choko getter




 バレンタイン。
 女性が、意中の人にチョコレートを押し付け‥‥もとい、差し出す日。
 決して、チョコレートを売る為の大人の戦略の日ではない。
 好きな人がいる女の子にとっては、そんな事はどうでもいい事なのだけど。
 毎年、茂は会社の女性社員からチョコを貰って栄養補給し、弘樹は、一つ二つチョコを貰ってニヤけているし。
 そんなバレンタインデーが、今年もやって来た。

ちゃん、チョコレート持って来た?」
 開口一番、優美に言われたセリフはこれだった。
 は、”一応持って来た”と告げる。
 折角前日に、優美や智美と一緒にせこせこと作ったチョコレートだ。
 これで忘れて来たとか言ったら、遅刻覚悟で取り戻らされそうだし。
「持って来たけど‥‥さぁ‥‥問題がね。」
「問題?」
「二人で何こそこそ話してるんだい?」
 いきなり割って入った弘樹に、少し驚くと優美。
 なんでもないのと慌てて手を振る。
 気になっている風の弘樹を半ば無理矢理良太の方へ追いやり、話を続ける二人。
「で、何が問題なの?」
「‥‥あげる人が。」
 そう、チョコを作ったはいい。だが‥‥差し出す人間に問題があった。
 覚醒仲間は皆、大切な友人だ。なのに、作れたチョコは一個。
 型にはめて冷やした、なんていう簡単な代物ではない為、数を作る事が出来なかった。
 覚醒仲間(男)全員に渡そうと思っても、それはちょっと無理である。
「優美ちゃんはいいよね〜、弘樹でしょ?」
「えっ、そんな‥‥っあの‥‥。」
 ポッと頬を赤らめ、慌てる彼女は女のから見ても、羨ましいぐらい女性的だ。
 弘樹がちょっと羨ましい。
 別に変な意味ではなく、彼女の料理の腕なのだから、作られたチョコが物凄く美味だろうと言う事に対して、羨ましいのである。
 ‥‥弘樹、今年はモテモテだなと思いつつ、カバンに入っている自分のチョコを思って
 小さく溜息をつく。
 誰に渡したものか‥‥。


 結局、誰にも渡せず放課後になってしまった。
 聖に渡そうかとも思ったのだが、医学科女子集団+聖ラヴの人たちが囲んでいる状態で、その中に突っ込んでいくのはかなり勇気がいって止める事に。
 大体、不機嫌MAX状態の影守聖に、不用意に近づかない方がいい。
 いつもより激しい毒舌攻撃をくらってしまいそうだ。
 啓介は、沙夜香にもらうだろうからと除外した。
 健吾‥‥彼がチョコレートを喜んでもらうタイプには見えないし。
 良太は‥優美からもらえると信じて疑わないので、除外。
 それが義理であろうと、優美からもらえれば、良太は嬉しい‥‥だろう。
てほてほと歩いていると、後ろから声がかかった。
「おーいーー!!」
「?あ、要。」
 息を切らして走ってきて、何かと思えば‥‥。
「今日って何の日だか知ってるか?」
 わくわくしています、という顔。
 ちょっと可愛い。
「‥‥バレンタインデー。」
「チョコ誰にやったんだ?」
「何でそんな事聞くのよ。」
 少し引きつりつつ返事を返すと、要はマジメな顔して斬り返した。
「気になるからに決まってるだろ。」
 真剣な要の表情と声に、少し心音が高鳴る。
 だが、次の瞬間にその心臓の高鳴りは意味のない物と化してしまった。
「余ってたら、俺がもらって帰るんだからさ!今日の収穫!」
「‥‥‥‥残念だけど、本命一本なので。」
 義理はございません、と、笑顔で言ってやる。
 別に本命に渡すチョコでもなかったんだけれど、折角のバレンタインチョコを、いつもと同じような‥‥現物支給のハンバーガー屋バイトのような感じで扱って欲しくない。
「じゃあじゃあ、本命でいいから‥‥」
「私用事あるから、帰るね〜♪」
「あああ、〜!!」
 ‥‥冗談でも、好きと言えば渡したものを。

