お泊まり会
「本日は我が桐生院家へようこそおいでくださいました。」
ぺこり、とお辞儀をし、着物姿の深雪が一行を出迎えた。
つられて一向もお辞儀を返した。
「それではまず、お部屋へご案内致しますわ。殿方は綾彦お兄様と、お姫様方は深雪と来て下さいませ。」
言われた通り、二手に別れて付いていく。
桐生院家の庭は、さすがというかなんというか見事だ。
そこらの安い宿なんかより全然高級感が漂っている…いや、宿ではないのだが。
は着替えを弘樹から受け取って、深雪と話しながら歩いていった。
なぜ休日に、それも桐生院家にいるのかというと、事の始まりはつい先日の事。
以前、弘樹と叔父と旅行に行ったという話をしていて、温泉の話になった。
「あの温泉は気持ちよかったよね〜、また行きたいなぁ…。」
「そうだね、最近旅行なんて行ってないし。」
弘樹もも、とんでもない回数の引越しをしているが、あくまでもそれは引越しであり、旅行ではない。
「それでしたら、我が家にお越しください。」
「へ…びっくりしたぁ…深雪ちゃん…。」
後ろからいきなり現れた深雪に、かなりの驚きを覚ええる。
…史学科の彼女が普通化にいる、というのも要因のひとつではあるが。
そんな2人を余所に、深雪は嬉々とした表情で話し掛ける。
「お2人共、温泉に入られたいのでしょう?源泉ではありませんが、我が家にございますから、是非っ。ああ、そうですわっ、他の方々もお呼びして…うふふ。」
「み、深雪ちゃん?」
なんだか勝手に話を進められているような気がしたが、温泉に入れるというのは魅力だ。
桐生院家の敷居をまたぐのはかなりの抵抗があったが、お邪魔することにした。
ということで、今に至る。
話が広がり、仲間の殆どが来てしまった。
女性軍、男性軍、共に数名の欠員がいるだけで、なぜか茂もいたりする。
仕事はどうした。
お泊まり会のようになったので、一泊する事になった。
部屋で一息つくと、目的のお風呂へ。
間違っても混浴などではないが、露天風呂のようなつくりで壁を越えたら向こうが見えてしまう。
「優美ちゃーん、早くおいでよ〜、気持ちいいよ〜♪」
「うん。」
ざっと体を洗って、と優美は中へ入る。
次いで、沙夜香と深雪も入ってきた。
皆、足を伸ばしてのんびりしている。
「お湯加減、いかがですの?」
「ええ、気持ちいいわね…このお湯、本物?」
沙夜香の問いに深雪が頷いた。
ここのお湯は、外部の源泉から運び込まれているものだという。
お湯は毎日運ばれて来ていて、桐生院家の人間や大切な御客の時に使うようだ。
…そんな大切なお湯につかっちゃっていいのだろうか、と一瞬思うが、入ってしまっている以上どうにもならないだろう、と気持ちを切り替える。
「お肌ツルツルになるといいなー。…豊胸は無理だろうけど…。」
やっぱりこういう場だと、そういう話題になったりするもの。
優美はくすっと笑って沙夜香を見た。
「……先生ぐらい大きいと、これ以上胸いらないよね…。」
「…………そー…だね。」
がマジマジと見ていると、沙夜香が近寄ってきた。
「あらぁ、ちゃん…先生の方をじっと見て、どうしたのかな〜?」
「あう、いえ…別にっ。」
間近で見ると、なんというか……羨ましい。
その目線に気づいたか、するっとの後ろに回り、彼女が巻いていたタオルをはぎとる。
隠していたのちょぴっと小ぶりの胸が露になった。
「ぎゃーーーっ!センセ何するんですかっ!」
「気にするほど小さくないじゃないの。なんなら先生が大きく…」
「ゆっ、優美ちゃん助けてーーー!!」
……なんて事をしているその隣、男湯では。
「…なんか向こう、凄いことになってるよな…。」
