小噺 「ところで、ヤンガスってどういう経緯での弟分になったわけ?」 というゼシカの疑問に、ヤンガスが嬉々として『兄貴との聞くも涙、語るも涙の物語』を話し始めた。 セミがまだ鳴いている頃合い。 と、トロデとミーティアは、トロデーン領内をトラペッタ方面へ向かって歩いていた。 太陽は高く、日に照らされた大地は『暖かい』を通り越して、暑いほどである。 手布で額に浮き出る汗を拭いつつ、ミーティアの後ろを歩く。 「、橋を渡るよ」 に言われ、彼の側に駆け寄る。 大きな吊り橋が目の前にあった。 「馬車、だいじょぶだよね」 トロデ王を見ながら言うと、 「トラペッタや他の地から行商のどでかい馬車が通ってたんじゃ。ワシら程度の馬車で落ちるような作りじゃないわい」 「うん、安心」 カラカラと音を立て、馬車が橋を渡る。 ――中央にさしかかった時。 「テメエら待て!」 待てと言われ、が馬車を止める。 まあ橋のど真ん中に立ちはだかられていては、通るものも通れないけれど。 男はトゲトゲの黄色い帽子をかぶり、手には大きな槌を持っていた。 体型はずんぐりしていて、顔はお世辞にも真人間ではない。 「オレは泣く子も黙る大盗賊ヤンガスだ! テメエら全ての金目の物を置いていけ」 口上に、は眉根を寄せる。 「泣く子も黙るじゃなくて、泣いていない子も大泣き、の間違いじゃ」 ぴき、とヤンガスの頭に怒りマークが表れた。 「う、うるせぇ! とにかく荷物を置いていきやがれ!! さもないと」 「ふん、脅しなどには乗らんぞ。、無視して行くぞ。跳ね飛ばしても構わん」 結構酷いことを言うトロデ王。 「しかし王、それは」 が困惑していると、ヤンガスの方が先に反応を起こした。 トロデ王の言葉に怒った彼は――自分が立っている場所がどこなのかをよく考えなかったに違いない――持っていた槌を振り下ろした。 激しい音と共に、板が割れる音がした。 大きく吊り橋が揺れ、バランスを崩すをが支える。 「あぶなー! ……あれ、あのひとは」 盗賊の姿が見えないなと橋の上を凝視すると、彼がいた場所の板がずっぽり抜け落ちていた。 指だけが見えている。 トロデ王は鼻を鳴らすと、に早く橋を渡りきるよう指示した。 急いで橋を渡りきったところで――橋が崩壊する。 ばきゃ、とか、みし、とか、どかん、と音がした。 は慌てて崖に近寄る。 下を向くと、あの盗賊は綱に捕まって、今にもおちてしまいそうな状態だ。 「だ、だいじょぶー!?」 「う、うぅ……」 うめく盗賊。しかしトロデ王はつーんと横を向いたままだ。 「さあ、先を急ぐぞ。あんな悪党は放っておくがよい」 からからと先へ行くトロデ王。 は眉根をよせ、を見た。 彼は笑み―― 「助けよう」 ひとことだけ言うと、盗賊のぶら下がっている綱を引き下始めた。 「ヤンガスさーん、もう少しだからしっかり?まっててね!」 声をかけ、は橋の杭にロープを結びつけ、にの腰を縛る。 一応の安全処置だ。 なんとか引っ張り上げられたヤンガスは、を兄貴分として慕い始め、それからずっと旅を同行している。 「……とまあ、こういういきさつで兄貴の仲間になったわけでがす」 「ふ、ふぅーん」 ゼシカが少し引きつっている。 確かに美談のような感じはするけれど、なりきれていない感じはあるから当然だ。 「のことを、姉貴分とは言わないのね」 ヤンガスが頷いた。 「は呼び捨てがいいって聞かなねえんでげすよ……」 「姉貴なんて呼んだら、弓で射る」 すぱっと言うに、が苦笑した。 「聞くも涙、っていう感じじゃないわね」 ゼシカが呟くと、ヤンガスは気持ち高揚した声で、 「こ、これからでげすよ!」 胸を張りながら言った。 「あー、いいわ。また今度にする。、少しつきあわない?」 ゼシカに言われて頷く。 ヤンガス物語を聞き続けると、多分きっと疲れてしまう。 南の大陸への航路のひとときの話だった。 ------------------------------------------------------- 何がどうってもんでもない話でした。…進まないなぁ。 2005・11・8 戻 |