あの頃、僕たちは。 「ねえねえ、ちゃんってウチのお姉ちゃんに会ったことあるの?」 相変わらず唐突な切り口で、真宵が聞いてきた。 は口にしようとしていた芋ようかんを一瞬止め、頷いてから咀嚼し始めた。 後ろの席――仕事用デスクに座っている成歩堂の顔が、微妙に変化したが、話を気にしている真宵と、真宵を気にしているは気付かなかった。 口の中に放り込んだ芋ようかんを食べ終わると、お茶を一口すすり、は真宵に問う。 「どうして私が会ったって知ってるの? 言ったことあったっけ」 「ううん。ついこの間、なるほど君が被告人になったっていう、昔の話を小耳にしてね、それでちゃんが傍聴してたって」 「……その情報源は」 ちらりと背後にいる成歩堂を見やる。 彼は明らかに眉を潜めていた。 ――まあその記憶は、思い出したくもないものの分類に入るのかも知れない。 真宵は明るく言う。 「もちろん、なるほど君だよー。お姉ちゃんの昔の事件ファイルのこと色々聞いて、それで知ったんだけどね」 「そっか」 「それで?」 それで、と促されても。 何を言えばいいのか、正直なところ分らなかったりする。 「えーと。うん、会ったけど……会ったって言うよりは、見た、って感じかなぁ」 「ふぅん。話をしたりとかはしなかったの?」 傍聴席で見ていただけであって、話をするような関係ではなかった。 美人の弁護士さんだなぁ、と思っていた気はするけれど。 「残念ながら」 苦笑するに、成歩堂が疑問を挟んだ。 「……ところで、どうしてちゃんは傍聴を? 確か父親が連れて行った……んだよな?」 「うん、そうだよ」 真宵がうんうんと頷く。 「だって、二人は一応、遠い親戚だものね」 「それはそうなんだけどねぇ……でも確か、どうでもいい理由だったはずだよ」 よくは覚えていないが、父親の『予感』とかいう、その程度の理由だったと思う。 もし、成歩堂の一家と交流があったなら、傍聴しに行くというのも分からないでもない。 が、交流はなかったはずだ。 ――実際は繋がりがあったのかも知れない。 成歩堂龍一になのか、はたまた綾里千尋になのか――それとももっと別の、何か深い事情があってか、それは分からないが。 いずれにせよ、両親が故人となったことで、成歩堂家とつながりはなくなるはずだった。 が成歩堂法律事務所に、仕事を求めて来た、ということさえなければ。 「ま、どちらにせよ、私はなるほど君と一緒に仕事できていいかなと思ってるから、別にどうこうと考えないけど」 真宵がにやりと笑う。 「え、それってノロケかな?」 「……真宵ちゃん、なんかオヤジくさいよ」 苦笑しながら言うに、真宵は膨れっ面をする。 さすがにうら若き乙女に、オヤジはまずかったか。 成歩堂がわざとらしく咳をし、は後ろを向いた。 「どうかした?」 「……別に」 「……そ」 これ以上、余計な話をするなということだろうと判断したは、事件について聞きたそうにしている真宵に無理矢理芋ようかんを勧め、口を封じさせた。 これで駄目なら、ヒメサマンかトノサマンに頑張ってもらおう。 「あ、このようかん美味しいー!」 ……戦隊ものの出番はなくなったか。 再度、成歩堂の顔を見やれば、彼は少しだけホッとしたような顔をしていた。 は小さく呟く。 「案外、あのこと吹っ切れてなかったりして……」 「ちゃん、何か言った?」 成歩堂に問われ、首を横に振る。 なんでもないよー、と。 物凄い突発で書いた品。今やってる(2008/5月現在)続きものと組みしているようなそうでないような。 2008・5・5 |