要がポツリと呟いた。女湯と違って、男湯は静かだった。
なぜかというと…女湯の会話を聞くためもあったが…皆が皆、けん制しあっていたからだ。
なにを隠そう、ここにいる全員が…片山弘樹や、片山茂でさえ…に好意を寄せている。
隣に元彼女の沙夜香がいるという啓介ですら、沙夜香ではなくの○○な姿を見たい、などと思っているのだから始末におえない。
「…、なに暴れてるんだか…。」
弘樹がこぼす。
「…さーてと。」
要がなにかを思いついたかのように立ち上がり、いきなり隔ての壁を登り始めた。
茂もそれを見て、登り始める。
「うわっ、何してるんだよ2人共!!」
弘樹が慌てて止めようとするが、すでに時遅し。
勢いづいているのか、凄いスピードで難なく登り、しっかりと女湯を覗いている。
健吾は不純だ!と叫び、守は怒りマークをたたえながら見ている。
聖はブリザードを起こす寸前だし、綾彦は笑顔で殺気を放っている。
弘樹は、血を見る前に止めた方がいいと思いつつ、口に出せないでいた。
「ちゃん……あれ…あれって…。」
優美が上を指してを呼ぶ。
異変に気づいたが上を向くと…要と茂が覗きをしていた。
「……っ、こっ…のぉ!!」
普通のかわいらしい女性なら固まるか悲鳴を上げるのだろうが、残念なことにはそんな女性ではなく…。
手近にあった桶を引っつかむと、立て続けに覗きをしている2人に投げた。
素晴らしいコントロールで、桶は要と茂の顔にクリーンヒット。
2人はそのまま向こう側へと落ちた。
激しい水の音が響く。
「…なにをしているんだ貴様らは…。」
思い切り水しぶきを浴びた聖がめちゃくちゃ不機嫌な声を出す。
要と茂はちょっとビビった。
「まったく…俺はもう上がる。」
「…か、影守センセ、こええ……。」
誰のせいで怒ったんだよ、と、要に突っ込みを入れたくなる他一同だった。
結構な長風呂をし、部屋へと戻っていく。
が女性部屋でごろごろしていると、弘樹が彼女を呼びに来た。
「、ゴメン…ちょっといい?」
「弘樹、どうしたの?」
「叔父さんがフテクサレててどうしようもないんだよー…。」
ヤレヤレとは腰を上げた。
大方、さっきの桶攻撃のせいだろうが…フテクサレ茂は放っておくと後が怖い。
以前、ちょっとした事でフテクサレさせてしまった時は、1週間連続、叔父特製闇鍋だったし、部屋がいつにも増して汚れたりするのだ。
仕方ないので男性部屋へ行こうとすると、何故か優美、沙夜香、深雪もついてきた。
遊びたいのかな、と思い気にも留めなかったのだが…この3人、の護衛だったりする。
大切な友人(生徒)を傷物にされてたまるか!と意気込む。
は女性にも好かれているようだ。
「…叔父さん。」
「………。」
が叔父の傍により、声をかける。
ふてくされていて返事をしない。溜息をつきながら、叔父の肩を揺すった。
「ごめんって……桶のことは謝るけど…覗きした叔父さんだって悪ー……」
「わかってるよ…大人気なかったな、すまん。」
ごろりと寝返り、何気にのももの上に頭を乗せる。
いわゆる膝枕だ。
ピキッ、と、を除く全員が固まった。
「叔父さんってば…家じゃないんだから…。」
「気にするな、俺は気にせんぞ。」
言葉から察するに、弘樹の目を盗んでは膝枕なんてものをやらせていたのだろう。
羨ましい!!と弘樹を除く男性陣が思った。弘樹は、たまにが率先してやってくれていたりするのだが。
その茂の膝枕を一番に阻止したのは、彼の仕事のパートナーである啓介だった。
「シゲさん、大人気ないなぁ…膝枕なんかして。」
を掴み、ひょいっと立たせる。
途端に支えをなくした茂の頭が床に落ちた。
ゴッ…と、結構痛そうな音がする。
「っ…五十嵐ぃ…」
