サザンビーク 2


「王のところにも戻ってないよ」
 一旦外に出ていたが、息を弾ませて城下にいる仲間の所へ戻ってくる。
 報告を聞いたゼシカは不安げな顔をし、ククールとヤンガスは眉根を寄せた。
ったら……一体どこに行っちゃったのかしら」
 ゼシカがため息混じりに言う。
 情報収集もそれぞれ一区切りついた頃に集まってきたやゼシカだが、あまりに遅いをあちこち探し回っても彼女の姿はなく。
 トロデ王のところにもいないとなると、残る場所はひとつしか考えられない。
「……ひとりで城へ行ったとしか考えられないな、こりゃ」
 ククールの考えは、そのままたちの考えでもあった。
「何かまた妙な事になってなきゃいいんだけど……とにかく、行ってみよう」
 の言葉に、『嫌』と答える人間はいなかった。



 豪勢な茶器に、琥珀色の液体が注がれる。
 香り高い紅茶を入れ終えたメイドは、クラビウス王とに一礼して去っていった。
 残されたのは、王と、そして大臣のみ。
 ……凄い居心地ワルイ。
 内心では冷や汗ダラダラのをよそに、王は優雅にお茶を飲む。
姫も気楽にしてお茶を飲みなさい」
「はい。ありがとうございます」
 気楽になどできるはずもなく、ぎこちない動きを必死で隠しながら、紅茶に手を付けた。
 サザンビークの王と大臣という立場の人を前にすると、いかにも無作法な自分が発見できるという、とてもありがたくない一面を発見できた。
 ホントに、もっとちゃんと、礼儀作法を習っておけばよかった。
 教育係、ルシルダの言葉が脳裏に浮かぶ。
『いつ何時、必要に迫られるか分かりません。姫様がどう思おうと、これは必要な事なのですよ』
 ……ルシルダ、あなたは正しかった!
 ガチチコ、と固まった身体は、紅茶のふんわりした優しい味で、ほんの少しほぐれてくれた。
「わ。……とても美味しいです!」
 トロデーンのものより酸味が強いが、とても美味しい紅茶に思わず声が上がる。
 王は微笑み、メイドに伝えておこうと言ってくれた。
「さて。先ほどの話の続きだが……仲間と一緒に来たと申したな。トロデーンの兵ではない理由をお聞かせ願おう。その前に疑問がある。先日、あまりにも便りがないため、トロデーンに人を送った」
 先行きのやばそうな話をされ、少しほぐれた緊張がまた戻ってくる。
 責めている口調ではないが。
「……トロデーンは荊に包まれていた。人はみな死んだ様相だったという。姫はどうやって逃げ出したのかね」
 出来うる限り、捏造するしかない!!
 内心、冷や汗を垂らしながら、『私は演技派……』と念じる
「わたくしは、トロデーンがどうなったのか、実際その場を目にした訳ではないのです。見聞を広げるために、今の仲間と旅をしていたので。
 惨状は後に見ました。ですが、王や姉姫様はきっとご無事でいらっしゃいます」
「そうか……城をあのようにした犯人は分かっているのかね?」
 は頷く。
「ドルマゲスという奇術師のような男……だと聞いています。それで、クラビウス王にお願いがありまして」
「うむ、何だね」
「ドルマゲスを倒すために、こちらの城にあるという『魔法の鏡』が必要なのです。不躾ですが、お貸し頂けませんか?」
 王は腕を組み目を閉じて暫く考え込んでいたが――ゆっくりと首を振った。
「申し訳ないが、それは出来ない。
 トロデーンの現状には心を痛めるが、かといって正式なお迎えをした訳でもない貴女に、宝である『鏡』を渡せば、王家内の重鎮から反発があろう。
 それはトロデーンにとっても、わたしにとっても不利な事だ。心苦しいが――」
「そんな……」
 は肩を落とした。
 これでは、何のためにトロデーンの名を出したのか分からない。
「お願いです。どうしても――仲間のためにも鏡が必要なのです」
「……ふむ」
 切願するに、王は眉根を寄せた。
 そうして大臣を側に呼ぶと、何やらこそこそと話をしだす。
 不安な面持ちで見ているに、王はこほんとひとつ咳払いをした。
姫の仲間とやらは、いかほどの腕をお持ちだろうか」
「腕、ですか。……そうですね、少なくともサザンビーク周辺の魔物に、負ける事はないです」
「ほう」
 満足そうに頷き、王はにひとつの提案を持ち出した。
 側からすれば、提案というより、決定事項的な意味合いを持つものだったけれど。
「どうだろう。我が王子――ミーティア姫の婚約者でもあるのだが――チャゴスが受ける儀式に、その者たちを護衛者として付き添わせてくれるならば、魔法の鏡の件を考えよう」
 ――儀式?
 その願いを聞かない限り、は鏡を使用する許可をもらえない。
 だが、たちに相談もなしに決めてしまっていい事柄でもなく。
 少し考えた後、
「わたくしの一存では決められません。仲間の事ですし……あの、仲間たちと話をしてからお返事を返す、でも宜しいでしょうか?」
「では、その者たちを呼びに行かせよう」
「あー……いえ、わたくしが連れてまいりますから。お気遣いは無用です」
 ではそのようにと言い、優雅に紅茶を飲むクラビウス王。
 ちょっと厄介な事になってしまったと、は気取られぬほどの小さなため息をつくのだった。



この辺から捏造がザカザカと…。
2007・4・20
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