囚われ続行中




 どれぐらいの時間が経ったのか、分からない。
 今、と真宵がいるのは、最初にいた軟禁場所――ワインセラーらしき所――ではなく、どこぞの古いオフィスビルだった。
 窓の外にテントが見える。
 この間、とある事件で関係した、タチミサーカスの天幕のような気がする。
 タチミサーカスには、マックスというマジシャンがいる。
 彼は空飛ぶイリュージョンを披露するのだが、は彼がここまで飛んで来て、助けてくれないかと、相当アホな事を考えた。
 ――かなり切羽詰ってきてるなあ、私。
 気だるい体を引きずり、部屋の端で横になっている真宵の隣に座った。
 埃っぽい床に横たわる彼女の身体には、元々が着ていた上着が掛かっている。
 いくら4月が目の前でも、冬の残り香があって肌寒い。
 そんな中で眠れば、当然体温が下がる。
 出来る限り真宵を辛い目に遭わせないよう、は自分が出来る範疇のこととして、上着をかけた。
 誘拐されてからこれまで、は食物を口にしていない。
 ホテルから持ち出していた飴とチョコは、総て真宵に与えていたからだ。
 与えられるものといえば水ぐらいで、それもほんの少しだけ。
 真宵はどうか知らないが、は既に空腹を通り越し、誘拐されているという緊張も伴ってか、何も感じなくなっている。
 ただ身体が重く、思考が上手く働かない。
 このままでは不味いのだが、達は、元々は社長か誰かが使っていたであろう部屋に押し込められている。
 外の通路に出ようと思うと、コロシヤの目の前を通らねばらない状況。
 逃げようがなかった。

「……ちゃん」
「真宵ちゃん……起きた?」
 のそりと体を起こす真宵は、明らかに顔色が悪い。
 も人の事を言えない状況下ではあるが。
「…………裁判、どうなったのかなあ」
 微かに掠れた声の真宵に、は瞳を伏せる。
 まだ自分たちが生きているということは、王都楼は有罪判決を下されていない。
 かといって、無罪になったわけでもないようだし。
「分からないけど……きっと、だいじょぶだから」
 軽く真宵の頭を撫でてやると、彼女は微笑んだ。
 真宵のように、霊媒の能力を持っていない
 己を歯痒く感じてしまう。
 成歩堂に迷惑をかけてばかりで、なんら助けにもなれなくて。
 ネガティブな思考に呑まれるのは、状況も具合も悪いからだろうか。
 軽く頭を振り、それだけで少し視界がぐらつく。
 ――簡単に頭も振れない状態だなんて。
「そういえばちゃん、頭の怪我は大丈夫?」
「え? ああ……だいじょぶ……だと思う。血はとっくに止まってるし」
 後で傷薬でもつければいいよと軽く笑うと、真宵も力なく笑う。
「真宵ちゃん、ガンバロ。私には何もできないけど……守るからね。それに、なるほど君はきっとあなたを助けてくれるよ」
「……なるほど君、叫んでた」
 なんの話だと首を傾げるに、真宵は続ける。
「まだ、ちゃんが気絶してた時。コロシヤがなるほど君に連絡取って、色々話をしてたの。その時にね……『の声を聞かせろ』って、絶叫してた」
 コロシヤが声を聞かせたのは真宵だけ。
 その時、は深く意識を失っていたから、当然声など聞かせられなかったはずで。
 成歩堂が自分の身を心配してくれたことが、なんだか凄く嬉しかった。
 誘拐されているのだから、心配は当たり前の事のような気もするけれど。
「なるほど君、ちゃんが大事なんだよ。だから、あたしばっかり気にしないで、自分のことも気にしてね」
「真宵ちゃん……」


 コロシヤが行動を起こしたのは、それから数時間が経っての事だった。
 何がどうなったのか分からないけれど、成歩堂がなにかやってくれたのだろう。
 どことも知れない場所へ移動させられようとしていた矢先に、突然、解放された。




かなりアバウトに書いてます。違うトコも多々ありますが、ご容赦を。
2007・6・27