 要を振り切り、メトロライナーに乗る。
 そこには、いつも研究で忙しい大塚守がいた。
 にこやかなその笑顔に、クラクラな女性も多い事だろう。
「あれ、今日は片山君と一緒じゃないんだね。」
 いつも横にあるはずの弘樹の姿が見えないのは、それなりに訳がある。
「うん、優美ちゃんと、智美さんと、泉さんにとっつかまってる。」
 チョコを貰って、デレデレしている弘樹の姿を見るのも何だか嫌な感じだったので、置いてさっさと帰って来てしまった。
 弘樹、今年は大盛況のようである。
 自分のチョコの出番はなさそうだ。
 ‥‥少し、寂しいけれど。
「三人かぁ‥、片山君、モテるね。」
「そう言う大塚君は?」
「うん、まあ‥‥そこそこ。」
 そこそこ、と言いつつ、その手に持っている紙袋の中身はなんでしょう。
 思いっきり包装されている、チョコではないでしょうか。
 あえて、突っ込まない事にした。
ちゃんは、誰に‥‥?」
 少しだけ、期待している目。
 しかし、はそれに気付かない。
「うぅ〜ん‥‥考えてはいるんだけどね。」
「‥‥そっか。」
 自分の名前は出ないのかと、ガックリする守だった。
 誰にあげようとしているのか気になり、名前ぐらいは教えて欲しいといわれたものの、自身にも誰に渡すか考えているので、教えられない。
「残念だよ。」
 そう言う、守の笑顔は物凄く寂しそうだった。
 たとえ、その笑顔の裏側でのチョコをもらった人間を、痛い目にあわせてやろうと思っていたとしても。

