Another Home




 御剣晃は、モニタに映る風景に頭を抱えたくなった。
 おかしい。
 これは、どう考えても。
「‥‥僕は、失敗なんかしてないぞ‥‥。」
 呟きに答える人間は‥‥沢山いたが、誰一人としてフォローできなかった。
 周囲の人間も、何がどうなったのか判らなかったからである。


 御剣晃=タナトス、との最後の戦い。
 激戦の末、勝利したのは晃の方で。
 弘樹達は敗北し、世界の消滅を覚悟した。
 敗北、即ちサーカディアとの融合‥‥だったのだが、目の前のモニタに映し出された景色は‥‥まるで普通。
 ブルージェネシスの景色そのまま。あちこち破壊されてはいるものの、街そのもの。
 違う所もあった。
 第二階層、繁華街より更に西に、今まではなかった青いもやもやっとしたものが出現している。
 その中央には‥‥。
「‥‥信じられない‥、、アレ、サーカディアの塔だよね!?」
「‥‥‥‥そう、みたい。」
 弘樹とだけは、サーカディアに出入りできたため、その存在を直ぐに認識することができた。
 他のメンツは半パニックしていた。
 あろう事か、ブルージェネシスとサーカディアは融合しなかったのだ。


 限界近くまで破壊されているが、ギリギリの線でその機能を失っていない科学庁。
 何が起こったのか理解しようと、敵も味方もなく話をする事に。
 ナイトメアに取り憑かれた仲間の多くは女性だった。
 男性がナイトメアに心を喰われなかった理由は、にある。
 自分のものにしたいという欲望が、ナイトメアに勝った。
 対して女性陣、そんな男共に彼女をやるまいと、ナイトメアと手を組んだ形。
 どちらにしても、過剰な愛情である。
 それはともかく。
「一番考えられるのは、御剣さんがミスったって事だよね。」
 が呟く。晃は、眉根を寄せた。
「あれだけ近付いていたんだ、失敗なんて考えられない。」
 もう人の手を借りずとも、勝手に落ちてくる距離だった事は確かだ。
 ならば、どうしてあんな風になっているのだろう。
 あんな事ができそうなのは、晃と弘一、弘樹に‥‥。
 一同が、その一人の人物に目を向ける。
 ――そう、だ。
「なっ、なにようっ!」
、何かしたんじゃないのか?」
 要が言った言葉に、ほぼ全員が同意する。
 は何もしていないと訴えた。
 自分があんなものをどうにかできる等、思っていない。
 高次元意識体でもないのに、アレを押し戻すなんてできる訳がないと。
 弘樹のイデアからナビ、晃に許可をもらったのか弘一が出てくる。
『あのさ、なんか変なんだよね、あのモヤモヤ。』
「何がだ?」
 弘樹の問いに、ナビは少し考えてから会話を進める。
『うーん、サーカディアにしては、エーテルの量が極端に少ない感じでさ。‥‥ちょっといいかい?』
「??」
 ナビが、何を思ったかモニタの画像を、空に向けた。
 すると、見覚えのあるものが‥‥。
「な‥‥なんでサーカディアの塔が上にもあるんだよ‥‥。」
 弘樹が愕然と言う。晃も、目を丸くしてその光景を見ていた。
 サーカディアが二つに分裂しているような錯覚に陥る。
『やっぱり‥‥弘樹、街にくっついてるのは、多分サーカディアの一部、幻像みたいなものだよ』
「???」
 さっぱり判らない。今まで黙していた守が、口を開いた。
「要するに、本体はまだ上にあるって事かな?」
『うん、何かの要因で、接着してる部分のサーカディアが、何て言うか柱みたいになって、上を支えてるんじゃないかなぁ。』
「でも、接着してるのだって、エーテルなんだろ?なんで消滅しないんだよ。」
 弘樹がもっともな事を言う。
 確かに、エーテル量が少ないとはいえ、物質界にあったら異常な物。
 あの一帯を消滅させるには、充分な量と言える。
 それには、守が答えた。
 本来なら、タナトスの‥‥晃の知識を借りる所だが、彼は今何かを考えているため、上の空。
 となると、守か要か、弘一やナビ辺りの知識を借りるしかないのだ。
「何にしても想像の域を越えないんだけど‥‥そうだなぁ、ある種の力が働いて、お互いが干渉しないようになってるんじゃないかな。」
「‥‥?」
 健吾が首を傾げた。理解できないらしい。
 守が、更に続けた。
「例えるなら‥‥そう、水と油。サーカディアと物質界が、接着点で反する物になってるんだ。混ざらない性質の物みたいに。」
「じゃあ、サーカディアが物質界を消す事はないのかしら。」
 沙夜香の問いに、それは判らないとしか答えられなかった。
 現状では、机上の空論でしかない。
 弘樹と弘一は、を見る。
「‥‥ねぇ、ちょっと聞いていいかな。」
「なに、弘一兄ちゃん。」
「晃と戦った時、何を考えてた?」
 ぴくん、と晃が反応する。
 考え事をやめて、の方に寄って来た。
 興味があるらしい。
 弘一は気にせず、を促した。
「何って‥‥、その、御剣さんと弘一兄ちゃんの事、考えてたよ?」
「どんな事を?」
 少々晃を気にしつつも、大好きな兄に質問されては、答えない訳にもいかない。
 は素直に、考えていた事を伝えようと思った。
「戦いたくないって。御剣さんも、弘一兄ちゃんも、皆も‥‥助けられないかと、思ってた。」
 晃は、その言葉に複雑な思いを抱いた。
 彼は、を自分の利益のために、利用しようとしていたのだから。
 複雑な思いを抱く事すら、晃にとっては腹立たしく、また、驚愕するべき事で。
 他人‥‥人間に対し、感情を持つ等、実に愚かしいと考えを直した。
「‥‥これが全て、の力によるものとは考えにくいね。弘樹も同じような事考えてた?」
「ん‥‥まぁ、近い事考えてたかな。」
 と弘樹がタナトスに負け、世界が消えると思った時、は晃と弘一の幸せを願い、弘樹は世界を壊したくないと望んだ。
 カオス理論の研究、第一人者だった片山清一と、同じく研究者だったの両親が、目を見張る程の力を持った二人。
 行使を禁じられていた力を一時的に使って、の両親と清一は、のデータを計測した事があった。
 彼女一人で力を使わせた場合、弘樹と使わせた場合、弘一と使わせた場合の三つのパターン。
 彼女一人だけでも、常人のそれをはるかに凌ぐ数値だったが、弘一との場合は普通では考えられない事が起きた。
 は弘一と共鳴し、の力を吸い取るようにして、弘一の能力値が跳ね上がった。
 同じように、弘樹とも共鳴したが、弘一とは違い、互いを助け合うように値が増えた。
 その力は弘一のそれと同じか、それ以上に。
 と弘樹の”信じる力”は、時に考えもつかないような事をしでかす。
 今回の融合失敗(?)は、そんな二人の力による所が大きいのではないか。
「弘樹と、二人そろって‥‥しかも、必死な思いだからね。思わぬ事が起きても、仕方ないというか‥‥。」
 弘一の言う事が本当でも間違いでも、アレを放って置くのは危険ではないのか。
 とにかく埒があかないので、そのサーカディアと物質界の接合点まで、行って見る事にした。