睨む茂を余所に、の腰を抱き顔を近づける。
「い………五十嵐さん?」
「ちゃん、いい匂いがするね……。」
腰を抱いたままで髪をひとふさ掴み、それにキスを落とす。
一瞬にしての顔が赤くなった。
「……っぐ…!」
突然、啓介がうめき、ヨロっとよろめき倒れた。
何事かとよくよく見ると、沙夜香が啓介の背中を蹴り飛ばしていたのだ。
…元恋人なのに容赦が全くない。
「さっ……沙夜香…痛いぞ。」
「フンッ、ちゃんに邪念を抱きながら触るからよ。」
啓介は物凄く悔しそうな顔をしながら、心外だとぼやいた。
ぽけーっとしているを呼んだのは、健吾だった。
てほてほと歩き、健吾の傍へちょこんと座る。
一見、物凄く普通で普段と全く変わらず見える健吾だが、守には彼が物凄く自身を律しているのが見て取れた。
長い付き合いだ、ほんの少しの動揺も、守にしてみれば丸判りである。
あれは、限界の一歩手前だ。無理もない。
想い人の寝巻き姿(しかも浴衣)なんか普段見れるものではない。
「速水さん?」
「……、髪が………。」
「え?」
自分の頭を触ると、ひとくくりにしてあった髪が少し解けかけていた。
「あっ……教えてくれて、ありがとうございます。」
「いや…直そう。」
「え、あの…。」
健吾の大きな手がの髪に触れる。
結ぶため、と触れた手が偶然の首を撫でた。
思わず小さく悲鳴をあげてしまう。
は首が弱い、というより、弱点がたくさんある。
それは弘樹と叔父はよく知っているが、他の人間は知らないことで、少なからず健吾は驚いた。
首に少し触れただけで、可愛らしく悲鳴を上げられてしまったのだから。
「大丈夫かい、片山さんっ!!」
健吾を押し退けて割って入ってきたのは守だった。
「可愛そうに……健吾はムッツリだからね…気をつけないとダメだよ?
髪を直すと見せかけて、そのまま押し倒されたりしたら大変だし。
武道やってても、別に禁欲生活しているわけじゃないんだから…。」
幼馴染をボロクソに言いながら、さり気なくの肩に手をかける。
「大塚くん…そ、そこまで言わなくても…」
押し退けられた健吾は、羨ましそうに守がの肩に置いている手を見つめた。
その視線がわかってか、守は健吾の方を見てフッと笑う。
の肩を引き寄せて、自分の胸に寄りかからせた。
「お、大塚君??」
「騒いで疲れたろう?少し休むといいよ、胸貸すからさ。」
「でもっ…あの…部屋戻るとか…できる、し。」
慌てるに、守は悲し気な瞳を向けた。
「僕じゃ頼りにならないかな…。」
「そんなことないよ!」
じゃあいいよね、とにこやかに微笑まれるとなんとも言えなくなってしまった。
…と、その時、不自然な風が吹いた。
風というより、突風といった方が正しいか。
守が不機嫌そうに風の起こった方向を見ると、要がちょっと怒りつつ立っていた。
「…竜門君、どうしたんだい?」
守は微笑んでいるのだが、例えようのない凄みがある。
「あ、あの…2人共?」
守のスパークと要の風で、小さな台風が起きるのではないかと心配する。
「…ノゾキなんかするような人に、片山さん……ちゃんは渡せないな。」
「おい、大塚、まるでがお前の物みたいな言い方だな。」
「竜門君のものでないのは、間違いないけどね。」
バチバチ、と守のエーテルが彼の怒りに反応している。
「でも、お前のものでもないよな。」
ゴォッと、要の力が強風を巻き起こした。
…周りで騒いでいた者達も、顔が引きつっている。
怖い、とは純粋に思った。
そそくさとその場から離れると、静かな方…綾彦、聖、弘樹の方へと向かった。
優美と深雪もそこにいる。
「大変でしたね。」
「綾彦さん……いえ、大丈夫です。」
