Aim 15




 3人は、途中黒服と戦闘しながらも、46階、IT部署へと辿りついていた。
 ちなみに、戦闘する羽目になった=見つかった、その原因は、主にと正也である。
 スネークであればあっさりと回避できるであろう状況も、
 素人2人にかかればそんなもの。
「……ここは大部屋が一個って感じだね」
 部屋の中には、いくつか個室がありそうだったが。
 とにかく、廊下を進んでいく。
 ここを進んでいけば、大部屋を迂回して、向こう側の階段へとたどり着ける……はずだった。
「……まいったな」
 スネークが頭をカリカリと掻く。
 廊下の途中に、防火シャッターが下りていた。これでは、先へ進めない。
 赤外線センサーだったら、銃で打ち壊して進めたのに……などと思ってしまう。
「仕方ないな………、部屋の中を通るしかない」
 十中八九、誰かがいるだろうけどな。
 その言葉は、スネークの胸に飲み込まれた。

「よぉ、遅かったな」
「………アール……」
 が、明らかに暴れたと見受けられる部屋の中にいた人物を見て、呟く。
 アールは室内のほぼ中央に横倒しになっている机に、腰をすえていた。
 彼は銃を片手に持ち、プラプラと腕を振りながら、を見て微笑んでから、スネークと正也を睨み付けた。
 嫌いな人物を見る目。
「……そっちのヒョロいのが、スネークだったか?」
 正也をさして言う。
「そっちは、マサヤ……」
 が何の気なしに答える。
 ふぅん、と気のなさそうな返事をし、今度こそスネークの方を見た。
「じゃあ、お前か」
「……そこを通してもらおうか」
「そうはいくかよ。、こっちへ来い」
 いかにも自分の側にいるのが当たり前だというように、アールはに手招きをした。
 だが、それに殉じられるはずなどない。
 が首を横に振ったのを見て、アールの目が変わった。
 おもちゃを欲しがる、子供の目が一番近いか。
 自分を射るような視線に、思わずスネークの服のすそを掴んだ。
 それすらも気に入らないのか、アールが立ち上がる。
 ビクつくを後ろに隠し、スネークはアールを睨む。
 一瞬視線を走らせ、向こう側を見た。
 ……扉は2つ。
 どちらも空いているか、または閉じられているか。
 少なくとも、奥のドアを通り越せば、目の前が階段のはずだった。

 一向に側によろうとしないに、明らかに苛立っているアール。
「随分とに固執してるな」
「ウルセェよ、そいつはな、俺の体の一部なんだぜ? 判るか? 俺と1つになるべく、生まれてきた女なんだよ」
「お前の勝手なイデオロギーに付き合わされるも大変だな」
「何だと!!」
 アールがスネークに銃を向ける瞬間、スネークもアールに銃を向けた。
 張り詰めた緊張の糸が張られる。

 と正也は、どうしていいのか、わからなくなった。
 この場にいるには、自分達は余りにも身を守る手段がなさすぎる。
 銃を手にしているのは正也だが、スネークの戦力になるかと問われれば、答えはNO。
 教えを請うように、がスネークの服の裾を、ほんの少しだけ引いた。
 ……本当に、にだけ聞こえるような小さな声で、スネークは彼女に言う。
「……俺があいつを引き付ける、お前は、マサヤと隙をついて向こう側のドアから出ろ」
「でもっ……それじゃスネークが……」
「なに、直ぐに追いつくさ」
 心配するなと、背中が言っている。
 本当は頭でも撫でてやりたい所だったが、そんな事をやっている状況ではない。
 正也にも多少なり聞こえていたのか、静かに頷いた。

 どうか無事で。
 想いを伝えるように、はスネークの背中に口唇を寄せた。

 正也に、指でこっそりとドアの方を指す。
 ……伝わっているはずだ。

「何をこそこそやってんだよ!をよこせ!」
「断る!」
 どちらからともなく、発砲音が響く。
 瞬間的に3人身をかがめ、と正也はドアに向かって走っていく。
 スネークはアールに向かって銃を撃ち放した。
 断続的に、互いに打ち合っている。
 正也は進んだ道に遮蔽物が少なく、扉の外へ出るのにさほど苦労はしなかったのだが……問題は、のほうだった。
 まるで精密機械のように、常に的確な標準を合わせて、銃弾を打ち込んでくるアールに、スネークも正確に応戦しているが、ふと、その姿が一瞬掻き消えた。
 机の影に隠れたと思った瞬間、彼は常人ならぬ跳躍力を見せ、
 何かを掴んだ――いや、物じゃない。
「きゃあっ!!」
 叫んだ人物を思って、スネークは口唇を噛む。