 街には、殆ど‥‥というか、全く人がいなかった。海上に避難しているのだろう。
「‥‥やっぱ、サーカディアだよね。」
「そうだなぁ‥‥。」
 弘樹がぼんやりと答えた。
 晃は、何とか中に入れないものかと手を触れてみるが‥‥、壁があるかのように、阻まれてしまう。
 他のメンツも皆、壁に阻まれた。
『ん〜、やっぱり本体は上で、こっちは本の一部みたいだ。幻影みたいなもんだよ。』
「エーテルが少量だけど、零れてるみたいだね、ナイトメア出てきたりとかするかな。」
 守が興味深そうに、境目を見た。
 今までは晃がナイトメアを作っていたが、自生する事はあるのだろうか。
 晃は、少し考え、キツイ口調で言葉を返す。
 ナイトメアに関してはかなり詳しいはずの人物だ、答えられないはずはない。
「‥まあ、自分たちに必要なエーテルが、こういう不自然な形だけれど、あるからね。突然変異で分裂する能力が身につく可能性もある。」
「人に寄生したりとかは‥‥?」
 の不安そうな声に、幾分か言葉を柔らかくする晃。
「本能レベルではあるかもしれないが、必要量はここにあるからね‥‥。」
「とにかく、これからどうする?」
 弘樹が一同を見回し、言った。
 静観していた聖が、やっと口を開く。
「BGが機能を低下させている事は確かだ。科学庁の奴等が簡単にこの施設を手放すとも思えん。避難民もじきに戻るだろうしな、復旧させるのも早いだろう。」
「‥‥これ、どうなるんでしょうね‥‥。」
 の問いに答えられる人物は、ここにはいなかった。


 科学庁本庁が介入したおかげで、前の生活環境に戻るのにさほどの時間はかからなかった。
 あちこち修復途中の建造物もあるが、人も戻り始め、活気が出てきている。
 サーカディアとの接合点には、科学庁管轄のゲートが敷かれている。
 皆、それぞれの生活に戻った。
 ただ一人、晃の生活だけは激変したけれど。

