理由



 目覚めて、隣に覚えのない女性がいる事はそれなりにあった。
 しかし、これは。
「……だけじゃなくて、ゼシカにも袋叩きにされそうだぞ」
 呟き、自分の隣で健やかに眠っている少女の髪を撫でる。
 彼女――はくすぐったそうに笑んだ。
 まだ夢の中に居続けたいらしい。
 ククールはそっとベッドから降り、昨日何があったのかを考える。
 確か、俺は酒を飲んだ。それは間違いない。
 だが――彼女は?
 は普段的に酒を飲まないし、確かアルコールの味が余り好きではないと言っていたから、誰かに無理に飲ませられなければ飲んだりしないだろう。
「じゃあ俺が飲ませたか?」
 いやいや。それも可能性は低い。
 飲ませようとすると、たいていの場合はが、またはゼシカが止めに入るからだ。
 告白して連れ込んだ覚えも、もちろんない。
 どうしたものかと考えていると、扉が勢いよく開いた。
 表れた人物に顔が引きつる。
、あのな、俺は何もしちゃいないぜ」
 先手必勝で謝ってみる。
 しかし我らがリーダーは笑顔でズカズカと室内に入って来た。
 笑顔が怖いんだが。
「どういう事だいククール。君はまさか」
「いやいやいや! 言っただろ、何もしてない! それに覚えもな」
 『ない』と言おうとしたが、床に打ち鳴らされたムチの音で言葉が途切れる。
 ゼシカが顔を真っ赤にして、ムチを構えて立っていた。
「ククール、ついにやったのね……可愛そうな……助けてあげられなかった私を許して!」
「い、いや、ゼシカごか――」
「地獄の美女たちと戯れるのも楽しいわよ!」
 ムチをぎりりと両手で持っているゼシカの姿も言葉も怖い。
 思わず後退する。
 その騒ぎに(やっと)気付いたのか、がもぞもぞと起き上がった。
 目の前で起きている事象が理解不能な様子で、目をパチパチさせている。
! 説明してくれ、俺は何もやっちゃいないだろ!?」
 ククールは懇願するが、は爽やかに
、今からククールを排除するから、安心してくれていいよ」
 ゼシカは
「スマキにして川に放り込んであげるわね。もう二度と顔を見なくてすむように」
 ……コワイ。
 は状況に首をかしげた。
「どうして俺の隣で寝てたか、理由分かるよな!?」
「あたしがここに寝てた理由? うん。ゼシカとが怒ってる理由はよくわかんないけど――」

 彼女は昨日、酒に酔った俺と共に部屋へ来た。
(この時点で危ないとはゼシカの言。……失礼だろう、おい)
 理由は、武器の手入れ。
 俺は予備で弓を使う。
 は主軸で弓使いだ。
 彼女は鏃の調節や、今、俺が持っている弓装備の特性などを調べにやって来たのだった。
 調べ終わったのが夜中で、既に酒の入っていた俺は眠ってしまっていた様子。
 も眠くなり、自分の部屋に帰るのが面倒になって――そのまま俺の横に転がった、と。

「分かったろ! 俺は何もしちゃいないぞ!」
「ああ、そうだね……でも今後は気をつけてくれよ」
 はニコニコしながら、それでも眼光は鋭い。
「次はこんな事がないようにね。も気をつけて。夜中になりそうなら、僕かゼシカを呼ぶように」
「? はぁい」


 朝から災難だ……。



2005・6・1