大空と奴隷 起きたら、目の前は空だった。 少女は、両腕を痛いほどにつかまれていた。 上を向けば翼の生えたよく分からない生命体がいて。 もがけば下に落ちる――即ち死亡――だろうと踏んだは大人しくしていて、気づけば石だらけの所へ連れれて来られていた。 逆らう余地もなく歩かされ、目の前に中世の兵士らしき格好の男に引き渡され、岩に埋め込まれたようなドアの中に放り込まれた。 「新しい仲間だ、せいぜい仲良くやれ」 言い、男は嫌に硬質な音を立てて錠をかけた。 一体、何? 周りを見回せば、汚れた人々がいる。 固い土の上にゴザのようなものを敷き、その上に座ったり寝そべったり。 は暫くボーっとしていた。 これは、何? 目の前にある事柄がさっぱり分からなくて、は目線だけをあちこちに動かしていた。 どこかで見たことがあるような感じではあった。 しかし、どこで、と明確に思い出せなくて。 声を掛けられたときも、かなりボーっとしていた。 「こっちおいでよ」 くぃ、と手を引っ張られて、何が何やら動転しているは素直について行き、その――紫のターバンを巻いた少年の隣のゴザに座った。 「そこ使うといいよ。僕は。君は?」 「……。あの、ここは?」 「山の上なんだって。僕らはみんな、神殿を作るために集められた奴隷なんだってさ」 「そう。無理やりつれてこられたんだぜ、オレらは」 横を見ると、そこには緑の髪の少年がいた。 ……どこか、懐かしいような、知っているような少年2人。 しかし、考えてみても出会った覚えがない。 第一、自分は一体何処から連れてこられたのだろうか。 考えれば考えるほどに頭が痛くなる。 眉根を寄せて額に手をやったに、なる少年が心配そうに声をかける。 「どうかしたの?」 「……う、ううん、何でもない……」 「はどこから来たんだ?」 ヘンリーが問うが、は首を横に振った。 「分かんない……」 「分かんないって……どっかから攫われて来たんだろ? 親とか……何か分かるだろ」 「親……」 あまりに記憶が曖昧で、親の顔すら思い出せない。 そう告げると、ヘンリーとは顔を見合わせた。 ヘンリーが不安そうに言う。 「……じゃあ、お前は記憶喪失なんだな」 「きおく、そうしつ……」 記憶を失ったらしい少女。 いくら思い出そうとしても、全く思い出すことができない。 ずっと考えていると、元よりこれまでの記憶などなかったのではないかとすら思えてくる。 両親がどんな人だったのか、兄弟はいたのか、友達はいたのか――。 何処に住んでいたかすら、全く思い出せない。 どうして翼の生えた生命体――つまりは魔物――に腕をつかまれ、こんな場所に連れてこられたのかも不明だ。 しかし、生き残るためにはここで踏ん張らなくてはならない。 や、ヘンリーがいる場所というのは、なんとか教という神殿の建設場所だった。 その建設場所に建築物を建てるために、奴隷として連れて来られたため、幼い身体で苦役をしなくてはいけなかった。 こちらの都合に関係なくやって来るものだと考えれば、少しは気が楽だ。 「、またボーっとしてると引っぱたかれるぞ」 後ろからポンと肩を叩かれ振り向くと、紫色のターバンを頭に巻いた、黒髪の青年がそこにいた。 この世界に来てもうかなり長い付き合いがある――恩人でもある人。 彼がいなければ、はとっくに死んでいただろう。 は青年――――に向かって、苦笑いした。 「今日は給水係なの。飲む?」 「ああ、貰うよ」 薄汚れた入れ物を手に取り、中に入った透明な水を飲む。 飲み込むごとに、の咽が上下した。 「ごちそう様」 「うん。あんまり無理しちゃだめだよ?ヘンリーは今日は上で仕事かぁ。でもよりはましかな」 「そうだな……俺と違って大岩運ばなくてすむからな」 くすくす笑いあう二人。 しかしそれを長く続けていられる場所ではなく、二人は仕事に戻った。 ――神殿を作るという、苦役に。 この場所から何度か逃げ出そうと試みた事もある。 けれど、無理があると分かってもいた。 案の定、たちと一緒に計画したそれはあっさりと失敗し、結局身体に傷を作るだけに終わっている。 はここで生き残れる自信なんてこれっぽっちもなかったのだ。 この苦役が終わる時――それは、自分の死を意味しているのだと、漠然とながら理解していたから。 ――そうして、約九年。 とヘンリーのおかげで、は立派に生き残っていた。 なくした記憶は、まだ戻らない――。 いい加減ジャンル増やすの止めればいいのにと自分で突っ込みいれつつ書いてしまった一品。少年時代のの一人称は僕。でも年齢重ねると俺。混乱させたらすみません。 かなぁりあっちこっちに飛ぶと思います。フツーに全部書く気はあまり無かったりしているので…;; 2005・1・18 back |