さらさら



「師匠ー!」
 部屋に大股で入って来た自分の弟子に、小さくため息をつく。
 それに気付いた風でもなくにこにことしている彼女。
「……。いー加減慣れろよ」
 名前で呼べと散々言っているのに、相変わらず一日に数回は『師匠』と呼ぶ
 徐々に素直に名前で呼ぶようにはなっているのだが。
 この調子でエドの師のところへ行こうものなら……
(そ、想像したくねえ!!)
 は首をかしげ、ぶんぶんと頭を激しく振っているエドの側による。
「し……えっと。エド?」
「あ、ああワリィワリィ。なんだ?」
「あの、あのね」
 言いつぐむ
 顔はほんのり赤く、見上げてくる目は少々潤んでいたりして。
(……うっ……か、カワイイ……)
 思わず見つめ返すエド。
 部屋の中が薄暗ければ、もっとこう……いい感じだろうにと思うのだが、残念ながら外から燦々と太陽の光が差し込んできている。
 はっきり言って、恋人同士の語らいにはムードが足りない。
「……あのね、エド、その」
「なんだよ。はっきり言えって」
 怒ることなのかと問えば違うと答える。
 はエドを真っ直ぐに見、やっとのことで目的を口にした。
「三つ編みして下さい!」
「……は?」
 甘さもへったくれもないセリフに、思わず間の抜けた声を上げた。
 ちょっと待ってくれ。
 あれだけ頬を染めて、モジモジしながら引っ張ったセリフがこれか!?
 ……ちょっと、いや、かなりガックリ来た。
「エド……?」
「……期待しちまったじゃねえか」
「はい??」
「なんでもない。……で、三つ編み? 自分でできないのか?」
 はこくんと頷く。
「自分の髪の毛いじるの苦手なの。エドみたいに綺麗にまとまらないし」
「ま、いいけどさ。んじゃあそこ座れよ」
 イスを示し、を座らせる。
 乱雑に結んであるゴムを取り、部屋に備え付けてあったブラシで梳いてやる。
「お前の髪、サラサラだな」
「そう、かなあ。ガチガチの方がいい?」
「いや。まあ結ぶのに関しては、多少硬い方がいいかも知れないけど、俺は今のがいい」
「……うん」
 えへへと笑い、静かになる。
 エドは丁寧に髪を三つの束に分け、器用に編んでいく。
 うなじに指がかするたび、の体がほんの少し――本当に小さく跳ねた。
 わざと擦れば、困ったような、怒ったような声。
「エドー! 意地悪してる!!」
「悪い。なんか反応が可愛くてさ」
「か……っ!! ……うぅ」
「怒るなって。……ほら、終わった」
「あ、ありがとう」
 は嬉しそうに三つ編みを手にしてから、立ち上がってぺこりとお辞儀をする。
「なんで三つ編みにしたかったんだ?」
「……エドとお揃いにしてみたかった……だけ」
「――っ……お前、勘弁してくれよ」
「え、え?? ダメ??」
 エドはを引き寄せ、そっとその口唇に己のそれを重ねる。
 目を瞬かせているの頬が、かっと赤に染まった。
「や、あ……の、そのっ」
「……スゲエ可愛いし」
「じゃあ! 今日の修行はナシで――」
「なにが、『じゃあ』だ。それとコレとは全く別もんだろ」
「……分かりました、師匠」
「だーかーらー、名前で呼べっての」

 エドの苦労はまだまだ続く。




580000hit、有紀さまからのリクでエド(甘)でした。
2005・7・1
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