Aim 13






 日常の流れと、そうでない流れがあって。
 日常ではない方の流れに飲み込まれたその時から、ある程度の覚悟をしていた。
 今までの自分の生活を、捨てる覚悟。
 これからの自分を、受け入れる覚悟。
 そして、今一番必要なのは

 ――戦う覚悟。



 スネークは、スレイブから半歩下がって、彼の背に銃口を押し付け先導させていた。
 銃を突きつけられているなんて、余程注意深く見ないと判らない。
 無論、スネークがばれるようなヘマをするとは、とても思えないが。
 スレイブの方も、ヘタなまねをすれば自分の命はないと承知しているのか、不審と思われるような行動は取らなかった。
 エレベータでB2Fへ。
 スレイブ、スネークの後に続いて、と正也もついて行く。
 廊下を徘徊している黒服の兵達は、スレイブの置かれている状況に全く気付かない。
 溜息を小さくつきつつも、地下兵の頭の悪さを、心の中で罵った。
 長い通路へと出た頃、スレイブが口を開いて喋り出した。
「……君達は、自分が守ろうとしているモノが何か、理解しているのか?」
 長い通路をゆっくり歩きながら、彼の話は続く。
 静かな空間なだけに、スレイブの声は無闇に響く気がした。
「彼女がいれば、超再生細胞を持つ兵士が」
「……お前達のくだらない願望や、研究欲を満足させる為だけに、を付き合わせるな」
 キツイ口調で言いながら、突付くようにして歩ませる。
 は無言で後をついていった。
 まだ緊張していなくてはならないのだが、不思議との心は落ち着いていた。
 不謹慎なようだが、スネークが前にいる、というだけで何となく安心してしまう。
 横には正也もいるし。
 スレイブの人を物扱いする発言も、今はなんとも思わない。
 逃げ切って、また皆と話をしたいという想いが強くて。
「フン、研究の偉大さの判らん愚民め……」
 彼のブツクサ発言は放置し、エレベータに乗り1Fへ。
 幾分か緊張した面持ちで、扉が開くのを待つ。
 1Fで降りた4人は、正面扉へ向かって歩き出した。
 ――が、様子がおかしい。
 入口に、セキュリティシャッターが下りている。
 スレイブも、少々の驚きを覚えている事から、彼が仕組んだ事とは考えにくい。
 ただ単に、何か他のトラブルや定期的な点検であればいいのだが――そんな都合のいい考えを全面に持って来れるほど、スネークは場馴れしていない人間ではなく。
 上昇用エレベータの前まで来て、無意識に現在止まっている階数を見る。
 ……10階。
 途中引っかからなければ、下ろすのにさして時間はかからないだろう。
 スネークはエレベータを下ろす為、ボタンを押す。
 その直後、入口付近の暗がりから、金髪の男と黒髪の男が出てきた。
 と正也が過剰に反応する。
「Drスレイブ。随分な格好だな」
「ケイル社長、命なくば、研究は出来ない」
 冷ややかな声で言うケイルに、スレイブも銃を突きつけられたまま淡々と答えた。
 ケイル――、ここの社長だと認識して、スネークは警戒を強める。
 エレベータは7階に差し掛かっていた。
、逃げんなよ。俺と一緒にいろって」
「アール……」
 がポツリと呟く。
 アールと言うのは、スネークやオタコンの情報網にはない男の名。
 だが、彼女は知っている。
 ある程度の想像はつくが、知っているなら確証が欲しい。
、アールってのはあの男か」
「うん、私の細胞を混ぜた、超再生可能な兵士だって言ってた。私の細胞を植え付けるためだけに生きてきたって――」
「オイオイ、聞いてんのか、。お前は、俺といればいいんだよ」
 チャキ、とアールが銃を構える。
 照準は――、ではなく、正也でもなく、スネーク。
 アールは、スネークが気に入らなかった。
 とにかく、気に入らない。
 スレイブもケイルも気に入らなかったが、今一番アールの中で悪の位置を占めているのは、紛れもなくスネークだ。
 あの男は、自分のものを……理解者を、勝手に連れて行こうとしている。
 は自分の物なのに。
 当然のように、彼女の前を陣取っているのも気に入らない。
 子供じみた考えだったが、それが今の彼の全てだった。
 エレベータは2階の位置。
 あと少し――……。
「……お子様には女はまだ早い」
 スネークの言葉に憤慨したか、アールの指に力が入った。
 ポン、と電子音がし、エレベータの扉が開く。
「乗れ!!」
 スネークは、ドアが開いた瞬間にスレイブを突き飛ばし、アールの銃弾を避けながらの腕を引っ張り、正也を押し込むようにして中へとなだれ込む。
 素早くドアを閉め、屋上へのボタンを押した。
 一斉に射撃音が繰り出されるが、弾はドアに当たって被害はない。
「2人とも大丈夫か?」
 隅の方で丸くなっている2人に声をかける。
 は”うん”と言いながら立ち上がり、服のホコリを払った。
 正也もこっそりと起き上がり、溜息をつく。
 生きていて良かった、という顔。
 何事もなく玄関から出れればいいと思っていたが、さすがにそうはさせてくれなかった。
 スレイブの知らないところで、警戒強化されていたらしい。
 ともかく、出入り口からは出られなくなったのだから、別の逃亡ルート確立が必要である。
「スネーク、どうするの?」
「ちょっと待て」
 不安そうなの頭を、ポンポンと叩くと、バースト通信でオタコンに連絡を求めた。
 広範囲に妨害電波をしかれている事も考えたが、それはないようだった。
 ビル全体を包むような、広範囲に電波をしけば、全ての電子機器が異常をきたしかねないので、それも当たり前だが。
 ともかく、通信は通じた。
【スネーク、も無事かい?】
【あぁ。で、悪いがヘリを頼む。出入り口から出られなくなった】
【ヘ、ヘリ!?無茶言うなよスネークっ、僕らは民間だぞ? そう簡単にそんなもの出せるわけ――】
【なければ、俺とマサヤは死ぬ。はモルモットだ】
【……判ったよ。OK、ともかく上へ向かってくれ】
【判ってるさ】
「……フゥ、とにかく屋上へ出る。万が一、バラバラになっても、とにかく上へ向かえ、いいな」
 と正也は、コクリと頷く。
 エレベータは25階を示した。
 今の所、止められて社員が乗ってきたりはしていない。
 普通であれば退社してる時間なのは、救いだった。
 人が多ければカモフラージュにもなるが、それは敵とて同じ事。
 社員に成りすまされていたら、判別するのに苦を要する。
 だが、今のこの状態であれば、近付いてくる者は、ほぼ敵だと思って間違いない。
 その点でいえば、判断上は楽である。
 エレベータの表示が30階を指す。屋上はまだ上だ。
?」
 正也が驚いてを見る。
 彼女は少し震えながら、正也の片手を握っていた。
 それを見て、スネークの胸にチクリとしたものが刺さる。
(……)
 小さな棘が刺さったようなそれは、直ぐに流れて消えてしまった。
 が正也から手を放す。
「―ごめん、もう、大丈夫」
「どうした」
 スネークに問われ、は不安そうな目を彼に向ける。
「……なんか、嫌な感じがするの。思い過ごしだろうけど――」
 その瞬間、エレベータが突然ガクリと揺れた。
 よろけるを支え、スネークは反射的に階表示を見る。
 34階。
 その表示は、力なくプツリと切れ、それ以降何も映さなくなった。
の予感は、当たりそうだな」
 ピタリと停止したエレベータは、動く気配が全くない。
 これは意図的に止められたと考えていいだろう。
 ぐずぐずしていたら、捕らえられる可能性が高い。
 状況の悪さに、スネークは思わず苦笑いした。

