じゅもん




 マリアを修道院に残し、、ヘンリー、の3人は、修道院から一番近い街、オラクルベリーに向かって歩き出した。

 ……そうして夕方になる。

「メラゾーマっ!」

 ………。

「メラミ!!」

 ………。

「メラ!!!!」

 ………。

「はい、残念」
 ヘンリーがぱちぱちと手を叩く。
 は気分を表すように荒く焚き火の周囲にどかんと座った。
 ……お尻が痛いが、自業自得だ。
 が干し肉を切り分けて差し出し、はそれを受け取ってカンパンに乗せ、かぶりついた。
 食事としては質素なのだろうが、10年もの奴隷暮らしでの食事に比べればなんの事はない。
「ヘンリーも魔法使えるんだよねぇ……はぁ……」
 同じくカンパンに干し肉を口にしているヘンリーに嫌味交じりに言う。
 彼は心外だというような顔をした。
「オレは元王子だぜ? 知識と教養は植え付けられてるんだ」
「……割に実践ではあまり使わないけどね」
 がぽつりと呟く。
 はクスクス笑った。
「言われてやんの」
「……うるせえって。オレは魔法より物理攻撃派なんだよ、ばしばしっと!」
「分かってるってば。ねえ……どうすればいいかなぁ」
 物理攻撃はどうしたって男性に劣る。
 ならば見合った武器を買えばいいのだが、それだけでは心もとない。
 結局がはじき出したのは、魔法を使うこと、だった。
 記憶喪失なのに、魔法の知識はある。
 どこかで本を読みでもしたのか、メラ系、ヒャド系、バギ系、その他、ありとあらゆる――ですら知らないようなものすら知っていた。
 だが、使えない。
 は少し考える素振りを見せ、それから返答した。
「知識と経験は別のものだから、がこの先何度も魔法の力を使う訓練をしていけば、使えるようになるさ」
 きっと使えるようになる、という曖昧な言葉を彼は省いていた。
 それはつまり、は必ず使えるようになるという事だ。
 に言われると、本当にそんな気になるのが不思議なところだが。

「はー……とにかく明日にはオラクルベリーに着かないとね」
 まずはオラクルベリーでいろいろなものを調達し、
 それからの記憶に深い村、サンタローズへ行かねばならない。
 が焚き火に折った小枝を投げ入れる。
「じゃあ、ヘンリーとは寝ろよ。俺が見張ってるから」
が一番戦ってるじゃない。一番疲れてない私が……」
 が文句を言うが、は引かない。
 ヘンリーは既に横になっている。
「ほら、ヘンリーもう寝の体勢だし、も寝ていいよ」
「……でも」
「いいから。無理しないって約束する。だから寝ろ」
「……はい」
 こくんと頷き、申し訳ないながらも土の上に身を横たえる。
 なにやら隣でごそごそ音がしたかと思うと、の体の上に温かなものがかぶさってきた。
 紫色の布――。
「ちょ、これのマント――」
「いいから、ほら寝る!」
「わぷっ」
 マントを頭からすっぽりかけられ、は少々もぞもぞ動いた。
 首から上を出し、を見て笑う。
 ちょっと照れくさい。
「ありがと。なにかあったら起こしてね。お休み」
「ああ、お休み」


 翌朝、ヘンリーとが交代で見張りをしていたと気付き、
 が己を情けなく思ったりするのは別の話。



……激短。
2005・5・27
back