Sweet Inganity 5 動きにくさ倍増の着物を無理矢理着付けられ、彼女は今、自室で考えをめぐらせていた。 このままここにいれば、そのうち迎えに来るであろう、勝手に決められた、自分の将来の旦那と、お決まりのお見合いパターンの後、更に勝手に話を進めれらてしまうだろう。 「…冗談じゃないわ」 は唇をかみ締め、今、自分が何をすればいいのか、必死で頭をめぐらせていた。 昨日、パーティ会場を後にしたたちは、家について直ぐ、大広間に連れ出され、紫にこっぴどく怒られた。 だが、どんなに罵声を――といっても静かなものだったが、怒りをぶつけられようが、は頑として紫の意思には沿わない。 「…まったく、貴方は自分の立場がわかってないようですね」 紫は、自分が立てた茶を飲みながら、を見据えて、深く嘆息する。 この娘は、全く判っていない。 自分がどんな立場にいるのか、判ってはいない。 それが、紫には腹立たしい事だった。 「…おばあ様、私は…」 「いいですか、。貴方は、菊乃の本当の娘ではないのですよ? それを、わざわざの加護の元に入れているのです。本来血の繋がらない貴方をです」 「………」 「菊乃は、不妊でした。あの男…貴方の父にそそのかされて、社長婦人になどなって…。あの男がいなければ、菊乃は愚かな死を迎える事もなく、の正当な後継者として、立派な…」 「それ以上、父と母を侮辱しないで!!」 は、祖母の余りの言い様に、拳を握りしめ、正座のまま、俯いて体を怒りで震わせていた。 祖母といえど、これはあんまりではないか。 両親は、自分にとっては厳しいながらも優しい人たちだった。 自分の出生の秘密を知った今でも、慕っている。 それを、こんな風に――。 だが、紫の方は、の言葉に眉をひそめた。 言い返そうとして口を開きかけ――また閉じて、少しの間思案する。 過去はどうあれ、の意志がどうあれ、彼女は今、一番<家>にとって大事な<人材>なのだ。 「…とにかく、今、家は非常に不安定な状態です。それを、娘、菊乃の…血が繋がらなくとも娘である貴方が、立て直す。貴方の義務であり、責任です」 「そんな! 勝手よ!!」 「既に手配は済んでいます。…無駄な抵抗はおよしなさい。アメリカでの事は、一切忘れてしまいなさい」 紫はそれだけ言うと、その後一切のの発言に、聞く耳を持たず、部屋へと桐生に連れて行かせた。 「…アメリカでの事を忘れろなんて、無茶な話よ…」 確かに、日本で…成り行きとはいえ結婚してしまえば、もしかしたら普通の生活に戻れるかもしれない。 昔の――日本に住んでいた自分だったら、甘んじて受けたかもしれない。 だが、今は到底無理だ。 出会ってしまったのだから。 自分が、責任を持ってやりたいと思う仕事。 それを取り巻く、人々に。 「…逃げられるかな」 もう暫くすれば、迎えの車が来てしまだろう。 正確な時間は知らされてはいないが、着付けが終わった時間から考えても、そう長くかかるとも思えない。 部屋の外には、相変わらずガードがついている。 外に出るまでガード付きという事も、大いに考えられる事だ。 桐生が張っているという事も頭に入れれば――。 チャンスは、多分、一度きり。それも、かなり厳しい。 トントンと、二度、ノックの音がした。 「様、お迎えのお車が来ました」 「…………今、行きます」 考えのまとまらぬまま、は静まり返った廊下を、桐生の少し後ろを、なるべくおしとやかに見えるように歩いていく。 ………どうする? 「…マサヤ、あの車のある家か?」 スネークが家の近くで、正也と一緒になって家を視察していると、車が乗り込んできた。 「え、ええ…ですけど…何かあるんでしょうかね」 ガードの物々しさが、何かがあるんだろうと予感させる。 ………車の中には、運転手と、もう一人…。 「あの男は…?」 「……あー、えぇと…確か、八ヶ瀬グループの…若社長だと…」 「………! あれは!」 「!!」 は、桐生と紫に押し出されるようにして、玄関口にその姿を現した。 結局、途中で逃げ出す事は出来ず、どうするかと考えた末――、逃げるのなら、出入り口に近づいてからだと言う結論を出していた。 車に乗り込む前の、一瞬の間が、勝負。 履物を履き、ふと、視線を車の向こうへとやった時―――救いの手が、見えた。 はスネークと正也を、スネークと正也はを、同時に発見した。 瞬間―――は意図せず、走り出していた。 「スネーク!! マサヤ!!」 「こっちだ!!」 を迎える準備など何もしていなかったが、こうなってしまったものは仕方がない。 正也とスネークは、一瞬の隙をついてこちら側に走りよってきたを、家のガードの追手から守るようにしながら、フィランソロピー支部へと走っていく。 だが……が着物を着ているがために、非常に遅い。 「くそ…追いつかれるぞ! 、悪いな!」 「え、わ…きゃ!!」 視界がいきなりぐらついたかと思うと、はスネークに抱えられていた。 そのまま、スピードを上げて、走り出す。 「マサヤ、近道はないか!」 「こっちです!」 率先して、複雑な道へと走りこんでいく。 ガードもその後を車で追っていくが、細い路地に入られてしまい、結局見失ってしまった。 紫の怒りを覚悟しながらも、ガードはを探して、暫くその付近を巡回していた。 「…スネーク、下ろして?」 「……あ、ああ」 お姫様抱っこ状態のを、支部に着いたことでやっと下ろす。 正也はIDと指紋照合を済ませ、支部の中へと二人を招きいれた。 「、再会の挨拶は後にして、とりあえず…着替えようか」 正也に進言され、頷く。 彼は二人を残し、事務員に洋服を用意させるよう指示するために、上へと上がって行った。 残された二人は、ゆっくりと、オタコンたちのいる、メイン・ルームへと向かう。 「…、大丈夫だったか?」 「ん、平気。…でも、どうしてスネークがここに?」 スネークは、の頭をぽん、と叩くと、少し先を歩き出した。 「ちょっとした野暮用だ」 その言い回しに、は少し残念そうに、 「私を連れ戻しに来てくれたんじゃないんだ」 と、笑いながら言った。 頭をかり、と掻きながら、彼は苦笑いする。 「あー……うちの、有能な人材を、取り戻しに来たってのは、フィランソロピーからすると、野暮用だろう?」 暫く間があきましたが……続きです、はい。 また暫く間があくと思うんですけど…スミマセン〜;; しっかり練ってから出直してきます(自業自得)変換量多くてごめんなさい(滝汗) 2003・5・23 back |