参入



 目覚めると、は柔らかなベッドの上にいた。
 起き上がろうとすると、背中に痛みが。
「いっつー。何かやったっけ」
 言った瞬間に思い出した。
「あー……ドルマゲスにやられたんだっけ、あたし」
 額に手をやり、大きく息を吐く。
 魔法でドルマゲスを縛ろうとして――弾かれたんだ。
 急ごしらえの魔法陣で焦って行動を起こしたものだから、こちらがこうむったダメージは半端ではなかった。
 あの後の記憶はすっぽり抜け落ちている。
 誰かが運んでくれたのだろう。
 周りを見回せば、たちはまだ眠りの中にいた。
 どうなったのか知りたいが、安眠を妨げるのもいかんだろうという事で、大人しくしておく。
 自分で自分にホイミをかけると、背中の痛みが引いた。
 ゆっくり立ち上がる。
 誰かが処置してくれていなければ、こんな風に立ち上がることも出来なかったろう。
 そっと扉を開き、廊下へ出た。
「……よう、起きたか」
「あ、赤い騎士さん」
「ククールと普通に呼んでくれ」
 こくんと頷く。
「あたしもって呼んで。ねえククール。あたし……どうなって。ああいや、それより院長さまは」
 彼の表情が目に見えて暗くなる。
 拳を握り、震わせている様子を見て、失言をしたと理解した。
 ごめんなさいとお辞儀をする。
「……いや、のせいじゃない。助けてくれようとしたろ?」
「……」
 肩を落とすの肩に、ククールが手を置く。
 慰めるように何度か軽く叩いた。
「院長の葬儀はもう終わっちまったけど、その気があるなら花を手向けてくれ。オレはたちに話があるからさ」
「うん、分かった。終わったら外にいるって言っておいて」
 頷いた彼に笑み、は階段を下り、教えられた場所へと移動した。



 花が風に乗って時折舞う。
 共同の墓地ではなく、代々の院長が眠るというその場所の一番新しい石碑の前に、は立っていた。
 騎士や修道士たち、外部の弔問者などが置いていったであろう花束が、ところ狭しと石碑の周囲に置かれて、甘い香を溶け込ませている。
 は跪き、胸の前に手を組んで黙祷を捧げた。
 ――助けられなくてごめんなさい。実力が足りなくてごめんなさい。でもきっとあの男を止めて見せます。どうか安らかにお休み下さい――。
 静かに祈りを捧げ、ゆっくりと目を開いた。
 オディロ院長は何故屠られねばならなかったのか。
 ドルマゲスの真意は全く分からない。
 既に、マスター・ライラス、ゼシカの兄サーベルト、そしてオディロ院長の3人がかの手によって屠られている。
 彼らでなければいけない理由があったはずだ。
 しかし考えてみても、には分からなかった。
 引っかかりはあるのだけれど、何に引っかかっているのかが分からない原状では。
「院長さま、失礼します」
 深々とお辞儀をし――石碑を背にして歩き出した。




 外に出ると、既にたちが待っていた。
 パーティの中に赤い姿をみとめ、は首をかしげた。
「あれ、ククールどうしたの」
 が代わりに答える。
「彼は僕らに同行する事になったんだ。一緒にドルマゲスを追う」
「そっか。よろしくね!」
 握手を求めると、ククールは口の端を上げての手を取った。
 そのまま手の甲に軽く口付ける。
 思わず手を勢いよく引っ込めた。
「ひわ!! な、なにすんのさ!!」
「何って、ご挨拶さ。これからよろしくな、。ゼシカと君とは特に仲良くしたいんでね」
 にやにや笑いながら言うククールに、ヤンガスがため息をつく。
「全く、とんでもない女好きでがすな」
「ふん。レディーには相応の扱いというものをしなけりゃな」
 だろ、とにこやかに言うククール。
 ゼシカは呆れ、は困った。
「うわ、、なに?」
 いきなりククールがキスをした側の手を掴んだかと思うと、彼はの手をごしごしと袖で擦った。
「ひでえな。それともはお前のなのか?」
「そ、そういう事じゃなくて。……さあ、出発しよう。マルチェロさんから地図ももらったし」
 空々しく言い、はミーティアの前に走りこんだ。
 ククールとは顔を見合わせる。
「なあ、ホントはどうなんだよ」
「どうって?」
「お前らの関係さ」
 関係ねえ……。
「……兄と妹、かな」
 顎に手をやりながら真面目に呟く。
 色気がないなとククールは苦笑いした。


久しぶりの更新だ…。
2006・8・16