 マンションの前に着くと、見慣れない車が駐車しているのが見て取れた。
 何だろうと不思議に思いながらも、横を通り過ぎようとした瞬間‥‥。
「!?」
 ドアが開かれ、いきなり手を引かれた。
 気付いた時には、車の中に収まってしまっている。
「な、なに!?」
「やあ‥‥、奇遇だね。」
 自分で引っ張り込んでおいて、奇遇もなにもないもんだ。
 声の主を睨みつけながら、律儀にも、一応挨拶した。
「御剣さん、こんばんは。‥‥なんの御用でしょうか?」
「今日がなんの日か、知っているだろう?」
 その理由でここまで来たのかと、驚いてしまうが‥‥、まあ、やりかねないとも思う。
 公務を放り出して、正月に乱入してきた事もあるぐらいだ。
「さぁ?なんの日でしょうね。」
「‥‥忘れているなら思い出させてあげるよ。‥‥君が、僕に愛を伝える日だ。」
 違う!!
 それはかなり違うぞ御剣晃!!
 口を開けて、ポカンとしてしまう
 いきなり愛を伝える日とか言われても‥‥いや、間違ってはいないが、なにかが根本的に違う‥‥と思う。
「バカ言わないで、さっさと家に帰らせてください。」
「しかるべき物を僕に渡したらね。」
「‥‥チョコですか?」
「そう、君のチョコだ。」
 逃げようにも、がっちり腕を掴まれていて逃げられそうもない。
 だからといって、こんなやり方で自分のチョコを持っていかれるのもかなり嫌で。
「無理矢理奪うようなのって、よくないと思うんですけど。」
「無理強いはしてないよ、ただ、君が僕に告白するチャンスをあげてるだけで。」
 この人にこれ以上言っても無駄だろう、と勝手に判断し、はカバンからチョコの包みを取り出す。
 だが、手渡さない。
「あのですね、全部はダメです。」
「じゃあ、どうするんだい?」
 考えた末、包装を破いて、チョコを一つ取り出す。
 優美に教えてもらってなんとか作った、トリュフだ。
 自分では、かなり上手く出来たと思っている。
 己の手の上にチョコンと置いた。
「二つ、差し上げます。」
「二つって、一つしか‥‥。」
「一つは、御剣さんに。一つは‥‥弘一兄ちゃんに。」
「‥‥。」
 弘一の名を出した途端、晃の表情が曇った。
 だが、は引いたりしない。
 どうせ渡すのであれば、大好きな兄にも上げたい。
 晃は凄く不満のようだけれど‥‥、こちらだって、半強制的にチョコを渡すのだ、これぐらいの融通は利かせて頂きたいと思う。
「まあいいだろう‥‥。じゃあ、頂くよ。」
「!?」
 なにを思ったか、晃はの口に押し込む。
 彼女が言葉を発する前に、晃がキスをしながら、口の中にあるチョコを食べた。
 二人の口の中に、甘いチョコレートの味が広がる。
 甘いのは晃のキスなのか、チョコレートなのか、判らなくなりそうだった。
「んぅ‥‥っ、御剣さん!!」
「別に、普通に食べるとは言ってないだろう。」
 ぺろりと口唇を舐めると、”弘一に交代する”といって居直った。
 かなり不服なようだったが、が悲しむ事は基本的に好きじゃないらしく、余り文句も言わずに交代した。
 珍しい事もあるものだ。
 ‥‥気配が変わったのがわかった。
 ゆっくりを見て微笑んだその顔は、まぎれもなく弘一のもの。
「弘一兄ちゃん‥‥。」
。‥‥チョコレート、くれるんだろう?」
「うん‥‥。」
 ふとすると、悲しみに彩られてしまいそうなの瞳を気遣うように覗き込み、チョコを受け取る。
「‥‥晃にキスされてたね。」
「う‥だって‥‥いきなりで‥‥。」
 直球で質問して来るのも、弘一ならではだが‥‥は少しだけ、小さくなる。
 咎められているような気がして。
 ‥‥咎められているのかもしれないが。
 弘一は、チョコを自分の口にくわえて、を見た。
 なにが言いたいのか判らないだったが、弘一が彼女の頭を己の顔に引き寄せて来たので、なんとなくだが言いたい事柄は判明した。
「‥‥恥ずかしいんだけど。」
 晃とは出来るのに、自分とは出来ないのかとでも言っているように、物凄く悲し気な目をされてしまう。
 晃がが悲しむ事が好きでないように、も弘一が悲しむのが好きではない。
 頬を赤らめながら、弘一に咥えられているチョコを食べる。
 弘一も、見計らったように食べた。
「んん‥‥。」
 チョコは、あっという間にお互いの口の中へ放り込まれる。
 弘一はそれだけでは許さず、の口唇を己の口唇で塞ぎ続けた。
 体をきつく抱きしめ、口唇を貪る。
 随分と長い時間そうしていて、解放された時には、息がすっかり上がってしまっていた。
「弘一兄ちゃん‥‥なんでこんな‥‥。」
「晃とは、しただろう?」
「あれは、御剣さんが‥‥‥‥もう。」
 頬をぺちぺち叩いて、赤らんでしまった顔を元に戻そうとする。
 この状況で弘樹にでも会おうものなら、なにを言われるか判らない。
「さあ、晃が表層に出てくる前に、家にお帰り。」
「‥‥兄ちゃん、また会おうね。」
「大丈夫、が願ってくれるなら、直ぐ会えるよ。」
 よしよしと頭を撫でてやり、弘一はを外へと出した。
 車を見送り、家へと戻る。

