Aim 14 エレベータが止まってから数分後。 スネーク達は、やはりまだエレベータの中に閉じ込められていた。 とりあえず、今のところ敵の動きは感じられない。 「……ふぅむ…」 しきりに天井を見ているスネークに、正也はどうしたものかと半分イライラしていた。 純粋日本人の正也には、この異常な状況は頂けない。 対して。 震えながらも、事態について行こうと必死だが、1人で軟禁されていた事を思えば、今の状況はまだいい方だという感じがしていた。 少なくとも、アメリカに来てよりこちら、普通とはいい難い生活だったのも手伝って、肝が座ってきている。 「スネーク、天井ばかり見てたって……」 耐え切れずに正也が不満を漏らそうとした瞬間、バチン、という音がして、エレベータ内の電灯が切れた。 「っや……!」 真っ暗な中、がうずくまる。 気配を察して、スネークが彼女の傍に寄って、頭をポン、と叩いた。 直ぐに非常用電源が作動して非常灯が点き、室内が薄暗いオレンジ色の光で満たされる。 「ご、ごめんなさい……ビックリして」 「気にするな」 一般の人には厳しいシチュエーションなだけに、も正也も褒めてやりたいぐらいだ。 この状況下で、なおも自分を保とうと頑張っているのだから。 を立ち上がらせると、スネークは正也を部屋の中央に呼んだ。 「マサヤ、俺を踏み台にして、あの天井板を外せ」 「――え、あ……」 スネークが指した場所には、作業用であろう天井板が張られていた。 あそこを開ければ、エレベータ上へと出られる。 この際危ないというのは、放って置いて。 スネークを足場にし、少しバランスを崩しながらも板を外す事に成功する。 「ひ、開いた!」 「よし、じゃあ今度はお前が足場になれ」 つぶれないかと不安になりつつも、足場になる正也。 スネークは足の力をほとんど使わず、腕の力だけで上へと上った。 さっと周りを確認する。 ……とりあえず、敵はいない。 「、つかまれ」 レディーファースト。 差し出された彼の手に、素直に捕まる。 ゆっくり、ズルズルと引きずられ、首に抱きつくような形で上に出た。 バランスを崩し、彼を押し倒しているような格好になってしまい、慌てふためき後ろに思い切りのけぞって、壁に頭をぶつけたりしたのはご愛嬌。 「ぷ……くく……何してるんだお前……」 「いっつぅ……わ、笑わないでよう……」 「おーいスネーク!早く上げて下さい!!」 下でヤキモキしている正也に呼ばれてもなお、スネークの笑いは暫く止まらなかった。 「で、上に出れたけど、これからどうするんです?」 下から吹く風が、嫌な音を立てる。 その音が恐怖心を煽るのを遮るように、はズボンのすそを直したりした。 回りを見回すと、薄暗いながらも、何があるのか判断はつけられた。 非常用のハシゴがある。 つたって行けば、とりあえず36Fには出られるだろう。 扉がロックされていなければ、の話だが。 「2人とも、アレに上って36Fに出るぞ」 示されたハシゴを見て、が少々ひきつる。 …なんというか、モロそうで怖くて。 上っている途中でハシゴが壊れたりしたら……考えるだけでも恐ろしい。 「ス、スネーク…それ、大丈夫なの?」 「大丈夫だろう、多分な」 ………多分ですか。 スネークがハシゴを確認する度、キシキシと音が鳴った。 腐ってはいないようだが、少々揺れそうだ。 「これをずっと上っていく方が、見つからなくていいのでは?」 「駄目だな」 正也の言葉を、あっさりと却下する。 確かに、それも1つの手ではあるのだが、ずっとエレベータが止まっているという保障もない。 それに、敵が攻撃してきたら一貫の終わりだ。 こちらに逃げ場はないのだから。 こんな所をモソモソ動いていたら、蜂の巣にされてしまっても文句は言えない。 「マサヤ、お前は一番後ろ、俺は先に行く。は間をついてこい」 「うん」 「判りました」 ハシゴを等間隔を空けて上っていく。 3人もの体重を、ハシゴは案外と楽に支えているようだ。 一段上るたびにキシキシいうのは、この際考えないでおく。 足を滑らせるような事もなく、目的の36F扉横まで来た。 スネークが指をかけて、ゆっくりこじ開けていく。 少しだけ、新鮮な空気が流れてきた。 「…今の所は問題なし、と。、先に上がれ」 「わかった」 スネークに支えてもらいながら、落ちないよう慎重に扉をくぐる。 次いで正也、最後にスネーク。 36Fのエレベーター出口は、さして大きくもない。 廊下を慎重に歩いていき、会議室とプレートの下げられている室内を覗く。 