過剰アプローチ





〜、ちょっといいか?」
「嫌」

、一緒に給食食べよう」
「駄目」

!体育館まで一緒に‥」
「お断り!!」

‥‥‥」
「(無視)」



「‥‥あぁもう‥‥うるさぁぁぁい!」
「あははー、ちゃん、大変だね」
人事だと思って‥‥。
面白そうに笑っている友人、祥子にジト目を向ける。

男子に人気のない、大人しい小学6年生‥‥だったのだが。
何故だか校内人気ナンバーワンの、東雲尽に付け狙われ‥‥というか、
付きまとわれている。
自身ははた迷惑極まりないのだが、尽はそんなのお構いなし。
とにかく、尽のアプローチは他に類を見ないぐらい強烈だった。
相手が嫌がる事はしない主義の尽だったが、そんな事を言っていたらラチがあかない。
何しろ、相手は自分を好いてはいないのだから。
受身でいたとしても、彼女から好きになってくれる事は、まず考えられない。
だとしたら、やっぱり攻め続けるしかないんじゃないか。
‥‥と、そこまで考えていたかどうかは不明だが、
逃げ続けるを、尽はとにかく毎日追っかけていた。
焦っているといってもいい。
今はまだ、前と同じ、顔をあまり見せず、ジミィ〜なままの姿だが、
自分が一目惚れしたようなヘアスタイルになったら?
他の男子だって、態度を180度変えるに違いない。
そんな訳で、事あるごとに接点を持とうと、涙ぐましい努力を続けていた。
「‥‥ねぇ、なんでオレってそんなに嫌われてるのかなぁ」
黙々と本を読んでいると、正面向かいになるように座りつつ、
尽は素朴な疑問を投げかける。
彼女は盛大に溜息をつくと、前も言ったでしょ、と素っ気無く答えた。
要するに、あれこれと手を出す‥‥というか、
彼女が何人もいる奴を信用しない、という事。
「信用しないのは、嫌いの理由じゃないんじゃ‥‥」
「‥‥」
「それにさぁ、なんで前髪下ろしてる‥‥っていうか、顔隠すんだ?
前みたいにちゃんと顔見せれば、カワイーのに」
はパタンと本を閉じ、尽ときちんと話をする事に決めた。
このままでは、本を落ち着いて読む状況ではないと判断したらしい。
「あのさ、東雲君。私はカワイーなんて思われたくないし、
このままで充分だと思ってるの。男子に暗い子と思われてるほうがいい」
「どうしてだよ」
「‥‥前の学校で、色々あったのっ」
本来、は元気が良すぎるぐらい明るい。
それは、現時点では祥子しか知らない事。
今の状況は、不本意極まりなく。
大人しく本なんて読んでいる人種からは、程遠い性格なだけに、
学校では一生懸命自分をひた隠しにしている。
それもこれも、目立たないために。
前の学校では、元気が良すぎたために男子と同じ扱いを受けたり、
男子と仲がいいために、女子にやっかまれたり、女らしくなさいと怒られたり、
女子に告白されたりと、散々だった。
だから、引っ越した先のこの学校では、一生懸命目立たぬ転校生をやっていたのに‥‥。
尽のおかげで、目立ちまくりである。
さすがに、溜息しか出ない。
「‥‥とにかく、付きまとうのヤメテ」
「嫌だ。だってオレ、の事好きだもん」
爽やかにほほえみ、さり気無く名前呼びにしてみたり。
不覚にも、赤くなる。
こうやって何人もの女子を落としてきたかと思うと‥‥、
動揺した自分を怒りたくなるが。
「か、勝手に名前で呼ばないでよね」
「お断り。の名前も可愛くて好きだしさ」
何気なく、”も”とか言ってるし。
「‥‥このままの私だったら、絶対好きにならなかったクセに‥‥」
ポツリ、呟く。
それに関しては、尽は否定できなかった。
確かに――あの日、彼女の別の姿を見なければ、
こんな風にアプローチする事もなかったような気はするし。
何もしなければ、男子の間では不人気的な彼女の事。
尽だって―――。
「ま、そゆコトだから」
立ち上がると、祥子の方へと歩いていってしまう
彼女は、まだ本当の意味で尽に微笑みかけてくれた事すらない。
どうすればいいか、分からなかった。
「‥そゆコトったって‥今更忘れらんないよ‥‥」
頭を抱え、机に突っ伏す。
その様子に、彼の自他恋人達は、怒りバロメーターを上げていた。
無論、尽にではなく、に対して。
まあ、そんな事はさておいて。
どんな事を言われようが、への気持ちは変わらない尽だったが、
彼女の笑顔が引き出せない自分に、結構ベッコリと凹む日々が続く。
甲斐甲斐しく花壇の世話をする彼女を見て、本気で草花が羨ましく思える。
の世話のおかげか、校庭の隅にただあっただけの花壇は、
見違えるように綺麗になり、先生や花好きの他の生徒まで、
見に来るようになった。
他クラスの女子や男子と、楽しそうに話をしているのを見ると、
胸がムカムカする。
(そんなに笑うなよ‥‥っ、男子が寄ってきちゃうだろ!)
友人と遊びながらも、チラチラの方を見る。
気になって仕方がない。
「尽!危ない!!」
「え?」
一緒にサッカーをしていた男子が、急に叫び、その声に反応して
視線を元に戻すと――‥‥
「っ!!」
‥‥顔面に、サッカーボールが飛んできて、思い切りヒット。
ボールはボテッと落っこち、2、3度跳ねた。
顔を押さえて、ビリビリした痛みを堪える。
怪我はないようだが、少し顔が赤くなってしまっていた。
「つっ、尽!ゴメン!!」
「いーよいーよ‥‥余所見してたオレが悪いんだから‥‥っつぅ‥‥」
徐々に痛みがなくなってきた。
その様子を見ていたは、尽のほうを見てクスクス笑う。
微笑みに気付き、彼女を見た。
小さい笑いだったけれど、それだけでも尽は嬉しくて飛び上がりそうになったが、
こっちが見ていると気付くや否や、
「べーっ」
と舌を出して見せた。
「‥‥」



姉ちゃん、女心って、難しいよな。

尽は、空を仰いでそんなことを思った。





2002・11・5
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