助けますから! 殺人の容疑者として逮捕され、留置所に入れられた御剣。 からは、やはり少し顔色がすぐれないように見えた。 『君にだけは弁護を頼まん』 彼ははっきり、成歩堂にそう告げた。 梃子でも動きそうにない彼の様子に、成歩堂はイスから腰を上げる。 彼が何かを隠しているのは確実。 だとしたら、今必要なのは、ここで彼と話をしていることではない。 「……また来るよ、御剣」 「あ、なるほど君。ちょっと先行ってて。私御剣さんともう少し話するから」 「じゃあぼくも……」 「すぐ終わるからさ!」 「いや、でもさ」 複雑そうな表情を浮かべる成歩堂。 ちょっとだけ出ててねと、半ば強引に、彼と、驚いている真宵を押し出した。 ふう、と一息つき、改めて御剣に向き直る。 「わたしに聞き忘れでもあるのだろうか。何度も言うが、彼に弁護を頼むつもりはない」 「いや、それはそれとして。私、言いたいことがあって。……まあ個人的に」 なんだろうかとこちらを見る御剣。 は微笑む。 「御剣検事、安心して下さい」 「なにを、だ?」 「助けますから」 彼はをまじまじと見、 「……君は人の話を聞いているのか?」 呆れたみたいに溜め息をついた。 「聞いてない風ではありますが、御剣検事の意向は分かってますよ」 言葉を挟もうとした御剣を、は軽く手で制す。 とりあえず聞いて、の意。 「なんで関わらせたくないかも、今は言ってくれないでしょう? だから返答はいいです。けど、貴方が嫌がっても助けます。少なくとも、なるほど君はそうします。もちろん私も」 「……止めてくれと言っている」 「止めません」 はっきり、きっぱり断る彼女。御剣の眉根がきつく寄せられる。 だが嫌悪の表情ではないと、は思う。 分かりにくいが、困惑、だろう。 「貴方はこの前の裁判で、なるほど君を助けてくれた。私の親戚で雇用者の彼を。私は恩を感じてます。だから助けます。意地でも」 「余計なことだ」 「それでもです」 御剣は暫くをじっと見ていたが、ややあって苦笑した。 何かを失敗した、出来の悪い弟子を許すような、笑み。 「……さすが成歩堂の親戚だな。諦めの悪さがすさまじい」 「……そうでもないっていうか、私のはワガママに近いかと」 「ワガママ?」 はこくんと頷く。 「知り合いが傷付くの、見たくないんですよ。特になるほど君に関わりの深い人のは」 その誰かが傷付くと、成歩堂も少なからず衝撃を受けるから。 「……果報者だ、あの男は」 呟く御剣。 は笑う。 「いやあ、苦労してると思いますよ、私みたいな親戚が側にいて」 言うと、彼女は立ち上がる。 そろそろ行かなければ。 成歩堂はどうか分からないが、真宵が痺れを切らしそうだ。 「また来ますね。今度は口を割らせる材料を持って」 「ム……。そうならないように願っておこう」 絶対に見つけますからと笑いつつ立ち去る。 彼女の背中が扉の向こうに消えたのを見て、御剣はそっと息を吐いた。 「……親戚、か」 果たして成歩堂がそう思っているのだろうか。 に、部屋から押し出される前に見せた、彼の表情。 明らかに『親戚の女性』にするものではなかった。 「……苦労が多いな、成歩堂」 全く気配を感じ取られていない幼馴染を、少し不憫に思う御剣だった。 うちのサイトでは、御剣さんは振り回され役的です。 (日掲載日・2008/5/11) ブラウザback |