「社長、準備が整いました」
 黒服の兵士達が、1階のロビーに一列に並んでいるサマは、パッと見、新人研修会のようでもあったが、全員が懐に銃器を持っている事から、その異様性が伺える。
 頭数、数十名。
 彼等は、地下組織で要請された訓練兵である。
 実践をさせた者も多々混じっていた。
 ケイルは、その集団の前に立ち、冷たい目で彼等を見やる。
 アールはその横で、つまらなそうな表情をしていた。
「諸君、君達の目的は、我が社に入り込んだネズミの抹殺、及び、サンプル・の捕獲だ」
 ケイルの声に、兵士が敬礼し<YES>と叫ぶ。
 会社という一般社会の建造物の中には、似つかわしくない光景。
に於いては、多少の怪我は問題ない。但し、急所は狙わぬように。現在、彼等は35階途中のエレベータ内だが、その先の行動は不明だ。ビルをくまなく捜索しろ」
 兵士は敬礼しなおし、再度<YES>と答えると、各々グループに分かれて散らばっていく。
 スネークたちのエレベータのみ止めたまま、他の小さな隠しエレベータで上へと向かう。
 下の階にも、一応幾つかの部隊を配置した。
「さて、ミス・シェリル、Drスレイブ。おめおめと彼女を逃がした償いはしてもらわないとな」
 アールが物陰から恐る恐る出てきたシェリルを捕まえ、ケイルの前に引きずり出す。
 シェリルはケイルの視線に射抜かれ、このまま死ぬのではないかと身を振るわせた。
 俯いている彼女の額に、銃口を当てる。
 ゴリ……と、嫌な音がした。
「ミス・シェリル。失敗は失敗、判るな?」
「で、ですが――」
 つぅっと嫌な汗が額から頬に流れ、寒気を催す。
 ケイルの目を見た瞬間に、シェリルは凍りついた。
 言い訳など意味を成さないという目。
「残念だ、君は優秀だった」

 ドンッ

 鈍い音と共に、シェリルの体が床に崩れ落ちる。
 血しぶきが飛び、ケイルの頬を濡らした。
 一瞬で死へと追いやられた彼女の体は、血の海に沈み、お世辞にも綺麗とは言えない。
 ケイルはそれを一瞥すると、黒いスーツの袖で顔に飛んだ血をぬぐった。
「Drスレイブ、君を殺すのは簡単だが、専属研究者は君だけだ」
「……」
「さっさと付いて来てくれ。……アール、お前もだ」
 兵士にシェリルだった<モノ>の始末を言いつけると、
 ケイルを先頭にしてスレイブ、アールは、VIP用のエレベータで上へと上がっていった。




後もう少しですー。4話ぐらい。それにしても…ホントに動きのある描写が苦手でして。
どうしようもないですが…、動きがあるのって絵でも苦手だから、頭で上手く巡ってくれないのかも。
シェリルがさよならしてしまいましたが、ちょっと後悔。
一応リベンジ予定もあったんですが、なんだか無理やりだったので却下したらこんな事に。
ともかく…頑張ります!(日本語の流れが妙)

2002・9・14

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