 弘樹は、案外早く帰ってきた。
 叔父も一緒に帰ってきたので、すぐに夕食の準備に取り掛かる。
 ちなみに、弘樹の戦利品(チョコレート)は三個で、優美、智美、泉からもらった模様。
 叔父の戦利品は‥‥ナシ。
 ない訳ではないのだが、啓介宅に置いてきたそうだ。
 仕事で、小腹がすいた時にでも食べるように、保存らしい。
 啓介なら、チョコなど食べないだろうという事で、倉庫代わり。
は誰にあげたんだよ。」
 ソワソワしながら、弘樹と叔父が聞いて来る。
 毎年、からチョコをもらっているこの二人。
 なにはなくとも、からのチョコが一番嬉しい。
 だが、今年は一番最初にもらうそのチョコがなかった。
 本命が出来たのかと、心配したのだ。
 ‥‥特に、弘樹が。
「誰にって、目の前にあるじゃない。」
 六個作ったトリュフが、二個欠けて四個、まだ残っていた。
 包装用紙は破れていて開けてあるし‥‥。
「二個ないのは、本命にあげたのか?」
 叔父も突っ込んでくる。
「うーん‥‥大事な人、かな。」
 弘樹が思いっきりショックを受けた顔をした。
 三個もチョコをもらって、嬉しそうにしていたのが不味かったのかと、苦悩までしている。
 今更そんな事を考えても、渡してしまった後なので意味もないのだが。
 しかも、全部本命だと言う事はのみぞ知る事実。
 まあ、それが悪い訳ではないのだけれど。
「本命なんだ‥‥。」
「本命‥‥っていうのかなぁ‥‥よくわからないけど、とにかく弘樹、これいる?」
 残りものだけどと言う間に、いる!と答えられていた。
 あまりの素早さに、茂は笑いを堪えている。
 態度が露骨スギな弘樹君。
 嬉しそうにチョコを食べ、最後の一つを食べようとしたその時‥‥、インターホンが鳴った。
「誰だろう‥‥、弘樹、出てくれる?」
 食事の用意をしていたは、グータラしている叔父を当てにせず弘樹に頼んだ。
 ドアを開けると、そこにはチョコ攻撃から逃げていた男、聖がいた。
「影守さん、どうしたんで――」
「邪魔するぞ。」
 いきなりズカズカ上がりこみ、リビングに突入する聖。
 なにがなにやら判らない弘樹も、慌てて後を追った。
「‥‥これか。」

 パクッ

「ああああーーーーーーーーっ!!」
 弘樹の大絶叫が響き渡る。
 残り後一つだった、のお手製トリュフを、いきなり現れた聖に横取りされる形で食べられてしまった為、ショックで泣きそうになっている弘樹。
「‥‥か、影守さん、どうしたんですか?」
 が恐る恐る聞いてみる。
 あれだけチョコ攻撃から逃げていた人が、いきなり人の家に来てチョコを食らったというのも、なんだか妙な話で‥‥気になった。
「晃がわざわざ病院まで来て、”のチョコは美味しかった”とか言ったもんでな。本当かどうか食いに来た」
「ぼ、僕の最後の一個‥‥。」
「五月蝿いぞ片山。」
 それだけの為に来たという聖。
 晃に食わせて、自分に食わせないのが、負けたみたいで嫌だったからとは決して言わない。
 惚れた女に、自分の小さな嫉妬を見せたくないという、聖なりの言い訳であった。
 キスの事は言っていないようで、少しホッとしてしまう
 弘樹はまだショックが身から抜けておらず、その姿を見て笑う茂も、中々いい性格だ。


のチョコ‥‥。」
 悲しみにくれる弘樹。
 それは、他三個の本命チョコでも、癒せないようであった。







‥バレンタインです!(何処が)
久々に一発書き状態、しかも晃と弘一、あきらかに贔屓です‥‥スミマセン。
あせって書いたので、お話の筋も全く見えない状態ですね…。
BGじゃない感じなのに、なんで晃がいるのとか。
‥‥‥‥えー、設定無視とまでは言いませんが、微妙に時間軸がずれております。
申し訳ない‥‥;;
フォローしきれない話になってしまいました。
綾彦なんて、影も形も‥‥;;;
スミマセン〜‥‥謝りきれないこの話…。
今日は折角なので、チョコレートケーキでも食しながら次の構図を練ります‥‥(爆)
サイト一周年なのにねぇ‥‥。

2002・2・14

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