やって来た新人 「新入りだ」 入ってきたその金髪の髪の女性を見たとき、は思った。 ――やっと、彼らはここから出ることができる。 理由も根拠もなく、そう思った。 彼女の姿を見て、自分が小さく笑んでいたなんて――に指摘されるまで、全く気付いてもいなかった。 新入りことマリアは、とても奴隷に見えない風貌だった。 多分、も当初はそうだったに違いないけれど、マリアは既に女性として確立していたから、余計にその奴隷姿が似合わない。 美しい金髪に、薄汚れた布地の奴隷服はどう考えても不釣合いだが、ここで1週間も生活すれば周りと似たようになるだろう。 実に勿体無い話であるが。 は同じ女性の先輩として、マリアと同じ仕事につかされた。 まず新人がやられるのは、破棄される小さな意志を選定し砕き場と呼ばれる場所に持っていくこと。 何年もやっているとこの仕事など辛くもなんともないが、入りたての頃はこれすら生き地獄に感じたもので、きっと今マリアもそう思っていることだろう。 疲弊した表情に色素の薄い金の髪がかかり、見た感じ、疲弊の様子を上乗せしている感がある。 は隣で仕事をしながら、そっと声をかけた。 「……無理、しないでね。あなたの持ち分なら、私が少しはやれるから」 こそりと口にすると、マリアは首を横に振った。 「いいえ、ご迷惑をおかけするなんて……。それに、見つかりでもしたら、あなたが罰せられてしまいますし」 「ん、でも……本当に辛かったら言ってね」 この奴隷生活。 誰かに迷惑をかけないで生きていくなんて、無理な話なのだから。 そう告げてやると、マリアは小さく笑んだ。 それを最後に、2人は黙々と仕事をし続けた。 その夜。 とヘンリー、マリアには一緒になって話をしていた。 マリアが小さなため息を発した。 「わたくし……こんなに大勢の人々が働かされているなんて、全然知りませんでしたわ……」 ヘンリーが頭を掻いた。 「当然さ。表向きは世界を救う、とかなんとか言ってるらしいからな」 彼の言葉にも頷いた。 「こんなに奴隷を使って建てる神殿なのに、世界を救うだのなんだの言ってるなんて、酷く滑稽でバカらしいよ」 「でも、たいていの信者はそんな事実を知りませんわ……。わたくしだって、お皿を割らなければ教団の裏側なんて、分からなかったですもの」 は小首を傾げた。 「そもそもこの教団って、一体何なの?」 不思議そうにするに、マリアは少しだけ驚いたようだった。 「知らないのですか?」 「うん。だって私10年近くここにいるから……それにその前の事は、記憶喪失らしくて全部すっかり忘れちゃってるし」 「まあ……」 驚いた後、酷く困惑したようなマリアに、は小さく笑って手を振った。 気にするような事ではないのだと。 自身、記憶がないことを不便に思うような状況などなかったから、そう悲観したものではない。 少なくとも、この場で奴隷をやっている分には全く問題などないし。 マリアは<光の教団>なるものを説明し出した。 「光の教団は、この世界が滅びを前にしている事を訴えています。そして――その滅びから救われるためには、教団に入り、お布施をして――そして、選ばれた者にならなければならないと」 ヘンリーは酷く気分を害されたような表情になった。 「なんで布施が選ばれた者の基準なんだよ、ったく……得体が知れない」 「ちょ、ちょっとヘンリー」 あまりに辛らつな言いように、はマリアの気持ちが気になって思わず手をパタパタと振る。 しかしマリアは苦笑いを零し、余り気にしていないようだ。 「さん、気にしないで下さい。確かに――仰る通りなのですから。――でも、わたくしも兄も、選ばれた者になりたかったというよりは、信者の方の語る言葉に引き込まれた、というのが正しいかも知れません」 語る言葉には、人を引き込むような力があったのだとマリアは告げた。 元々信仰深かったことも災いしてか、その言葉に感銘を受け、マリアとその兄は光の教団に入ることを決意――。 結果として奴隷になってしまったのだから、笑い話にもならない。 は慰めるように言う。 「きっと出られるよ」 も頷いた。 「そうだよ! 3人とも出られるからね!」 「……は?」 明らかに己を含んでいないに、が怪訝そうな表情で見る。 自分で口走った言葉をしっかりとに意識すると、言われた通り、己を物の数に含んでいなかった事に気づく。 ……失くした記憶が、そうさせたのだろうか。 慌てて首を横に振った。 「え、えっと……ゴメン、間違い。4人。できれば全員」 「そうだな」 が笑った。 は――そんな3人をどこか晴れ晴れとした気持ちで見ていた。 大丈夫。 彼らは――はきっと笑える世界を作ってくれる。 その時まで、自分はしっかりしていなくては。 これ以上の心配をかける事は避けたいから――。 いつも使ってるヒロインの名前のうちの1つがマリアなんですけども。 ゲーム本編でそれを使ってるキャラがいるので、別の名前にしたのでした…。 2005・2・23 back |