サザンビーク 3



 城の中で丁度会う事ができたたちとは、とりあえずそのまま一旦外へ出た。
 会話を聞かれるととマズイからだ。
「全く……確かに王とミーティア姫の事は伏せてあるけど、の素性が思いっきりバレちゃったじゃないか」
 呆れ顔で言うに賛同し、同じくゼシカも、呆れたような不安なような顔をしてを見ていた。
 ただひとり、ククールだけはこの場にあって笑みを浮かべている。
「いいじゃねえか。のおかげで、例の鏡には近づく一歩を踏み出したんだぜ」
「それは……そうだけどさ」
「それで、そのチャゴス王子とやらの護衛をするのが、鏡を貸す条件なのね?」
 ゼシカの言葉に頷く
「もっと上手くコトを運べればよかったんだけど……ごめん」
「いいわよ。どっちにしろ、トロデーンの名前を出してその条件なんだから、変わりはしないと思うわ」
 ぽん、と肩を叩くゼシカ。
「で、。どうするんだ?」
 ククールが城を見ながら言う。
 は暫く腕を組んで考えていたが、結局導き出される結論は既に決定していたようなもので。
 今この状況で、チャゴス王子を護衛しないとなると、鏡を借り受ける方法がなくなってしまう。
 ならば、取る方法はひとつ。
 彼は自分で納得したかのように頷いた。
「それに乗ろう。せっかくが取ってくれたチャンスだ」
「ありがとう、みんな。ええと、じゃあ今からお城行こう。紹介しなくちゃ」



 王座の間に揃った一行を見て、クラビウス王は、側近に王子チャゴスを呼ぶように言いつけた。
 は王に向かって一礼する。
「初めまして、クラビウス王」
「うむ。そなたたちが姫の仲間とやらか。姫からこちらの事情は粗方聞いておろう」
「何かの試練を受けるための護衛に、僕らを同行させるという事は聞いてますが」
 クラビウス王は頷く。
 どことなく苦々しい顔だ。
「王者の試練を受けなければ、チャゴスは次期王として認められぬ。アルゴンリザードを倒し、その宝石を取って来なければならないのだが……チャゴスはトカゲが苦手でな」
 ふぅ、と大きくため息をつきながら、クラビウス王は続ける。
「それでなくとも、死にかけるような試練だ。親としては出来るだけの事をしたい。そこで、お前たちに護衛を頼もうというわけだ」
 何やら皮肉を言いたそうなククールの袖を引っ張り、は視線で彼を止める。
 余計な事を言って、魔法の鏡を渡さないなんて事態になったら洒落にならない。
 ククールとの様子には気付かず、王は深々とため息をつき、を見る。
「表立っては、チャゴスがひとりで試練を受けたと思わせたい。お前たちはチャゴスの後からサザンビークを出て――確か馬車を持っているとの事だったな――そこで合流してもらいたい」
「僕らは彼の護衛をすればいいんですね。無事に試練が終わるように」
「その通りだ。その間、姫はこちらで――」
「ちょっと待って下さい!」
 は慌ててストップをかけた。
 クラビウス王の考えている事が、何となく分かってしまったからだ。
「わたくしは、彼らと一緒にチャゴス王子の護衛を務めます」
「しかし、あなたはトロデーンの賓客だ。わが国で保護をと考えているし――」
 首を横に振り、はクラビウス王にはっきりと言う。
 この場で宣言しておかなければ、後々問題になりそうな気がしたからだ。
「お心遣いはありがたいのですが、わたくしは彼らの仲間です。ひとりだけ抜けるような事はしたくありません。……ですから、保護は無用です。旅が終わったら、その時に考えますから」
「……そうか。ではそのようにしよう」
「それと……チャゴス王子には、わたくしがトロデーンの関係者だという事を伏せておいて頂きたいのです。下手に人の口に上れば、何かと問題もあるでしょう」
 了解した、と王が頷いた所で、何やら慌てた様子の側近が戻ってきた。
 どうやらチャゴス王子が試練に行きたくないと、鍵をかけて部屋にこもっているらしい。
 ――結局、がトーポを使って(トーポが何をしたのかは、たちには分からないのだけれど)チャゴスを部屋から追い出し、側近が出てきた王子を引きずるようにして謁見室へ。
 話を再開し、チャゴスが試練を受けるように、必死にクラビウス王が説得した。
 その姿は息子にとても弱い父親以外の何者でもないが、それに付き合わされるたちはたまったものではない。
 魔法の鏡を借りるためには仕方がないのだが。
 長々と説得され続け、ミーティアを引き合いに出して結婚をちらつかせながら、やっとの事でチャゴスを納得させたクラビウス王は、すぐさま側近に王子用の荷物を持たせ、大扉から街へと送り出した。
 彼は、トロデ王の馬車へ行くことになっている。
 街の外に馬車はひとつだけだから、すぐに分かるだろう。
 出て行った王子を一瞥し、は小さくため息をつく。
 クラビウス王はより深くため息をつき、王座に背を預けてもうひとつ息を吐いた。
「さて。そなた達もすぐに出発して欲しい。姫、もし其方がよければ、貴方がチャゴスの婚約者になる事も考えておいてくれ」
「……は? はぁ……」
 曖昧に頷くを引っ張り、が王に一礼してさっさと謁見室を出て行く。
それに続いてククールとゼシカも出て行った。



!? 腕っ、腕引っ張りすぎ!!」
 階段を下り、大広間に出たところでの叫びに気付き、は掴んでいた手を離した。
 はふ、と息を吐きながら手首を回す。
 何だか少しムッとしている様子の彼には首を傾げ、隣でニヤニヤしているゼシカに声をかけた。
どしたの?」
「さぁーねぇー」
 逆にククールは酷く真面目な顔。
 その状態で肩をつかまれ、は思わず彼の顔をまじまじと見てしまった。
「ククールも、どしたの?」
「……婚約なんかすんなよな?」
「いや、普通にそれはありえないから。いいから行こうよ。チャゴス王子って初見の印象で申し訳ないけど、非常に心が狭そうだから」
 の言葉に、一同頷いてしまうのであった。




かなり前に書いたんですよ。…ヤバい。文章読みづらいですね(汗)
これでも多少いじくったんですが…読み手様に御苦労をおかけしてすみません。


2008・5・30