 晃は、科学庁本庁から、BG科学庁の建て直し責任者に命じられた。
 BGを破壊した責任は、故、御剣恭太郎に被せられ、晃には非がないとの結論に達したらしい。
 勿論、事実はそうではないのだが、晃ほどの能力を持つ人間を手放すのは惜しいという上層部の考えから、正式にBG責任者にされたようだ。
 かといって、生活自体は今まで通り。
 ただ、ナイトメアを作る事はせず、BGと接合したサーカディアの一部から、サーカディア本体へ何とか行けないかと、考えてはいる。
 学校にも出席するようになった。
 晃自身は、その平和とも言える世界にいる自分が、たまらなく嫌になる事がある。
 けれど、現状では研究のための施設も充分ではない為、普通の人間として生活する事しかできない。
 入れないサーカディアの前に立ち、溜息をつく事もあった。


「あ、御剣さん!」
 アカデミア内で自分に話し掛ける人間は少ない。
 振り向くと、がいた。
「‥‥ああ、君か‥‥。何の用だい?」
「放課後、用事ありますか?」
「いや、特には‥‥。」
「じゃあ、ちょっと付き合って欲しいんですけど。」
「?」
 は晃に近寄り、小さな声で話を続ける。
 近くを通る女子学生が、羨ましそうな視線を向けるのは、晃が密かに(おおっぴらに?)人気があるから。
 タナトスとしての本質を隠してしまいさえすれば、好青年だし。
「‥‥あの、接着点へ?」
「科学庁の許可がないと、入れないっていうから‥‥、御剣さんが一緒ならいいかと思って。」
 街の修復に伴い、例のサーカディアとの接着点と街の間に壁というか、ゲートが出来、とにかく科学庁の許可がないと出入りできなくなってしまった。
 ナイトメアもあっちこっち出るようになったので、が代表して、その部分がどうなっているのか、見に行く事になったのである。
「‥‥まあ、いいけどね。」

 晃のおかげで、難なくゲートを越えられた。
 中は直されていないようで、色々な破片が散乱していた。
 ここだけは、BGがサーカディアに消滅させられそうになった痕跡を残して、過去を主張している。
 足場が悪く、よろけたを晃は抱き起こした。
「あ、ありがとうございます‥‥なんか、変なカンジ。」
「なにが変なんだい?」
「御剣さんが、優しいから。」
 ‥‥確かに。
 以前の自分なら、放っておいただろうに‥‥。
 晃の心の葛藤に気づくはずもなく、は足元に注意しながら接着点に近付き、中を覗き込む。
 変わった様子はない。
 周りにナイトメアがうようよしているが、攻撃してくる様子がないのは、やはりタナトス(晃)が傍にいるからだろうか。
「望んだものの一部は目の前か‥‥、手に入れられない苦しみは、君にはわからないかもしれないな。」
「そう思います?」
「特に君はね‥‥、周りから可愛がられているようだし。」
「私にだって、叶わない望みぐらいありますよ。」
 そのの言葉に興味を持ち、晃は先を促した。
 彼女に対しては、興味が尽きる事がない。
「ん〜、素直な御剣さんとか。」
「‥‥‥‥。」
 嫌そうな晃に、思わず微笑んでしまう。
 あながち、嘘でもないのだけれど。
「あと、普通の恋愛とか。」
「‥‥すればいいだろう。」
「無理です。」
 きっぱり言い放つに、少し考えをめぐらせる。
「‥覚醒者だからかい?」
「そうです。ナイトメアに彼氏が襲われないように気を使ってたら、疲れちゃうし。」
 なるほど、納得。
「じゃあ、僕と付き合えばいいんじゃないか?」
「あはは、確かに御剣さんなら、ナイトメア襲ってこないかも。」
 くすくす笑う彼女を、欲しいと思う自分の心が信じられない。
 しかも、力ではなく、彼女自身を手に入れたいと思っているのだから‥‥。
 目の前にあるサーカディアの一部の内部を覗く事より、を見ているほうが興味深く、楽しい。
「‥‥くだらない。」
「?」
「僕はもう帰るぞ。」
「み、御剣さん?まだなにも調べてないじゃないですかぁ〜!」
 これ以上と二人きりでいたら、自分が自分でなくなりそうな気がして。
 晃は足早にその場を立ち去った。
「御剣さんっ!待ってくださいーー!!」

 芽生えた芽は、ゆっくり育っていこうとしていた。



久々晃更新〜。てか、晃かね;;
えぇと、今回の話は、BGが沈まなかったら、っていうコンセプトです。
BGが消滅せず、タナトスも生きていて、都市は復興する。
弘一のことがなければ、割とベストEDです、自分的に。
ナイトメアに乗っ取られた仲間=意識がない
ではなく、ナイトメアと同居という形になってます。この時点で世界観崩れ去ってます‥‥。
嫌だって方は、見ないほうが‥‥って、後書きで書いても無意味ですが。
とにかく、オリジナルでゆきますので、どうぞご了承ください。
ウチのサイトはオリジナルはいってない事はないけども!(突っ込み多い)
後の晃話は、新都市ではなく、復興後BGのお話になりますので、宜しくお願いしますね。
‥‥‥‥首、締めすぎですか自分。続きはあるか不明‥‥多分、ありますが。

2002・4・7

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