綾彦に微笑まれ、も笑みを返す。
実に穏やかな空気が流れてい――…たのだが。
「…深雪ちゃん??」
深雪が綾彦との間に立ちふさがった。
意図がわからず疑問符を飛ばすに対し、綾彦はにこやかな顔をしつつ、小さく舌打ちした。
「深雪、なんの真似です?」
「さん、綾彦お兄様は危険ですわ。」
実の妹にいきなり危険呼ばわりされ、少なからず綾彦の機嫌が悪くなる。
笑顔が、すぅっと引いた。
「僕のどこが危険だというのです、教えて欲しいですね…。」
は、余り見ない綾彦の怒りオーラに少々怯え、優美に引っ付いている。
深雪は、が害が及ばない位置にいることを確認すると、兄に向かって微笑んだ。
「…お兄様、開かずの間にさんを閉じ込めて…あーんなことやこーんなことをしようと企んでらしたじゃないですか、深雪はちゃーんとわかっているのです。」
…深雪のあーんな、とか、こーんな、とかが、世間一般様に共通するものかどうかは判らないが、優美に入れ知恵された上での言葉なのだろう。
ひきっ、と綾彦が引きつった。
とはいえ、深雪にしかわからない程度ではあるが…即座に否定出来ない辺り、少しは念頭にあったのだろう。
「お兄様…深雪の大事なお友達を傷つけるような真似はさせませんわ。」
「心外ですね…傷つけようなんて思ってはいませんよ…ただ、愛したいだけです。」
ぶぅっと、その場にいる弘樹が吹きだした。
聖は機嫌の悪そうな視線を送り続けている。
優美はをきゅっと抱きしめ、当のは余りのことに思考が付いていかず、頭を抱えて悩んでいる。
「お兄様の愛は尋常ではないので、さんを傷つけますわ…許しませんわよ。」
「他の誰かを見ないぐらい、僕に目を向けさせるだけです…妹といえど、邪魔はさせません。」
兄妹戦争勃発。
大体、綾彦の、他の誰かを見ないぐらい…という発言もかなり危ないと思う。
なんて事を考えながら、綾彦、深雪の威嚇し合いを見つつ2人を残して少しはなれた。
一泊のお泊まり会がなにやら変な方向に曲がり、いまや争奪戦となりつつある。
というか、なっている。
沙夜香、深雪が手助けできる位置にいない今、最後の砦は優美だ。
『ちゃんを護らなきゃっ!』
という使命感すら感じ、優美は彼女を抱きしめていた。
きつく抱きしめられて苦しくなったのと、他人に抱きしめられるという行為になれていないのとで、は優美に解放を求めた。
「優美ちゃん、手、離して?」
「あ、ごめんなさい…。」
ぱっと手を離す。
別に抱きしめていなくても問題なかろうと解放したのだが…その隙を突いて、聖がをぐぃっと自分の方へ引き寄せた。
一瞬の事で、優美は反応できず、は聖の腕の中に収まっていた。
「かっ…影守さん??」
は、驚いて上を見る。
聖の真剣な目と、自分の視線がバッチリあってしまった。
金色の瞳にみつめられ、思わず頬を赤らめる。
「…影守さん、離してくださいよう…。」
じたじた暴れるを更にきつく抱きしめ、動きを封じる。
「…暴れるならフリーズで動けなくしてもいいんだぞ?」
「あぅ………。」
能力を仲間に使わないでくれ、なんて思いつつ、聖ならやりかねないと大人しくする。
暴れるのを止めたを満足そうに見つめ、抱えなおす。
正面で抱き合っている様は、なんだか恋人同士のように見えるかもしれない。
大騒ぎの疲れも手伝ってか、少し安心してか、少し眠気を覚える。
聖の胸に寄りかかり、目をこすった。
「ガキめ…眠いのか。」
「ガキじゃないですっ。…まあ、確かに少し眠いですけど。」
再度、目をこする。騒ぎは一向に収まっていないが、体は眠気に対して正直である。
そのの様子を見て、聖がにデコピンした。
唐突な行動に痛がりつつ聖を睨む。
「痛いですよぉ…なにするんで……」
