赤い聖堂騎士



 ドニの町へ入ったたちは、まず酒場へ向かった。
 情報収集といったら酒場。基本中の基本である。


 独り2階で話を聞いていたは、1階での騒ぎに驚き、慌てて階段を駆け下りた。
 階段を降りきったの目の前を、椅子が飛んで行く。
「……は?」
 一瞬動きが固まる。
 椅子が飛んで行ったような。いや、飛んで行った。
 飛んだ椅子は激しく人に(痛そう!)当たる。
 テーブルはひっくり返り、あちこちにカードが散乱していた。
 今まで旅をしてきて酒場には何度も足を運んだけれど、こういう状況を見るのは初めてだ。
 がちゃこんとグラスが割れる。
 飾台が飛んで行く。
 酒の瓶が行ったり来たり。
 わけが分からないが、今自分の立っている位置はとても危険だと判断し、のいる位置を探してそこまで走る。
「ちょっと、コレなに!」
 彼は困ったように笑み、乾いた笑いを零す。
「いや……赤い服を着た人がイカサマをしたって言うんで、あそこでヤンガスと格闘してる人たちが騒ぎ出した」
「それでこうなったの? 暴れてるだけで解決するのかな」
 しないと思うと言ったの少し前から、赤い光が。
 ゼシカだ。
 その片手に赤々と燃える魔力が……。
「ちょ、ちょっとゼシカ、この中でメラはマズ……」
 が止めようとしたと同時に、ゼシカの方から走ってきた赤い光がぐっと腕を掴んだ。
 そのまま裏口から引きずり出される。
 なに、なに!??


 裏口を出た
 腕を束縛しているものがなくなったのに気付く。
 それと同時に、自分の目の前に赤いものがあるのにも。
「……ん?」
 どうやら人の背中だ。
 少し離れるとその人は振り向いた。
「いや、助かったぜ。少し荒稼ぎしすぎたんでね……」
 ニヤリと笑うその人は、端正な顔を持つ男性。
 銀色の長い髪が風になびいている。
 きょとんと彼の顔を見つめていると――
「おやおや、俺に惚れたかいお嬢ちゃん」
「ちょっとアンタ! から離れなさい!!」
 間に、ずい、とゼシカが入り込む。
 凄く怒っている気がするのは気のせいだろうか。
 恐らく赤い服の彼に物凄く反発感を抱いているゼシカは、に引き渡した。
「……ふぅん」
「なによ」
 ゼシカが腰に手を当てて威嚇する。
 しかし男性は気にも留めていないのか――す、手袋を取ると指にはまっていたリングを取り、ゼシカの手に渡した。
 物凄く優雅な動きで。
「俺の名はククール。マイエラ修道院の騎士だ。この指輪を」
「ちょ、ちょっと! いらないわよ、こんなの!!」
 しかしククールは全く聞かず、ゼシカの手の中に握りこませる。
「再会の約束代わりだ。修道院に会いに来てくれ。それがあるなら俺のところまで来れるからな。いいか、俺の名はククールだぜ」
 じゃあな、と爽やか過ぎるほど爽やかに立ち去る。
 まさに風のようだとは思った。
 赤色をした風。
 ゼシカはため息をつき(ため息と言うより空気の塊かも知れない)指輪を睨みつけた。
! さっさと修道院に行ってこれをつき返すわよ!」
「あ、うん……ヤンガスと合流しないと」
「じゃあさっさと拾って行きましょう! ああ腹立たしいわ、ああいうの!!」
 怒り心頭のゼシカ。
 じろじろ見られたのが相当頭にきている。
 は指輪を見やり、素直な感想を零した。
「なんか綺麗だけどなぁ」
「指輪が欲しいなら僕が買うから、あの人にねだらないように」
「……指輪より今は強い武器」
 非常に現実的な答えを返すであった。



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クク出てきました。聖堂騎士、赤いの(クク)と青いの(マル)は非常に癖がありますね。
2005・1・17