死の火山 「……着く前に非常に疲労して、中に入ればこの灼熱っぷり。辿り着いた人――あのアンディさん以外見ないけど、みんなどうしたのかな」 マグマのせいで橙色だか茶色だか分からない岩に手を沿えて歩きながら、は大きく小さく息を吸い、吐く。 熱気が肺に入り込み、時折むせる。 既に上着は脱いで馬車の中。 横を歩くも、ターバンもマントもとっくに外していた。 死の火山――要するに火山洞窟。 指輪の一つを探すため、3日をかけてやっと辿り着いた火山洞窟は、予想以上に辛い場所だった。 そもそも、ここに辿り着くまでに岩ばかりの山をいくつも越えて、体力をそれなりに消耗している。 他人との競争でもあるため、休みは殆どなし。 は休もうと言うのだが、自分を気遣っての言葉だと分かっているが故に、は首を縦に振らず、そのまま強行軍的に目的地へとついた。 入り口付近でアンディというフローラの幼馴染に出会ったが、それ以外の人間には会っていない。 入り組んだ山道に捕まっている可能性が高い。 火山洞窟に入ってみれば、眼下にはマグマ。 落ちれば確実に命を落とすというのに、足元は割合モロい。 今のところ魔物に襲われてもなんとかなっているが、細い道などで強襲されたら、たまったものではない。 ともあれ、水分補給をしながら入り組んだ洞窟を進んでいる。 「、悪い、水くれないか? こっちの空になった」 「うん」 馬車の中から水の入った筒を取り出し、渡す。 はそれを受け取って一口飲んだ。 「あんまり飲むと、それはそれで辛いからなぁ……」 ひとりごち、は歩みを進める。 汗は出ても直ぐに乾燥してしまう。 それほどまでに暑い。 このままここにいると、間違いなく干からびるとは思った。 「さっさと指輪とって帰ろう……」 「同感だ」 顔を見合わせて苦笑いし、とにもかくにも先に進む。 「それにしても、さっきのアンディさん大丈夫かなー」 は火山の入り口付近で出会った男性を思い出す。 お世辞にも武芸に長けているとは思えぬ体躯。 街の好青年という印象が強い彼は、既にあちこちヤケドを負い、が手当てした。 こんな洞窟の中では簡易的な手当てしかできないのが申し訳ないところだ。 フローラの幼馴染だと言う彼は、ルドマン氏の言う指輪を探して来たという。 ――フローラの結婚相手志願者、ということだ。 あまり無理をしないでねと声をかけ、先に進んでしまったが……大丈夫だろうか。 他に仲間もいないようだったし、本気で気になる。 に片手を引っ張られ、足場の危うい場所を手助けしてもらいながらも、は彼の事を考えていた。 こんな場所に来るぐらい、フローラさんが好きなんだなぁ、と。 「、足元に気をつけ――っ!!」 一瞬、が息が止まったような素振りを見せた。 どうしたの、と問う前に自身の体が下に引っ張られる。 奇妙な浮遊感。 気付いた時には、の手がの片手を掴んでいた。 「え、な、な……!!??」 「っ……しっかり、両手でつかまれ……!」 の姿が上に見える。 自分が今まで立っていたところが崩れたのだという考えに至るまで、少しの時間を要した。 恐る恐る下を見てみれば、泡立つ溶岩が――。 「ぎゃー!! 落ちたら死んじゃう!!」 「ばっ……あ、暴れたら危な……! 大丈夫、俺がしっかりつかんでる。絶対に離さないから、ゆっくり両手で手をつかんで――」 「う、うん」 冷や汗をかきながらの手を両手で握る。 彼も両手での手を握って、ゆっくり引き上げた。 ずるりと地面の上に引き上げられ、は大きく息を吐いた。 「あ、ありがとう……」 はむっつりとした顔で彼女を見つめる。 なにか言いたげな彼には首をすくめた。 「えーと。ごめんなさい。迷惑かけないようにする」 「俺が言いたいのはそういうことじゃなくて」 「分かってる。こういう場所で考えごとして、ボーっとしてちゃ駄目だ、うん」 「……気をつけてくれよ。俺、心臓止まるかと思った」 大きく息を吐く。 ……心配をかけてしまった。 ぱん、と大きく両手で頬を叩くと、気合を入れなおし、 「さ! 行こう!」 