、そこでは茂が甘酒を飲んで酔っている姿が見て取れる。 ‥‥新年早々、怒る気にもならず、そのまま放置する事に決めた。 優美ちゃんがお世話をしてくれているので、心配もないだろう。 「。」 「うん?」 弘樹に呼ばれ、傍に歩いていく。 『ちょっと一緒に歩かないか?』と言われ、なんで許可を得るんだろうかと不思議に思ったが、素直に『いいよ』と答える。 寒さで赤くなっている弘樹の頬に、が己の冷たい手を触れさせた。 「わー、冷たい‥‥。」 「の手だって、冷たいじゃないか。」 「だって、寒いもん‥‥。」 は己の手に息を吹き掛け、擦り合わせて暖を取ろうとするが、すぐにまた冷えてしまって余り意味を成さない。 「‥‥、ほら。」 「あ。」 弘樹はの手を掴んで、自分のコートのポケットの中に入れさせた。 彼の手の温度と、コートの中にある体温とが、とても暖かい。 普通なら恥ずかしいと感じるような行為だが、家族だから別段恥ずかしいとも感じない。 弘樹の方は、そうではないようだが。 頬の赤みは、外が寒いからか、それとも恥ずかしいからか。 「‥‥片山君、ちょっとずるいんじゃないか?」 「御剣さん、別に僕は―――。」 「でも暖かくていいですよコレ。」 が悪びれもせず、晃に微笑みかける。 じゃあ、とばかりに晃もの手をひっぱり、自分のコートの中に入れさせた。 「これで両手温かいだろう?」 「あの‥‥暖かいですけど、あの‥‥撫でないで下さい‥‥手。」 「暖かくなるように、さすってあげてるんだよ。」 絶対嘘だ、触りたいだけだ! と、周りの視線が物を言うが、当人はいたって涼しい顔。 「‥‥おい。」 「あれ!?影守さん!!お仕事は‥‥」 いきなり現れた聖に、驚く一行。 仕事をほっぽり出して、初詣に行くような人には見えないし。 「ああ、ちょっと抜けさせてもらっただけだから、すぐに戻るが‥‥。」 おめでとう、と、無愛想に付け加える聖に、は嬉しそうな顔をしながら挨拶を返した。 「‥‥貴様等、その手を離せ。」 の手がどこに入っているかを見て、聖の眉がひそめられる。 弘樹が慌てて手を外そうとしたが、がそれを阻止。 一方の晃は、言われたぐらいでやめてやるものかと言わんばかりに、更にの手を強く握る。 「これやってると少し暖かいんですよ〜。」 「‥‥まあいい。、今日昼過ぎ頃にお前の家に行きたいんだが。」 真由香ちゃんが片山家で一緒に新年を過ごしたい、と駄々をこねているらしく、行っても大丈夫か聞く為に、仕事を少しばかり抜けさせてもらったということだった。 ‥‥自分も片山家(とくに)と過ごしたいから、ということは伏せておいて。 「大丈夫ですよ、御節とお雑煮作って待ってますね。」 「ああ、すまないな。」 「、僕も行っていいかな?」 「えっ!?御剣さんもですか!!?」 別にいいですけど‥‥と、答えると、にんまりと笑った。 呆然とする弘樹。 酔っ払い真っ最中の茂。 研究そっちのけで、僕も行きたいと言う守。 酒を持って、勝手に乱入しようとしている啓介。 そして、この寒いのに寒さをかもし出している聖。 片山家のお正月は、いつもと同じく騒がしいようだ。 不完全燃焼〜‥‥‥役得さんは誰でしょう。 もっと長くて、後にはおせちバトルもあったんですが、頭が正月ボケしていて断念。 まあ、時期ネタっていつもこんなもんなんですけどね、私‥‥苦手みたいで;; なにはともあれ、今年もよろしくお願い致します〜! 2002/1/2 back |