 ………駄目だったか。
 もう少し時間さえあれば……いや、自分がもっと注意をそらせられていれば……。
 思った所で、後の祭りだ。
 立ち上がったアールの前に、後ろ手に腕をつかまれている。
 銃の標準が、スネークからに変わった。
「ご、ごめんスネーク……」
「……アール、を放せ」
「俺のもんだ。逃がしたりしねぇよ」
 アールの銃が、のこめかみに押し当てられる。
 殺す気は今の所更々なだろうが、起伏の激しい彼の事、いつ気分が変わるかは判らない。
 銃がゆっくりと移動し、の首筋をなぞり、肩から胸へと移動する。
 胸を、銃で突付く。
 人を殺せる銃器が、自分の体に当てられていると思うと、背中に冷たい汗が流れた。
 目線はスネークに向けたまま、アールはさも、面白いもののように、銃での胸の感触を楽しむ。
「いやだ…アールっ…」
 が、すすり泣きに近いような声を漏らす。
 アールが楽しそうに、彼女の首筋に舌を這わせた。
 ぞくり、悪寒が背中を走る。
「俺と一緒にいるんだ。交わって、乱れて、狂って、1つになる」
「いやだ!!」
から離れろ!!」
 スネークが吼える。
 アールはを掴みながら、スネークに標準を合わせた。
「撃てるのか?」
「………くっ……」
 確かに……を盾にされているこの状況では、スネークの方が圧倒的に不利だ。
 上手く彼女を盾にしているから……致命傷でないにしろ、どこかしらに傷を負ってしまうだろう。
 冷静に考えても、が傷を負わないで済む方法はなさそうだった。
 後ろにいる正也が攻撃なんてしようものなら、十中八九、カウンターでやられる。
 ……とまっすぐに視線を合わせる。
 スネークの意図を悟ったのか、は静かに頷いた。
 一度銃を握りなおすと、改めて標準を合わせる。
「フェイクはよせよ、打てやしないんだ――」


 ドンドン!!


「っ……!!」
 アールの話が終わらないうちに、スネークは銃弾を打ち込んだ。
 1発はの肩の皮膚を削ってアールの左肩に当たる。
 もう1発は、アールのみのわき腹をえぐった。
 は手が外れた瞬間に、痛みに耐えながらも正也の待つ室外へと走り出る。
 スネークは、彼女が外に出たのを確認すると、アールに向けて銃を構えた。
 だが、改めて銃弾を打ち込んだときには、彼はその場から移動し、物陰に隠れてしまった。
「てめぇ…何考えてんだ! を撃ちやがって!!」
「あれが最前の方法だったんでな。なら大丈夫だろう」
「チィ……」
 オリジナルであるほどの回復力を持たないアールの細胞は、それでもゆっくりと打ち込まれた銃弾の傷を治していった。
 だが、スネークの方は、それが回復し終わるまで待ってやるつもりは毛頭なかったが。


、大丈夫か!?」
「っう……大丈夫…しばらくすれば……治る、から…」
 は正也に支えられて、それでもゆっくりと進んでいた。
 階段を上るには、少し骨が折れるが、回復しきるまで仕方がない。
「スネーク……どうしてを撃ったりなんて……」
「あれが一番よかったんだよ、身長差もあったし、私を撃つはずないって、油断してたみたいだし」
 わざわざ標準を絞って、薄皮を削る位にまで傷を押しとどめたのは、スネークの配慮だろう。
 肩の骨まで削ってしまったら、流石に回復に時間もかかるだろうし。
 この時ばかりは、自分が回復細胞を持っていてよかったと思った。
 そうでなければ、撃たれた直後に走って逃げたりは出来なかったろうから。
 黒服に遭遇しないよう、注意しながら、慎重に階段を上っていく。
 傷口が、ピンク色になり、すぅっと消えていった。
 改めて目の前で見ると、なんだか……神がかり的なものすら感じてしまう。
 正也はその光景を、恐ろしいとか、気持ち悪いとかではなく、綺麗だと感じた。
「…スネーク、大丈夫だろうか…」
「大丈夫だよ、きっと」
 が、不安そうな正也ににこやかに答える。
 どこからその根拠が来るのかは判らないが、彼女が彼を信頼しているという事だけは判った。
 ……少し妬ける。
 ふぅ、とため息をついた瞬間……正也の目の前が黒に染まった。
「!?」
「正也!!」
 それは黒い色ではなく、上の階から黒服が降ってきて、彼の目の前に立ったことを意味していた。
 後ろを振り向くと、も黒服に捕まっている。
 ……くそ。
 舌打ちするが、こうなったらどうにもならない。
「……社長がお呼びだ」
 黒服の1人が、脅しがかった声で告げる。
 腕がギリギリと痛むほどに引っ張られながら、2人は黒服に連れて行かれるしか出来なかった。
 スネークが1人で戦ってくれているというのに……、
 正也は自分の情けなさに、唇をかみ締める。
 自分が彼女を守る。
 そう、言い聞かせて。