「寝ろ。」
「?」
「俺に寄りかかってていいから、寝ろ。重いが我慢してやる。」
重いなら、どかしてくれればいいじゃないかと思いつつ、口にはしない。
「あー、でもほら、部屋ありますし…。」
その願いは、“今お前を一人にしたら、妊娠するような行為をする奴がいるからダメだ”と言われてしまう。
この場合、自分は棚上げ、らしい。
それにしたって、男の人に抱きしめられつつ寝るなんて事は出来ない、と言うと……。
「んぅ!?」
…弘樹と優美は目を疑った。
聖は不機嫌そうな顔をしていたかと思うと、いきなりの口唇を奪ったのだ。
本当に自然に、まるで親が子供にお休みのキスを額や頬にするかのように、あっさりキスした。
は反応できず、ぼーっとしている。
「…これ以上文句いうなら、脱がすぞ。」
「か、かげもりさー……」
が聖の名前を呼ぼうとしたのを…阻んだのは優美だった。
「影守さん……。」
優美は笑顔だった。だが……聖は恐怖を感じてしまった。
恐怖…というより、威圧感。
何事にもクールで落ち着いている聖にしては、物凄く珍しいことだが…。
「なんだ朝倉……。」
表面上はいつもの影守聖、ではあるが、内心汗だらだらだ。
女性がこんなに怖いと感じた事は一度たりともない。
「ちゃん、渡してくれますよね…?」
「…断る。」
「ガーディアン!」
「!?」
優美がにガーディアンを発動したかと思うと、聖に向かって2つの攻撃が飛んできた。
「ぐっ…なっ、なんだ!?」
思わずを離してしまう。
その隙に、優美がを弘樹に渡した。
攻撃を打ってきたのは、綾彦と深雪だった。
どうやら、 と聖のキスを見てしまったようで…協力体制に入っている。
「影守さん…いい度胸ですわね…。」
「…まったくです…僕のフィアンセに…。」
いつからだ、綾彦、と突っ込みを入れたくなるが、それはさておき。
「…この俺の邪魔をするとは…いい根性だな。」
「それはこちらの台詞ですわ!ムジヒナホホエミ!!」
かくて、桐生院兄妹VS影守聖、が始まった……。
「弘樹君、ちゃん疲れてるみたいだから、寝かしてあげて?」
優美は、弘樹の腕の中にいるを見た。
随分と疲れている様子。
何がなにやらわからないらしいを気遣い、先に寝かせる事にしたのだ。
一人にしていると、色々な意味で危ないだろうと、一番安全率の高そうな弘樹に後を頼む事にした。
「うん、そうだね…じゃあ向こうの部屋に行くね。」
「…ちゃん、ゆっくり休んでね。」
うとうとしているに微笑むと、優美はキリリとした表情で、今や大混乱に陥っている部屋を見つめた。
女性部屋に入ると、戸を締め、を布団に寝かせる。
弘樹はの寝ている横に座っていた。
「んぅ…弘樹?」
「、もう寝ちゃっていいよ。」
「だって……。」
向こうの部屋が気になっているのだろう。
大丈夫だからと安心させると、髪を撫でた。
「…やっぱ弘樹がいると安心する。」
「そう?」
ちょっと複雑ではある。
弘樹は女としてを好きだったので、安心すると言われると何かと複雑だ。
だが、今自分がいるポジションを別の人間に譲る気はなかった。
昔も、今も、ずっと変わらない居場所。
キスすることも出来ないような位置だが、それなりにいいこともたくさんある。
「……弘樹は眠くないの?」
「そりゃ、眠いけどさ………ここで寝るわけには…。」
「…はいっ。」
「?」
が、自分の入っている布団を広げる。
弘樹には彼女が何を言いたいのかわからなかったので、暫くぼぉっとしていると…焦れたのか、が弘樹の腕を引っ張った。
「え、なに?」
「一緒に、寝よう?」
下から見られ、どうしようかと考える。
だが、あまりにも彼女の顔が可愛くて、ほとんど悩みもせずに布団へと入った。
