My Kitten



 いい加減、これしきの事でいちいち驚くのもだんだんとためらわれて来る。
 神出鬼没。
 だが、相手は覚醒しているのだし、いつ現れていつ消えるかわからない人No1の位置を占めている人なので、いい加減慣れてきた。
「…あの、今度はなんですか。」
 後ろからついて来る人に、顔も向けずに声をかける
「僕だって、この学校に籍を置いているんだ、いたって不自然ではないだろう?」
 いつもの意地悪っぽい笑顔で言うその人、御剣晃にはふかぶかと溜息をついた。
 不自然すぎるほど不自然だと言ってやりたい。
「じゃあ、なんで私の後をついてくるんですか。」
「そんなに邪険にしなくてもいいじゃないか…。」
 邪険にしたくもなるというものだ。
 なにしろ、科学庁のお偉いさん。
 有名人だし、どう頑張っても人の目を引く。
 晃はちゃんと学校の制服を着ているのだが、それが逆にまずい。
 全然知らないカッコイイ部類の男子が、突然現れた上、学校の生徒なのだとわかれば当然周りの女子は黙ってはいない。
 早々に追っかけをする子までいる。
 もう、集団で追っかけられているような状況だったりする。
「…はぁ…。」
 いつも食休みをする為に来る…まあ、生徒の溜まり場の中庭へとつく。
 五十嵐さんが情報収集していた場所だ。
 手ごろなイスに座ると、晃もその隣に座った。
「…で、今日はなんなんですか、本当に。」
 ちょっとイライラしている口調のに対し、冷静な晃。
 そこへ、と同じクラスの男子が話し掛けてきた。
「片山さん、なにしてんの?」
「あ、…う、うん、ちょっとね。」
 慌てて笑顔になる
「今度さぁ、一緒にメシ食おうよ。」
 いいながらの肩に手を触れようとして…晃に叩き落とされた。
 驚く男子。
「ち、ちょっ…御剣さん!?」
「汚らわしい手でに触れるな。下等なゴミめ。」
 視線だけで殺しそうな勢いで睨みつける晃。
 逃げるように去る男子に、”かっこいい!”と黄色い悲鳴をあげる追っかけ軍団。
「……。」
 ナイトメアを寄生されなかっただけでも、よかったなぁ、としみじみ思う

「あの、ここ、いいですか?」
 追っかけ女子軍の中の1人が、晃の隣に自分の居場所を確保。
「あ、あのっ、私、和美って言います。」
 顔を真っ赤にして自分の名前を言うその子を見ながら、は麦茶の入ったペットボトルに口をつけた。
 晃は営業スマイルとでも言うのか、さわやかな笑顔をその子に向ける。
「そうか、可愛いね。」
 は思わず飲んでいた麦茶を吹き出しそうになるが、なんとかこらえる。
 目の前にいる人物が信じられない。
 誰あんた、と、突っ込みを入れそうになった。

 一方の和美さんは頬を赤く染め、晃に見入っている。
 それを見て、追っかけが我先にとと晃のいるテーブルの周りに集まってきた。
 イスは周りのも奪い取り、わざわざ持ってきてまで晃と話をしたいようで。
 そんな事をしても、イスの数は絶対的に足りないと思うのだが。

「…なんか、ファンの寄り合いみたい……。」
 は、なにか息苦しくなってきた。
 なにが悲しくて、御剣FC(←勝手に命名)の中にいなければならないのか。
「おやおや、イスが足りないみたいだね。…そうだ、もう1人なら座れるよ。」
 言うが早いか隣のを抱え、自分の上に座らせる晃。
 一瞬、なにが起こったのか判らなかったが、状況を把握すると慌てて立ち上がろうとする―――が。
「こら、暴れないでくれないか。」
 晃にがっちり腰をつかまれていて、とても立ち上がれない。
「ちょ…放して!!」
「ワガママ言わない。」
「我侭はどっちですかッ!!」
 悪戦苦闘の上、結局力尽きる
「…放して。」
「嫌だね。」
「泣きますよ。」
「そう?」
 周りからの眼が恐いに対し、上機嫌の晃。
 晃はの耳元に唇を寄せ、囁く。
…。」
「や……っ、ち、ちょっ…!」
 ともすれば触れてしまいそうな唇に、固まって動けなくなる。
「僕の事好き?」
 キライッ!と即答するに、更に唇を寄せる。
「好きって言わないと、放してやらない。」
「なっ、なんっ…」
 本気で言っているのを察し、頭がくらくらしてくる。
 弘樹助けてー!と願ってみた所で、来るはずもない。
 来るかもしれないけれど。
「…言わないと、キスするよ?」
 後ろからくすくす笑う声が聞こえ、は更にくらくらしてきた。
 今すぐにでもイデアに避難したい
「…好き。」
「誰を?」
「……御剣さんを。」
「どれぐらい?」
「…ど、どれぐらいって………」
 だがが答える前に、周りがやっと騒ぎ出した。
 “その子なんなの!?”とか“私と付き合ってー!”とか。
 まるで告白大会のようになっている。
 晃は、うるさそうにの腰をつかんだまま立ち上がった。
「まったく…少し優しくすると付け上がるとは…人間とは愚かだな。」
「…私も人間なんですけど。」
「君は別だよ。」
 をつかんだまま、人をかきわけて去る晃に、女性軍は落胆の溜息をついた。


「結局なにしに来たんですか。いー加減放して下さい。」
「今日はね、様子を見ようと思って来ただけだったんだけど…気が変わった。」
 言うと、待たせていた車にを放り、自分も乗り込んでドアを閉める。
「ちょっと!なに考えてるんですかっ!」
「出せ。」
 運転手が車を走らせる。
「……御剣さん…。」
「君を僕の部屋へ連れて行く。」
「はい!?」
 なんで、どうして、と慌てるに笑顔で答える晃。
「僕以外の男に微笑んだ罰だ。」
「なっ……なにそれええっ!!!」
 …後に残るはの悲鳴。
 後で友人に状況を聞いた弘樹は、苦笑いをこぼしたという。







2001/6/17