オラクルベリー 「……目がチカチカする」 瞳を瞬かせ、は正面街の入り口に立ち尽くしていた。 とヘンリーも目がチカチカしているようで、余り動きがよろしくない。 ここはカジノのある町、オラクルベリー。 ここでやるべき事は、とりあえず武具を揃える事、薬草などの回復薬を充実させる事など。 持ち金が多いとはいえない現状では、出費は抑えねばならないが―― 「なあ、オレちょっとカジノ行って……」 などと言う男が1人……。 は苦笑いを零すだけだ。 ……もしかして行きたいのか。 買い物を済ませ、馬車まで安く購入して、次に向かうはサンタローズ。 だが宿屋へ向かおうとするをヘンリーは引っ張り―― 「もう! 本当に本当に少しだけだからね!」 とヘンリーに念を押す。 結局カジノに来てしまったも同罪だが、今までの人生が人生なので、多少の娯楽も息抜きとして必要……という事にしておこう。 「私はコイン10枚だから……ルーレットはねぇ……」 とヘンリーには20枚ずつ。 ……それで勝てたら凄い運だ。 「さてー、ポーカーで景気良くスってこよーっと」 最初から負ける気満々なのもどうかと。 ヘンリーはスロットであっさりと増やしたり減らしたりを繰り返し、結局全部コインをスってしまった。 「ー、お前は?」 「俺はスライムレースでお前と同じ事やったよ」 「……ついてねぇなー。あれ? じゃないか??」 がヘンリーの示す方向を見ると確かにがいた。 ポーカーテーブルでポーカーに興じているらしい。 そっと近寄り、後ろから手札を見ようとした瞬間にテーブルの上にオープンをした。 「はい、5カード。ダブルアップはしない」 「うわ! なんだよ!!」 ヘンリーが、の『ダブルアップしない宣言』に非難の声を上げる。 「きゃわ! う、後からいきなり声かけないでよ……」 目を丸くして驚いている彼女に、は問う。 「、ダブルアップしなくてよかったのか?」 「うん。2人が来たからもうやめるしね」 ポーカーのマスターがに 「残りのコインは預かり所でお預かりしておきますから」 とにこやかに言った。 は立ち上がって出口に向かっていく彼女に聞いた。 「勝った?」 「うん、普通に。コイン5000枚ぐらいは……あー、でも今交換したり使ったりしちゃダメだからね! 後で後でっ」 確かは10枚しかコインを持っていなかった。 それなのに5000枚まで増やしたのなら、凄い強運だ。 「さて、それじゃあ今日は先に休ませてもらうねー。明日からは馬車だし……荷物も整理しとかなないとね」 「ああ、オレたちはもう少し情報収集してから戻るからよ」 ヘンリーが言う。 自身はと一緒に戻るつもりだったので、彼を見やった。 彼は片目をつぶり、こっそりと何処かを示した。 ……酒場。なるほど。 「あんまり遅くならないでねー」 「ああ。じゃあまたな」 はなんの疑いも持たずに、さっさと宿屋の扉を潜り抜けた。 彼女の姿がすっかり消えてしまうと、ヘンリーが腕を引っ張る。 「ほら、行こうぜ相棒!」 「全く……まあ少しだけだぞ」 「硬い事言うなよー」 なんのかんの言いながら、酒場へ向かう。 ヘンリーは高めの酒を頼みたがっていたようだが、それはスッパリ却下し、一番程度とアルコールの低い――というか子供用ビールを頼んだ。 も昔パパスの横で飲んだ事がある品物で、リトル・ビールという物だ。 主に寒い時期に体を温めるために飲まれている。 「リトル・ビールかよ……」 舌打ちするヘンリー。 「だけに楽しませないのはフェアじゃないだろ?」 彼女は翌日の事について悪戦苦闘しているはずなのだから。 記憶を失って、彼女自身大変だというのに自分の旅に付き合ってくれているのに、のけ者みたいにはしたくない。 横を見ると、ヘンリーが妙にニヤついていた。 「なあ、お前さあ……」 「な、なんだよ」 「の事好きなのか?」 「? 当然だろ」 あっさり切り返したのが彼の意図する意味とは違ったのか、肩を竦められてしまった。 「男と女としてどうだって聞いてるんだよオレは!」 「さあ?」 「あっ、きったねぇのー。教えろよー」 それについては、最初から最後までノーコメントで流した。 ……どう思っているかなんて、自分自身ですら良く分からないのだから。 翌朝、まだ眠っていたいとぐずるヘンリーをたたき起こし、 馬車と共に一路サンタローズへと向かった。 またも短くさっくりと。次も短くさっくりと。 2005・6・17 back |