「えへへ〜…久しぶりに弘樹と寝るね。」
「そうだね…ほら、早く寝なくちゃ。」
「うん。」
…幼馴染の役得ではあるが、異性として見られないという欠点もある。
仕方のない事だが…と、目を閉じた。
…の寝息を聞きながら、弘樹もまた眠りに落ちていった…。
3時間もした頃、はむっくりと起き上がった。
隣では弘樹が寝息を立ててる。
他の面子は、まだ向こうの部屋なのか…未だに戻ってきてはいない。
実は向こうの部屋で皆へばっているのだが。
ぼさぼさの頭を直しつつ、廊下の方を見る。
凄く、呼ばれているような気がして立ち上がった。
受ける感じからすると…この空気を発しているのが誰かはすぐに判別がつく。
弘樹を起こすべきか迷ったが、向こうさまに敵意はないようなので、そのまま歩いていった。
廊下を少し歩き、庭に出る。
「…こんばんは。」
「……まさか本当に出てくるとはね、少し軽率ではないかな?」
くすくすと笑うその人を見て、むぅっとする。
まだ眠気の抜けきっていない頭で、やはり弘樹を起こすべきだったと後悔。
目の前にいるのはこの場にいるはずもない人物、御剣晃。
いたらおかしいのだが、いるのだから仕方がない。
「何しにここへ?」
「君に会いに、だよ。」
それは光栄です、と苦笑いしながら廊下に腰掛け、足を庭のほうに投げ出した。
敵である人物とこんな風に普通に話しているのが可笑しい。
が座るのを見て、晃も彼女のすぐ隣に座った。
そのまま、くぃっと自分の方を向かせると口唇をふさいだ。
「んっ……!」
「無防備だね…だから影守にキスされるんだよ…。」
「な、なんで知って……。」
さぁ、なんでだろうねとはぐらかすと、首に吸い付き赤い痕をつける。
あわてて押し退けるが、時遅し。
バッチリ痕のついている首筋を見て、晃は満足気に微笑んだ。
その痕は、まるでこの体は晃のものだと主張するかのよう。
ホイホイ出てきてしまった事に、今更ながら少し後悔する。
「…御剣さん、眠くないんですか?」
「本体は…まだ仕事中だからね。」
「本体?」
よくよく見ると…どこかおかしいのに気づく。
どうやら、意識体か何からしい。
晃並の強力な能力者だと、実態と殆ど変わらない。少しふわふわしているけど。
「…早く寝てくださいね。」
「僕の事はいいから、もうお休み?…僕の用件は済んだからね。」
用件?と問うと、先ほどつけられた痕に指をさし、“これをつけに来ただけだからね”と言われた。
真っ赤になってしまうを見て微笑むと、晃は彼女を抱きしめた。
急速に眠気が襲ってくる。
「御剣さ………」
「お休み…。」
次の日。
は普通に布団で寝ていた。
戻って来た弘樹以外のメンツが、の首についている痕をみて弘樹に睨みをきかせる。
「僕はなにもしてないのに〜〜っ!!」
叫びは、青い空へと吸い込まれていった。
私にしては恐ろしく長い創作になってしまいました……女主人公総受け創作。キリバン物です。
なるべくみんなを出そう!と決めてとりかかったものの…やはり偏りましたね…。
弘一も出したかったのですが…出せず終い。
しかも、晃1人で役得…あ、聖もかも。
強制的に終了させてしまった感じもあったりして、少し…アレですが。
途中から収拾つかなくなって…かなり出来上がりが不安定ですが…。
こんなのでいいんでしょうかねぇ…総受け苦手なのが発覚。
人数多すぎです……。
次があれば…頑張ります……もう少し文章能力欲しいなぁ。
…どちらかというと画力が欲しいですが。
2001/8/31
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