得意練成 1



「等価交換」
 錬金術の基本。
 何かを得るのであれば、それと同等の代価が必要である――。
 質量1の物から、質量4や5の物は作り出せない。
 その人物の得意とする属性を見極めれば、錬成訓練の能率もぐんと上がる‥‥のだが。
、お前ほんっっっとに、トロイな」
「‥‥兄さん、ダメだよ。更に落ち込むだろう?」
 そんなエドとアルの会話を聞きながら、話の矢面に立たされている人物、は、半分いじけながらも次の錬成陣を、地面にガリガリ書いていた。

 がエドとアルについて旅をするようになったのは、今から一週間ほど前の事。
 資料探しで立ち寄った家の主だった少女に、突然<師匠になって欲しい>と言われ、問答した結果、今に至る。
 それ以来、暇を見つけてはエドに錬成の指南を受けているだったが、なかなか上達しない。
 亡き両親が残してくれた左右のブレスレットは、錬成を助け、見習とは思えないスピードでのそれを成すものだったが、今は外されている。
したままでは、本来の力で訓練できないからなのだが、これがにはかなりキツかった。
「今までブレスレットに頼ってた弊害だな」
「‥‥‥‥ってい!」
 妙な掛け声と共に、錬成する。
 1本のフォークをナイフに変えるのに、けったいな時間がかかる。
 エドやアルの、ゆうに2倍か3倍。
「‥‥トロイな」
「‥‥うぅ‥‥」
 別に彼女に才能がない、という訳ではない。
 ただ、タイミングが上手くいかないんだと思う。
 ちょっと休憩しようと言う事になり、備え付けのイスに腰掛ける。
 言うのが遅れたが、ここは宿の1室。
 お金の問題から、3人部屋なのも付け加えておく。
「うぅー、師匠、私、にぶちん‥‥?」
 はエドに、悲しげな視線を送った。
 エドを師匠と呼ぶのは、旅に出てから今までずっとそう。
 彼自身はそういう呼ばれ方をされたくないのだが、彼女の泣きそうな視線を向けられると、そうそう強くは出られず、現在の所、なぁなぁになってしまって、この呼び方のままである。
 という訳で、エドは<師匠>、アルフォンスは<アル>という呼び方に落ち着いていた。
「‥‥とにかく、腹ごしらえしてからもう一回な」
「‥‥はい」

 ずらりと並べられたのお手製料理に、エドが”おお!”と感嘆の言葉を吐いた。
 相変わらず見事な出来栄えで、そこらの料理店と戦ったら勝てそうなほど。
 実際味もいけるし、錬金術師を目指すのをやめて
 コックにでもなった方がいいような気さえする。
 一同、頂きますをし、食べ始めた。
 今日も変わらず、アルの前にもきちんと食事が用意されている。
 そのままの状態で残る事が分かっていても、彼女はアルを特別視しない。
 勿論、いい意味で、だが。
 エドがそれを食べる事もあるので、別に問題もないし。
 なお、最近は毎食の食事を作っているが、材料は1回で使い切る程度、しかも値切ったりして安くしているので、大した金額の出費にはならない事を付け加えておく。
「さて、と―。、もっぺんやってみ」
「うん」
 片付けすらする間もなく、エドに錬成を催促され、さっきと同じくフォークを持ち出すと、テーブルから少し離れて発動させた。
 ‥‥本人は、物凄く一生懸命やっているのだが。やっぱり、トロイ。
「お前、さっき自分が鈍いかって聞いたけどな。‥‥うん、ちょっと鈍い、かも」
「ががーん‥‥」
 エドの言葉に、目に見えそうな影を背負う。
 はしょんぼりしながら、自分の持ち場‥‥要するに、台所へ戻って昼食の食器片付けを始めた。
 アルがエドに、じっとっとした目を向ける。
「兄さん‥‥もう少し‥‥」
「‥‥ちょーっとストレートすぎたか‥‥」
 今頃思っても、時遅し。
 その後、彼女は夜になっても沈んだままだった。




2003・8・20

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