とりあえず、今の所は室内に人の気配はしない。 中には入らず、そのまま廊下を歩いていき、突き当たりを右へ曲がる。 大きな倉庫の入り口が見えた。 倉庫の入り口の右は、先ほどの会議室への裏手入り口がある。 その奥は行き止まりになってしまっていた。 「……倉庫には、カギがかかってるみたいだね」 の言う通り、倉庫にはカギがかかっている。 中に入って、武器を物色したりはできない。 スネークが周りを見回すと、会議室内へと何かが続いているのが見て取れた。 周りに注意を払いながら、部屋へと忍び込んでみると――…通気ダクトだろうか。 柵がはまっているが、ゆすると簡単に外れた。 と正也を呼び、自分の考えを告げる。 「ここ、通るの?」 「ああ、さっきと同じ順でいいだろう。ちょっと狭いが……」 「どこに通じてるんでしょうか…」 「さぁな、倉庫の中かもしれんし、別のどこかかもしれん。だが、止まっているよりはいいだろう」 拒否するような理由もなかったので、2人はスネークの言うとおりにする。 先にスネークが上がり、先程と同じようにを引っ張り上げる。 正也も、なんとか自力でダクトの中に入り込んだ。 一応柵を元に戻しておき、先へと四つん這いになって進んでいく。 匍匐するほど狭くもないのが、ちょっとした救いだ。 匍匐前進では、スネークのスピードに2人とも、まず付いていけないだろうから。 狭い空間を進んでいくため、なんとなく息苦しい。 「、大丈夫か?」 「うん……なんとか」 まだスネークの問いに答える余裕がある。 後ろの正也も、まだ大丈夫なようだ。 「……!動くな、静かに……」 「?」 先を進んでいたスネークが、突然動きを止め、声をひそめた。 と正也は、先の状況が全く見えていないので、何が何だか判らないが、緊張した彼の声色に、口をつぐんで動きを止める。 ………。 誰かが、走っていくような音が耳に入った。 「………行ったか」 「??」 もういいぞと、手で合図する。 直ぐそこが出口だったのか、柵を外す音が聞こえた。 「何、どうしたの?」 するりと身をダクトから出して、向こう側に下りるスネーク。 もダクト内から、出口より外を見た。 ………階段だ。 室外階段ではないが、非常用か、それに準じるものだろう。 ずっと下まで続いているようだ。スネークの手を借りて、すとんと下りる。 彼の胸に支えられながら、正也のほうを見る。 少し鈍い着地音と共に、彼も下りた。 「黒服が、あちこち歩き回ってるみたいだな」 …その言葉に、は思わずスネークにしがみついた。 自分を探していると感じて…怖くなる。 ポン、と安心させるように、頭を一度叩く。 「大丈夫だ。さ、上へ行くぞ」 2人を促し、なるべく急いで上っていく。今見える範囲では、敵の姿はない。 かといって、気を抜く訳にも行かないのだが。 上れる所まで、とにかく上る。 ……7階も上った頃、スネークを除く2人は、まさに息も絶え絶えの状態だった。 肩で息をし、不安定な呼吸。 「おいおい、ゆっくり上ってきたのにそれか?」 「ス、スネークのゆっくりは……はぁ…はぁ…」 「ゆっくりなんてもんじゃ……ないですよ……」 と正也が、ぜーぜー言いながらも反論する。 スネークの<ゆっくり>は、常人にしてみたらとてもゆっくりとはいえないスピードだった。 何しろ、2段飛ばしでやっとついていけるんじゃないかという速さだったのだから。 心なしか、焦っているからだろう。 足の方に、その焦りが出てしまった様子。 「大丈夫か?」 苦笑いしつつ、バテている2人を見る。 休憩にしてやりたい所だが……、そうもいかないみたいだ。 数人の殺気が、後ろから追ってきていた。 「くそっ……見つかったか!?」 「え、え?」 が階段の隙間から下を見ると……ばっちり、黒服の兵士と目が合ってしまった。 ――最低。 「走れ!」 スネークが言うより早く、正也が反応した。 言われるまでもないと、まだ腰半分のを 無理やり立ち上がらせるような形で引っ張り、そのまま勢い良く階段を登っていく。 階下にいた黒服たちも、それをを追って走る。 ここまでで体力を削っていると正也の両名には、全力で階段を上るのは、かなりの苦痛を要したが、捕らえられてしまえばそれまで。 必死で走るしかなかった。 42階を越え、さすがにの足が重くなり、スピードがガクリと落ちる。 正也が励ましているが、後ろの黒服たちの方が早い。 戦闘訓練されているだけあって、息もさほど乱れてもいないし。 スネークは舌打ちし、と正也をとにかく先へ行かせた。 「スネーク!?」 