 位置を変え、を追おうとするアールに、続けざまに弾丸を撃ち込む。
 一発目が当たっただけで、後の弾は空にそれていった。
「くっそ、…てめぇ邪魔しやがって…!!」
 撃たれた傷口を押える事もせず、遮蔽物に隠れてアールは銃を握りなおす。
 を逃がす原因となったスネークに、怒りを露わにした。
 あの男さえいなければ…、は自分の腕の中にいたのに。
 そう、大体スネークがいなければ、彼女だって逃げ出そうとはしなかった。
 それ以前に、フィランソロピーなんていう組織に逃げ込む事もなかった。
 スネークさえいなければ。
 そう思うと、怒りが彼の心を満たしていく。
「許さねぇぞ!」
「悪いが、許しを請おうなんて思っていない」
「クソが」
 アールはイラついたように、銃を握り締め、周りの机を蹴飛ばした。
 随分と短気…短絡的だなと、まるでこの場に似つかわしくないような、性格判断なんてしてしまうスネーク。
 怒りの形相をたたえたまま、スネークに向けて銃を撃つ。
 彼も体制をただし、アールめがけて撃った。
 だが、どちらの弾も相手をかすめもしない。
 そうこうしているうちに、アールの肩の傷口は閉じかかっていた。
は、俺のもんだ…!」
 銃後握って、スネークの方に走りこむ。
 スネークはアールに合わせて引き金を引くが、非常人的なまでのスピードで軌道を読まれて、避けられる。
 舌打ちし、距離を測りながらも、撃つ。
 アールの射撃は、走っているにも関わらず、殆どブレがない。
「っく…!」
 弾丸が、スネークの頬をかすり、腕の薄皮を削った。
 ジャケットが破れ、血が滲み出る。
 死角へと入り、壁に背を預けた。
 腕の傷を確認すると、少し肉をえぐられただけで、他に異常は見られない。
 血も、大した事はなかった。
「伝説の傭兵も、俺にはかなわないみてぇだなぁ」
 部屋の中央で、ケラケラと笑うアールに、スネークは鼻を鳴らした。
「結末を見てから物を言え、若造」
「ケッ」

 …生半可な当たりでは、回復されてしまう。
 ならば。

(狙いは、頭か心臓だな)
 リロードし、ふっと深呼吸をした。
 アールは無我夢中で、弾を撃ち込んでいる。
 止む事のない銃撃の間を縫うようにして、撃ち返す。
 隙をついて移動し、スネークを正面にして撃つが、瞬間的に飛びのき、机の後ろに滑り込む。
 ここは机などの遮蔽物が多く、長期戦は必至に見られた。
「チッ……面倒なんだよ!!」
「!?」
 スネークの右に、カツンと何かが放り込まれた。
 その黒い物体がなんであるかを、本能的に察知して、身を翻し、机を飛び越えアールに突っ込む。
 ドォン!と、思い爆発音と衝撃が、彼の背後で起こった。
 ヂリヂリと、首の辺りが焼けるような熱気。
「エンドだ、スネーク」
 ニヤリと笑みを顔に張り付かせ、銃口をスネークに向かせた―――。
「言い残したい事はあるか?」
「…1つ、聞かせてくれ。何故そこまでに固執する」
「…」

 愛情を、与えられるような存在ではなかった。
 訓練と、生体実験のサンプルのような生活。
 研究員から戯れに教えられた<>の名。
 姿も声も知らない。
 知っていたのは、女で、自分はその者のために存在しているという事。
 たまらなく、欲しくなった。
 己が<>のためにあるというのなら、<>も己のためにあっていいはずだ。
 いつしかそれが、彼の生の意味になった。
 愛を知らない者の、たった1つの感情。
 歪んでいても、に対する想いは、確かに愛情だった。

「……が、欲しい。それだけだ。理由なんざいらねぇよ」
「残念だが、諦めろ!」
「!?」
 アールが引き金を引こうとした瞬間、スネークは隠し持っていたボールペンを、一瞬のうちに撃鉄に差込み、身を翻して自分の銃を取り―――撃った。
「!!」
 銃撃音と認識するうちに、彼の意識は遠くなり始めた。
 鈍い音がし、自分がどこかに当たったのだと知る。
 胸に熱さを感じ、心臓を打ち抜かれたのだと知った。
(………)
 死は、翼を広げて彼を包み込んだ。
 絶命までのほんの一瞬の間でさえ、彼は願った。
 存在自体が曖昧な短い人生の中での、たった一つの潤いを欲して。
……」

 スネークは、小さく息を吐き、今や魂がそこに存在しないアールを見やる。
 血まみれになった姿に、首を振った。
 開かれた両目を、そっと手で覆って閉じてやる。
「…すまんな。彼女をお前にくれてやるわけにはいかないんでな」

 ……あの子自身のために。




…結構前に書いた奴なんですけど、なんかむちゃくちゃですな;;
申し訳ありませ…(滝汗)描写中途半端だし。
そしてアールが好きといってくださった方々、更に申し訳なく。
しかも微エロくさくて更に更に…あぁぁ…謝罪ばっかり。

2002・11・3

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