また、あなたと一緒に 「……、あの……傷は気にならなかった?」 いつもの服に着替えたは、昨日の夜の事を聞く。 彼は苦笑し、をそっと抱きしめた。 「気にならなかった。――俺だってあちこち傷だらけだし、が頑張った結果でついた傷を、どうこう言うはずないだろう?」 「……ありがとう」 暖かな胸に抱かれ、は瞳を閉じる。 今日からまた一緒に旅ができるなんて、昨日の朝は思っていなかったのにな。 ルドマン邸で情報を得た一行は、情報を元に南西へ向かっていた。 散々迷惑をかけたのに、船を使わせてくれ、かつ、伝説の武具のひとつ、天空の盾まで頂いてしまった。 お礼を言っても言い切れない気持ちで出発し、今は海の上。 夜空の下、プックルと一緒に甲板で風に吹かれていると、が地図を広げながらやって来た。 「、ここにいたのか」 「うん。プックルと一緒にね。……またこうやって、一緒に旅できると思わなかったから、凄く嬉しい」 ねー、と足の下にいるプックルに抱きつけば、ぐるる、と嬉しそうに唸る。 すりすりーと子供のように顔を擦りつけていると、に腰を持って立たされた。 顔を見れば、何だかちょっとだけ不機嫌のような。 「?」 「……プックルじゃなくて、俺に抱きついてくれないかな」 「…………はい?」 なんか、ちょっと今までと違う気が。 何ていうか、今までは凄く凛としてて……確かにこういう事も、たまにはあったけれど。 こんなに大っぴらに言って来たのは初めてな気が。 「あの、……って、もしかしてちょっと甘えんぼさん?」 「そうでもないけど」 背後からきゅーっと抱きしめられ、あわあわと手をバタつかせる。 恥ずかしい。 夫になったのだから、この程度で恥ずかしがっていてどうするという話もあるのだけど、それはそれ、これはこれ。 妻という立場になって2日目。実質は1日目。 今まで一緒に旅をしていたのとは、ほんの少し――実は結構――気持ち的にこそばゆいような。 しっかりした拠り所でいてくれるのは、今も前も一緒なのだけれど。 暫くバタついていると、彼は苦笑しながら手を外してくれた。 赤くなった顔を潮風に当てて冷ましつつ、海原を見やる。 「砂漠の城――テルパドールだっけ、目的地」 「ああそうだよ。まだもう暫くは海の上だけどね」 言うの隣で、はぶるりと体を震わせる。 はの肩を抱いた。 知らず冷えていたらしい体に、彼の体温が温かい。 「……、体が冷えてる。まだ外にいるなら、せめて何か羽織らないと」 「ありがとう。でも、もう戻るから」 「そうか。それじゃあ……部屋戻るか?」 うん、と頷く。 プックルがのそりと起き上がり、尻尾を振りながら、先に船室の方へと戻っていく。 はに寄り添われ、階下の船室へと入る。 室内はふんわり暖かい。 2つのベッドが間隔をあけて並べられ、テーブルや家具などそれなりに揃っている船室は、この船の中で一番大きな個室だ。 ベッドに腰けると、自分の直ぐ横の棚に立てかけられた、天空の剣と盾が目に入った。 剣の方は、鞘に更に麻布を巻いてある。 鞘の見事な細工は、どうしても人目を引くからだ。 盾の方は残念ながら包む物が今現在なく、仕方なくむき出しではあるのだけれど。 「……不思議だよね、天空の剣とか盾って」 天空の武具の近くにちょこんと腰を下ろし、じーっと見つめながら呟く。 不思議だなんて言うだが、自身の気持ちの方が、余程不思議かも知れないとすら思う。 天空の武具を見ていると、懐かしい気がしてたまらない。 見たことなんて、なかったはずなのに。 後ろではイスに腰かけ、プックルの背を撫でながら、の背中を見やっている。 「伝承文献なんかをよく調べられればいいんだが。武具全てを集めたからって、勇者が現れてくれるとまでは思っていないからね」 「そうだよね……。のお母さんを見つけるためにも、頑張らないと」 あなたも強力してくれるよね、と内心で呟き、そっと不思議な色合いを持つ天空の盾に指先を触れさせた。 ――触れた、瞬間。 世界が一気に、後ろに通り過ぎた気がした。 脳裏に流れる映像。 それらが何かなど理解できず、ただ目の前に溢れ出して来た情報に目を眩ませる。 4人の老いた者。青白い部屋。 揺れる炎。理解不能の文字たち。 それらが思考に張り付き、頭がくらくらして、一瞬、前後不覚に陥る。 倒れ込みそうになったのだと、触れた床の感触で気付いた。 「!?」 慌てた様子で肩を揺するに気付き、やっとの事で、自分が思いの他ぼうっとしている事に気付いた。 「あ…………?」 「一体どうしたんだ。めまいでも起きたのか?」 めまい。 そういう類のものではない気がする。 以前思い出した雪の記憶も、彼に言っていないままなのだが、結婚してすぐにこんな事を言って、彼に迷惑を掛けるのもはばかられ。 意を決してもう一度盾に触れてみるが、今度は何もなかった。 小さく息を吐くに、が心配そうな目を向けてくる。 「ごめんごめん、なんでもない。ちょっとめまいがしただけ」 なんでもないようには、とても見えないだろうけれど。 は眉根を寄せたがそれだけで特に何も言わず、の額に軽く口付けると離れた。 「……言いたくなったら、でいい。今のところは、だけどな」 「ごめんなさい……ありがとう」 心底謝りながら、は深く長い息を吐いた。 えらく久しぶりになってしまいました、DQ5。今後もゆぅっくりと続けて行きたいと思います。 8も頑張りますとも! 2007・8・10 |