大手を――振らないで、慎重に歩いて行った。 長い道が一つ。 奥には円状の場があり、いかにもなにかありそうな場所。 その円状の場の中央――小さな台座の上に、紅玉の指輪が一つ乗せられていた。 がそっとその指輪を手に取る。 「これが……火の指輪」 「へえ……」 彼が持っているその指輪を横から見る。 紅色をした指輪は、時折揺らめきを見せる。 激しい火、暖かな火。 指輪の玉の中に、無数の火が透けて見える気がした。 「これを持って行けば、第一任務完了だね」 がにこりと笑い――唐突に顔を強張らせ、剣を取り出した。 も同時に剣を構える。 円状の場の前と左右からそれぞれ敵が現れた。 まだらな赤色をドロドロとした液体のように流す敵。 「うっへえ、気持ちワルイーー!」 の叫びと同時に、敵の手が伸びる。 まさしく<伸び>た。 捕まる前に飛びのき、伸びたそれを短剣で斬り付ける。 斬ったところからじゅくじゅくとした液体が跳ね、の腕にかかった。 熱という痛みが腕に走り、思わず手を引く。 「っく……」 「、大丈夫か!? っ……この!」 が大きく剣を振り、真横に切り裂く。 ドロドロした敵の体が、飛び散って彼の腕や足にかかる。 彼は気にせずの側へと寄り、計三体の敵を警戒しながら彼女の傷を確認した。 「……痛手にはなってないみたいだな」 「そっちの方が酷いじゃないっ」 敵を無理矢理引き裂いたため、粘液がひどく跳ねて以上の痛手を蒙っている。 べホイミをかけようとしたが、に手で制された。 「、俺やプックルが気を引いてるうちに、奴らを凍らせられるかい」 ちらりと横目で敵方向を見やる。 プックルとピエールが三体の敵を相手に奮闘している。 先ほどが剣で斬った敵は、変形しながら胴体をくっつけて元に戻ってしまった。 ダメージは入っているだろうが、決して致命傷ではない。 斬撃をしっかりと食い込ませるには、彼らが柔らかくては駄目だ。 しかし相手はマグマの化身のようなもの。 「できるか?」 「……やる」 それだけで言葉は事足りた。 はから離れると、前線に走り出す。 はしっかりと敵を見据え、意識を集中させる。 鋭利な氷の刃を脳裏に浮かべ、全身に青い光を纏わせる。 纏わせた光を手のひらへと押し出し、留めた。 後はタイミングを計るだけなのだが――たちの動きが早く、敵の捕捉が難しい。 仲間の攻撃パターンを網膜に焼付け、一瞬の隙を狙う。 (大丈夫、できる――きっとできる) 敵の一体をプックルの爪が敵を引き裂き、二体目をピエールの剣が縦に切り裂き、三体目をの剣が白銀の帯を残して横に凪ぐ。 ほんの少し、腕一本分だけの隙間がそれぞれ敵と味方の間に空いた。 (今――!) 「ヒャダルコ!!」 力強く押し出した魔力が氷の刃となって敵に襲い掛かる。 縫うように魔力波が敵と仲間の隙間を走り、横からなぎ倒すように魔力氷が敵を包む。 ガチリと固まった自身の体に気付かず、彼らは固まった部分を無視して動き続ける。 手や足の一部しか動かない敵。 胴体はしっかりと氷で固定されている。 たち三人が一気に凍った敵に向かって攻撃を仕掛けた。 ばきりと音がし、凍った部分が砕け散る。 敵は悲鳴の形をした口を大きく開け、そのまま瓦解していった。 砕け、周囲の溶岩に向かって溶けていく三体。 それを見届けると、はに向かって微笑んだ。 「助かったよ」 「上手くいってよかった……肝が冷えたわ」 汗を拭く。 は手に入れた指輪を彼女に渡す。 「私が持ってていいの?」 「前線で戦う俺が持ってると、壊したりなくしたりしそうだからさ」 「そんなことないと思うけど……でも、うん」 しっかりと腰の荷物袋の中に入れ、ぽんぽんと二度ほど叩いた。 「それじゃ、出ようか。、捕まって」 の手を取り、呪文を待つ。 彼は宣言した。 「リレミト!」 --------------------------------------------------------- 案外さっくりと終わりました、炎の指輪。DBでも感じますが、 本当に戦闘シーンが苦手です。 2005・11・22 back |