「後ろを見るなよ」 へたり込んでいるの腕を掴み、とにかく後ろを見ないで先へと進む。 黒服の一人が銃を持ち出し、正也に標準をあわせた。 階上から、スネークがその男めがけて、M9を撃ち込む。 パシュ、と音がし、2人のうち1人が肩を負傷してよろけた。 そのまま転げ落ち、動きを止める。 死ぬほどではないので、単に気絶だろう。 「クッ、貴様!」 「おっと」 残る1人が標準をスネークにあわせようとしたが、突然男は目の前から消失した。 きょろきょろ左右を見回している間に、スネークは黒服の頭の上を飛び越え、反転して、男を後ろから羽交い絞めにしていた。 「ぐぅ…あ…!!」 「悪いな、運が悪かったと思え」 ヘッドロックし、男がもがくのも構わずに首を腕で締め上げていく。 骨がきしみ出す頃、黒服の男のもがきが止まった。 腕が下にダラリと垂れる。 スネークが腕を外すと、男は泡を吹いたまま、膝を巣ついて前のめりに倒れ込む。 黒服は、気絶していた。 「ふぅ……さて、と」 先へとやったと正也が気になり、 倒れた黒服2人をこの状況下で出来るだけ目立たない所へと引きずり、先へと歩みを進める。 前の2人に追いつくのは、容易なものだった。 45階の入り口だろう踊り場で、2人ともへたり込んでいたからだ。 壁に背を預け、過呼吸寸前の様子。 まあ、兵士として鍛えられてきた人物ではないだけに、文句も言えまい。 水でも与えてやりたい所だが、なにぶんそんなものは持ち合わせていない。 ここを出るまで、我慢してもらうしかないだろう。 「大丈夫かお前ら…」 「…は、ぁ……こ、こんな事なら…もっとちゃんと、体育の授業受けとけばよかった…」 が呟く。 いや、そういう問題ではないだろうと思わず心の中で突っ込みを入れる。 「……45階か…ここはドアがあるな」 踊り場に、しっかりしたドアがついている。 非常口、と書かれた表示板がついていた。 ゆっくりとノブを回すと、案外あっさりと開く。 そのままドアを少しだけ開いて、中の様子を見た。 とりあえず……廊下だが見えるだけで、敵の姿は――― 「スネーク、後ろからまた誰か来てる…」 こそりと、が告げる。 やはり、隠しきれる場所ではなかったため、すぐに後から来た黒服に、先ほど倒した2人が見つかってしまったらしい。 下の階が、にわかに騒がしくなる。 ここでボーっとしていたら、直ぐに見つかってしまう。 仕方なく、2人は立ち上がってスネークの後ろについた。 とりあえず、ドアを抜けて、非常階段から出た方がいい。 ここでは、見通しがよすぎて直ぐに発見されてしまうし、多人数では戦うにしたって、不利すぎてどうしようもないだろうから。 息をのみ、緊張した面持ちで、がスネークの後ろについて歩く。 この階は、経理部がひしめいている場所らしい。 見る所見る所、経理AとかBとか、そんなプレートばかりが下げられている。 時折、黒服たちが徘徊しているが、とりあえず今の所は隠れてやり過ごす事が出来ていた。 「………あ!」 「な、何よマサヤ…突然っ」 「お前ら、声がデカイぞ」 スネークに咎められ、慌てて2人とも口を手で押える。 余りに行動が同じで、笑ってしまいそうになる。まるで兄弟のようだ。 正也の指を刺す方向を見ると……正也の上司、ダニエルの姿が。 「ダニエルさん…、この銃をくれたんです…。を、助けろって…」 「ふん……どういう事か、当人に聞いてみるか」 鼻を鳴らし、スネークが経理部内部にいるダニエルに、そっと近づいていく。 と正也は、事が見える場所に、周りに警戒しながらも中腰でいた。 スネークは機敏な動きで、ダニエルの後ろを取る。 あっという間に腕をひねり、ダニエルを床に押し付けて、ついでに手持ちの銃で威嚇した。 それを見て、と正也も経理室の中へと入っていく。 無用心かもしれないが、ずっと廊下に座り込んでいたら、黒服に見つかってしまうかもしれない。 可能性としてはかなりの高確率だったので、さっさと中へ入った方が懸命だ。 というのは、の考えだったのだが。 ギリ、と腕をひねり上げると、ダニエルが苦痛の声を漏らした。 「お前、をさらった奴だろう」 「……その通りだ」 「何故、を助け、銃なんてものまで渡した。お前は、この会社の人間だろう」 「……」 無言のダニエルに、スネークは少し腕に込める力を強くした。 苦痛の声が、耳を打つ。 「ちょっ、…スネーク!駄目!」 まるで別世界の人間になってしまったような彼を、が側により、慌てて止める。 仕方なく、少しだけ力を緩めた。 