裁判終了後 静かな法廷に、弁護士、成歩堂龍一そのひとの声が響いている。 手には証拠書類。 それを机に置くと、ばん、と机を叩き、びしぃっと音が立ちそうなほどにきっちり、激しく、証言に立った男性に指を突きつける。 「――以上の事から、被告人は無罪であると主張します」 ふむ、と裁判官は頷く。 「検事、異論は」 「うっ……あ、あぅ……ええと」 「……ないようですね」 裁判官のひとことに、がっくりと力をなくす検事と証人。 だん、と木槌を打ち鳴らし、裁判官が判定を言い渡した。 無罪、と。 「おつかれさま。今日も激しい突っ込みで」 弁護側に用意された部屋のソファで休憩している成歩堂に、ペットボトルのお茶を渡す。 彼はそれで喉を潤し、ぷはぁ、とたまった緊張を吐き出すかのように息をついた。 は彼の向かいのソファに座り、今日の報告書をまとめている。 本格的なファイル作成は事務所に戻ってからだが、空き時間で纏められるものは纏めてしまうというのが、のスタイルだ。 ちょっとしたことなどを忘れてしまわないうちに、というのが正しいところだが。 ちゃかちゃかとメモを取り、持って来ていた書類入れに報告書をしまう。 「依頼人も凄く喜んでたし、今回もヒヤヒヤながらうまくいったよ」 「ヒヤヒヤしてるようには見えなかったけど」 いつもながら、傍聴席側にいると、成歩堂の態度はヒヤヒヤしているように見えない。 勿論、詰まったりする場面もあったりするのだが、たいていの場合、証人などの言葉の矛盾点を調書や証拠品に基いて正確に突き詰めているので、内面の動揺を量るのは難しい。 その後の話を聞くと、とっても動揺していたりするのが分かるのだが。 「とにかくご苦労様。私もなにか手伝えればいいんだけどね……」 「ちゃんって結構鋭いトコ突くからなぁ……今度法廷で助けてもらおうかな」 「うへ、冗談でしょ? 失敗でもしたら、依頼人にもなるほど君にも申し訳が立たないもん」 「そんなことないさ。――その、いてくれると嬉しいけど……って、なに言ってんだぼくは」 ……嬉しいとか、嬉しくないとかの問題だろうか。 それに、その発言はちょっと……あれですね、誤解されるよ、うん。 内心の声を表情にすら出さず、ちょっぴり横を向く。 「あ、あー……ええと。考えとく」 ――しかし声にしたら、動揺が表れていた。がっくりだ。 成歩堂はどことなく顔を赤くしながら、ペットボトルのお茶を咽喉に流し込み、窓の外を見やる。 「ちゃん」 「うん?」 「なにか食べて帰ろうか」 「――なるほど君。報告書作成まだなんだけど」 彼は苦笑し、 「手伝うからさ」 結構強引に約束させ、は成歩堂と一緒に食事をして帰った。 事務所へ報告書の作成をしに戻ったと成歩堂。 しかし、前日徹夜だった成歩堂は、疲れてソファでぐったりと眠ってしまい、結局が書類を完成させ――その上、起こしても起きてくれない彼を放っておくこともできず、一晩一緒に事務所でお泊りをしてしまった。 ちなみに。 起きた時の成歩堂の第一声は 「ぼく、ちゃんの事襲ったりしてないよな!?」 だった。 ……心配するような夢でも見ていたのだろうか。 2005・5・21 ブラウザback |