Sweet Inganity





 彼女の姿が見えない。
 どこを探しても、彼女の姿は見えない。
 それが苦痛だと思うなんて。
 それが、悲しみだと思うなんて。
 
それを弱さだというのなら、逆に彼が間違いなく、<人間>だという事ではないだろうか?

 彼女がアジトからいなくなって――姿が見えなくなって、早くも三日が過ぎようとしていた。
 その間、フィランソロピーの運動はいつもと変わらず、メタルギアに関する調査網を張り巡らせる事、関係しうる全ての事柄に、目を光らせる事だった。
 彼女がいなくなったのを不審に思っているのは、ただ一人、スネークだけ。
 メイ・リンや、最近ちょくちょくと出入りをするメリル、相棒のオタコンは、彼女――がいなくなったことに関して、特に意見をする事もない。

 最初の一日目は、どこかへ出かけているのだと思っていた。
 次の日は、無断でどこかへ泊まりにでも行っていると思っていた。
 だが、流石に三日目になると、また以前の…フェイト・ワークス社事件の時のように、誰かに捕らえられているような気がして。

「………くそ」
 スネークは、いつものタバコを灰皿に押し付けると、リビングにある、慣れ親しんだソファから腰を上げ、地下にあるオタコンのメインルームへと足を運んだ。

「ああ、?」
「ここの所姿が見えない。また何かに巻き込まれ……」
「彼女なら、二日ほど前に日本に…」
 なに?
 日本??
 オタコンの言っている意味を図りかね、スネークは思わず彼の胸座を掴んでしまった。
「ぐえっ!! く、苦しいよ…ス、スネー……」
「どういう事だ! 説明しろ!!」
 説明しようにも、ねじり上げられている状態では、とてもそんな事出来ようもない。
「言え!!」
「ぐ、はっ」
 段々顔色が――元々あまりよくない顔色が、更に青白くなっていく。
 騒ぎを聞きつけて入ってきたメイ・リンが、慌てて止めに入る。
「ちょ、スネーク!! なにしてるのよ、オタコン死んじゃうでしょう!」
 その言葉を聞いて少々冷静になったのか、スネークが手を離す。
 とたん、オタコンがむせ始めた。
「悪い」
「い、いや…ごほっ…」
 メイ・リンがトントンと背中を叩いてやると、オタコンは次第に落ち着いていった。
 佇まいをなおし、スネークに向き直る。
は、別に危険な団体に捕らわれたとかじゃないから、安心してくれていいよ」
「……どういう、事だ?」
「つまりね」

 二日ほど前、突然フィランソロピー日本支部を経由し、連絡が入ってきた。
 その直後、のファミリーネームを名乗る人物が、このアジトを訪ねて来て、を――連れて行った。
 その際、スネークは留守だったという事を追記しておく。
「馬鹿な! の家族と名乗ったとして、本物かどうか判らんだろう!」
 スネークの言葉に、メイ・リンとオタコンは首を横に振った。
「それが、本物だったんだよスネーク」
 ここを訪ねてきた時、本家の祖母、代理だという人間が、に直接会った。
 その人物はを知っていて、彼女の方もその人物を知っていた。
 そうなると、訪問してきた人物を疑う余地はない。
 は必要最低限の荷物を持ち――といっても、ほぼ着の身着のままだったが、ともかく、日本へと旅立っていった。
 帰った、とも言うが。

「じゃあ…は…」
「そ、今頃空の上――どころか、日本の実家に帰ってるでしょうね」
 メイ・リンがため息混じりに言う。
 彼女としても、の帰国は不本意だったのだろう。
「しかし……何故、今頃になって?」
 スネークの疑問ももっともな事だ。
 少なくとも半年以上、を放置してきたのに。
 ここに来ていきなり日本の家から、コンタクトがあるのも妙だ。
「別にいいんじゃないの? あっちの方が幸せだろうし」
「メリル」
 ドアを押し開けて入ってきたのは、メリルだった。
 彼女も一応、事の成り行きを知っている人物。
 だが、その発言はメイ・リンによって釘を刺された。
「そうでもなさそうだったけど…」
 出て行く前の表情から読み取る限り、ではあるが。
「とりあえず、僕が向こうの支部に、連絡とってみる。丁度いい人材もいることだしね」
「……ああ、成る程」
 オタコンが<丁度いい>という人物を思い浮かべ、スネークは深く頷いた。
 彼ならばもしかしたら、の状態を知っているかもしれない。

 暫く後、といってもさして時間は経っていなかったが、リビングでコーヒーを満喫していた三人に、オタコンが非常に慌てた様子で駆け込んできた。
 余りの勢いに、メイ・リンは飲んでいたコーヒーを噴き出しそうになり、スネークとメリルはそろって眉間にしわを寄せる。
 そんな事はお構いナシに、当人は肩で息をしつつ、興奮視気味に叫んだ。
「皆! 荷造り始めて! 日本へ飛ぶよ!」
「「「はあ!??」」」

 理由は飛行機の中で説明する、と言うと、オタコンは彼らに荷造りさせた。
 かくて、伝説の傭兵とその仲間達は、アメリカから遠く離れた、日本へと旅立つ事になる。





…短! 続き物第二段一話目はかなーりの不発ですな、スミマセン。
またダラリと続けていきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたしますです。
…まだまとまってないんですけどね(滝汗)

2003・1・18

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