近くでホッとしているを見たダニエルは、安堵の表情を得る。 自分への苦痛がなくなったから、安堵したのではない。 守るべき人物が、守ってくれるであろう人物の元へと、無事におさまっているのに安堵して。 「…嬢、今までの無礼をお許しください」 「??」 「どういう事だ?」 スネークがまた力押しで聞こうとするのを、の視線が止めた。 不審な動きをすれば、即座に撃つと脅しをかけ、手を離す。 ダニエルはその場に座ると、肩をまわして異常がないかを調べていた。 周りの気配を確かめ、仲間と思しき人物が居ないのを確認すると、に向き合う。 「……私は、亡き、貴方の母上から、貴方を援けるよう、言われていた者です」 「……母さんから…?」 静かに、頷く。 「私はダニエル…ダンと言います。元々は<リンクス・プロジェクト>の研究員でした」 どくん。 ……リンクス。 正也とスネークが、不思議そうな顔をする。 この2人は知らない、自分の体の<異常>が、本当はどういうものなのか。 もし、ここから無事に出れたら…話す事も出来るだろうが、今はそんな場合ではない。 は頷く事によって、ダンの話を先へと促した。 「プロジェクト解散後、数名が貴方のお父上の社に残り働いていました。ワークス社は、プロジェクトに過度な興味を示していて、<ルナ>はこの社に持ち去られたという噂すらありました」 「…お前、もしかして会社直属の諜報員か?」 スネークの問いに、ダンが頷く。 不思議そうな顔をしているに、正也が諜報員とはスパイの事だと教える。 なるほど、と納得した。 という事は、この人は元々こちら側の人間だったという事になる。 「だが、どうしてを拉致した?」 拉致せずとも、こんなに面倒な事をしなくても、彼女を助けるような方法は幾通りだってあったろうに。 「…実は、あのスレイブに実験させる必要があったんです」 「!?」 「嬢の体が、ここ数年でどういう風に変化したのか、結果を知る必要があったんです。毒となる存在になったのか、それとも逆になる者になったのか…」 スレイブの研究を見て、それを判断する事が出来たのだと彼は言う。 <リンクス>であるは、持ってきたMOに記載されていた通り、ある細胞に命令を加え、毒化させたり、無効化させたりする事が出来る。 ただし、それは彼女の成長過程でしかない。 15歳を越えた時点で、どちらに属するか決まる。 研究が最終段階で停止してしまった為、両方の力を持つ人物にはならないというのが、以前からの予測だった。 もし、が細胞を毒となしてしまうような存在になっていたなら、射殺してしまわねばならない。 人の細胞を、一瞬で癌化させてしまうような、恐ろしい細胞の持ち主になっていたかもしれないのだから。 もし毒化能力だったとしても、超回復能力は身についたまま。 あれは、<リンクス>の防衛本能だから。 勿論、その防衛細胞を抜き出し、人に接種したなら、その人物も防衛本能として、その力を持つ事になるのだが。 「…じゃあ、ダンさんは…、私が毒の方だったら、殺す気で…」 「ですが、貴方は違った。スレイブの研究過程で、それが判ったんです」 危険な目にあわせて、すみませんと謝る。 だが、まだ危険は回避されていない。 「……おい、この上へ行くエレベータは動いてるのか?」 スネークがダンに問う。 だが、ダンは首を横に振った。 VIP用……社長権限で使えるエレベータは稼動しているが、それ以外は全てが止まっている。 上に登るには、階段を使うしかない。 階段までの割合安全な経路を教えてもらい、立ち上がる。 ダンを残し、ドア付近へと移動するスネーク。 正也は一礼して、スネークの側へと寄った。 「…嬢、ご無事で…」 「……ダンさん、私を…作ってくれて、見守ってくれてて、ありがと…」 困ったような、でも、生まれてきた事を幸せと感じているような。 複雑な笑顔で、はダンに抱きつく。 この世界に自分が生まれた事は、少なくとも悲劇じゃなかった。 それだけでも、救い。 「……さ、ナイト達の所へ」 「うん」 てほてほと歩き、2度ほどダンを振り返りながら、スネークたちの元へと行く。 回りを確認し、ドアから廊下へと消えた。 ダンは、彼女が消えた余韻に浸りながら、1人、呟く。 「……人間より、人間らしくなったな……」 えー、まだ続いてしまいます(爆)微妙な話でした〜;; あともう少しなので、頑張りますっ。 ダニエルさんは、こういう人でした、はい。当初考えていたのと全然ちがくなりましたが、 これはこれでいいかなーとか。いい人チック。 2002・10・2 back |