山奥の村


 暖かな太陽の陽射し。
 緑濃く、土と、水の匂いがする。
 村の入り口には小さな柵があり、それが山と村との境界線のようだった。
 入ってすぐの場所に畑があり、田があり、畑の直ぐ後ろの小さな崖には洞穴がある。
 崖の上の奥には建物があり、なにやら湯気が上がっていた。
 家屋はぽつりぽつりとしかなく、けれど思ったほど少なくもない。
 既に昼食を済ませたのか、畑を耕す男性がいた。
 その男性に、旅の者の1人――は声は声をかけた。
「すみません、こちらに水門管理者のかたはいらっしゃいますか」
 男性はクワを下ろすと、首に巻いた布で汗を拭きつつ、と――その横にいるを見た。
「あんたら、旅人さんかい。こんなへんぴな所までよう来たなぁ」
 言い、をじっと見た。
「あんれ、娘っこまで引き連れて。大変だったろうに」
「い、いえ、それほどでは」
 は苦笑いし、
「それで、水門の管理者のかた、いらっしゃるんです、よね?」
 改めて質問する。
 男は頷いた。
「お前さんがたが今いる道をまーっすぐ、宿屋を越えてまっすぐ行くと、正面に階段のある家が見えるで。そこのお人に聞くとええよ」
「この道をまっすぐ、ですね。ありがとうございました」
 ぺこりと丁寧にお辞儀をする
 男は暫く2人の背中を見ていたが、やがて畑を耕し始めた。


 小さな崖に階段がかかっている。
 それを上ってすぐ左側に、木が生い茂っていたおり、その間から、湯煙が立っていた。
 少し先には宿の看板がぶら下がっていて、ほんの少し硫黄の香が流れてきた。
、温泉付き宿だよー。いいなぁ」
「そうだな……もし時間がかかるようなら、今日はここに泊まるか」
「だったら時間かかればいいな」
 笑いあい、は目的の家を目指した。
 道々歩いて行くと、右側に小さな墓地があった。
 その墓地の真ん中の墓石の前で、美しい金色の髪をした女性が祈りを捧げている。
(私の髪とは全然違う――綺麗な色)
 ふ、と目を惹く姿だったが、は墓地のほうには全く気付かず、真っ直ぐに道を進む。
 もそれに倣って彼と一緒に家に向かって歩いた。


 中2階立てのその家の戸を叩き、中から声がかかるのを待つ。
「どちらさんですか?」
 若い男性の声。
 次いで、扉が開かれた。
 鈍い黄色の髪をした、と同じ年頃の青年。
 はぺこりとお辞儀をし、も会釈し、事情を説明する。
「そうですか。水門を……でもぼくは水門管理者じゃなくて。とりあえず、ダンカンさんに聞いてみましょう」
「――ダンカン?」
 の眉根が寄せられる。
 どうかしたの、とが問う前に、2人は部屋の中へと案内された。
 村の中では大きい家で、リビングが1つ、他に個室が2つほどあるようだった。
 木で作られた椅子や机が置かれ、どこか温かい雰囲気がある。
 青年は右側の部屋に入ると、茶色い髪に白髪交じりの男性を連れてきた。
 青年が男性を紹介する。
「こちらがこの家の主人で――」
「もしかして、ダンカンさん……ダンカンおじさんですか?」
 が言う。
 呼ばれた男は目を見開き、思考を素早く巡らせるように顎に手をやり――
……パパスの息子のか!」
 思いついたのか、声を張り上げた。
 若干よろけながらの肩に手を置き、まじまじと彼の顔を見る。
 誰かの面影をそこに見つけるかのように。
 はそっとダンカンに微笑んだ。
「ダンカンさん……お久しぶりです。会えるとは思っていませんでした」
「ああ、ワシもだよ。こんなに立派になって……」
 感動で瞳に涙を溜めるダンカン。
 彼は暫く俯いていたが、目尻を拳でこすると明るい顔で椅子に座るよう勧めた。
「そちらのお嬢さんのお名前はなんと?」
「あ……えっと、私の名前はです」
 お辞儀をする。
 ダンカンは笑み、彼女にも椅子を勧めた。
「ディノ。彼らにお茶を出してくれるかね」
「あ、はい。ただ今!」
 ディノと呼ばれた青年は左側の部屋に入っていった。
 の位置からはディノがお茶を用意する様子がよくよく見えた。
 どうやら、左側がキッチン、入り口の正面がリビング、左が寝室のようだ。
 暫く談笑していると、ディノがお茶を持ってきた。
 彼はお茶を置くと、まだ仕事があるとのことで家の外へと出て行った。
 の隣に座って、彼が入れてくれたお茶を口にする。
 この辺の特産なのだろうか。
 不思議な甘い香のする、けれど癖のないお茶だった。
 ダンカンが一息つき、に質問する。
「ところで2人はどういう用件でここへ?」
 がカップを置き、説明を始める。
 結婚するために、水の指輪という物を探していること。
 そのために、水門を開けてもらいたくてここまで来たことなど。
 ごくごく簡単に、近況を説明した。
「ふーむ……なるほどな。確かに水門はこの村の者が開けられる。お前さんたちと知り合いなのはワシらだけだから、必然的に門を開けるのもワシらだが。
 しかし残念ながらワシは水門まで体がおっつかん。ビアンカに頼もう。今ちょっと墓参りにいっとる。会わんかったか?」
 は<墓参り>をしていた女性を思い出した。
 瞬時に思い出せるほどの、綺麗な髪。
「ただいまー!」
 その髪を持つ女性が、元気よく帰ってきた――



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オリキャラ出てます、すんません。まだまだ水の指輪さがしちう。
2005・2・27