Aim 11 抱いて。 確かにはそう言った。 抱きつく彼女の熱さが、偽りではないと実感させる。 スネークはゆっくり目を閉じ、息を吐く。 「……」 (…………なんで、どうして、こんな所に……!!!) 正也は一人、机の影に隠れていた。 息を出来る限り潜める。 ダニエル………。 自分の上司と鉢合わせすると思わなかった。 しかも片手に銃とは、穏かではない。見つかれば射殺間違いなし。 「……まったく、マサヤのバカは……」 (もしかして、僕を探してるのかあ!?) ……まずいマズイ。 汗がダラダラと流れ落ちる。 …………足音が近付いてくる。 ゆっくり移動し、机間を移動して視界に入らないように注意しながら、彼が去るのを待つ。 本当はこの部屋から出て行くのが一番なのだが、生憎とダニエルがいる場所は、ドア近く。 しかも、ウロつくのもその辺で、出られない。 「……こんな所にいるはずないか」 (早く出て行ってくれぇぇ……) 情けない声を頭の中で乱発しつつ、目をつぶって思わず祈る。 ……目をつぶったら相手が見えないと気付き、慌てて開けた。 すぐ近くに彼が来ている事に気付く。 慌てて移動するが、足がイスに引っかかり、盛大に倒れてくれてしまった。 (ああぁ……僕のバカ!!) 「なんだ?」 慌てて逃げようとするものだから、更にがたがたと物音が。 バカ丸出し。 ツカツカと歩いて来るダニエルの視界に、正也がばっちり写る。 「……お前、こんな所にいたのか……」 なおもはいずって逃げようとする正也を捕まえ、口を塞ぐ。 「いいか、静かにしろ」 「………………」 右手に銃。 あまりの恐怖に、言われなくても静かにしてしまう正也。 「……ダニエルさん、誰かいるんですか」 「あぁ、悪い。俺がイス倒しちまったんだ、気にするな」 「!?」 …………? 「ここはいい、お前達は1階を守っていろ」 (…………どうして。) ダニエルは、目線で正也に騒ぐなと訴えると、手を外した。 「いいか、コレを持っていけ」 「ダニエル……さん?」 「これを持って、彼女を助けろ」 自分の銃、今まで使っていた物と、予備のものを正也に渡す。 USPとM92F。 「どう……どうして、ですか。彼女って……を?」 「他に誰がいる。俺はな、確かに暗部の人間で、色々悪どい事をしてきたが、流石に人体実験の材料が女の子ってのは気に食わない。それにな……ま、俺の方にもいろいろ都合ってのがあってな」 正也のスーツの内ポケットに弾を入れ、入りきらないものは箱ごと渡す。 「……貴方が、責められるんじゃ――」 「気にするな、どうせ最後の仕事さ」 「……??」 ダニエルは正也を立ち上がらせ、奥の荷物置き場らしき所へと連れて行き、なにやらコントロールパネルを操作した。 ガタン、と壁の向こうから音が聞こえた気がする。 ……ダニエルがその壁の一部を開き、ボタンを押すと――。 「エレベーター!?」 「こいつで、B3Fの第3研究室へ降りられる。頼むぞ、彼女を殺すなよ?」 「ダニエルさん、貴方一体…………」 「ほら行け!」 ドン、と押されて、扉を閉められる。 小さな振動と共に、エレベーターは下降を始めた。 ……彼は一体、何者なのだろう。 を拉致してきたのは彼なのに、その拉致した人間を助けようとするだなんて――。 これが罠である事も覚悟しつつ、スネークと合流することを第一に、B3Fへと降りていくエレベーターの表示を見つめた。 の手が、スネークを抱きしめる。 熱過ぎる程の体温が伝わってきた。 力いっぱいに抱きつかれ、スーツにシワが寄る。 「スネーク……私の事、スキ……?」 「……そうだな……」 フゥ、と息を吐き、目を瞑る。 「……手に持ってるガラスを下ろせば、少しは好きになるかもしれんぞ」 「っ!!」 スネークはの手が動揺で緩んだ隙に、彼女を押しのけ、身をひるがえし態勢を立て直して、M9を片手に距離をとる。 彼女は起き上がると、悲しげにスネークを見つめた。 先程まで、彼の首を切り裂こうとしていた鋭利なガラスの欠片は、一度手を離れたが、再度持ち直されている。 彼は標準を会わせ、構えたままでいた。 「お前は誰だ」 「何言ってるのスネーク、私よ。何処か違う所があって?」 「……ああ、大有りだ」 ピクンとが反応する。 スネークは標準を外さぬまま、会話を続けた。 「まず1つ。はそんなに大人っぽい話し方はしない。2つ。全裸に近い状態で、俺に抱きついたりはしない。3つ、俺を殺そうとしたりしない」 ついでに言うなら、色仕掛けもしてこないしな、と呟く。 「さすがはソリッド・スネーク……と言いたい所だけど、出来損ないのクローンが相手じゃぁねぇ……」 「誰だ!」 「こんばんは、スネーク」 チャキ……と音を立てながら、スネークに標準を合わせる。 ……シェリルがそこにいた。 のクローンとシェリルにはさまれる状態になってしまったスネークは、シェリルの方に銃の標準をあわせた。 クローンは銃を持っていないので、危険率の高い方に注意を向ける。 「私はシェリル。を弄くる研究者の1人って所かしら」 「……は何処だ」 「それより、この部屋から無事に出る事を考えるのね!」 シェリルの銃が火を噴く一瞬前に、身をひるがえし、弾丸を避ける。 その弾は、一直線上にいたの肩を貫いた。 痛みにうめきながらも、彼女はスネークに向かってガラスを投げる。 ダーツのように勢いよく飛んできたそれは、彼の頬をかすった。 うっすらと血が滲む。 あちこち移動するが、大して広くもない部屋の中、居場所はどちらにも手に取るように判ってしまう。 壁に背を預け、2人の立てる物音に耳をすませた。 シェリルはゆっくり移動しながら、彼がどう出てくるかと神経を尖らせる。 クローンの方は、肩の傷をさすりながらもスネークを探っている。 傷は治っていない。 のクローンでありながら、あの治癒能力は備わっていないらしい。 シェリルの<出来損ない>という意味は、このせいだろうか。 「悪い事は言わないから、こので我慢なさいよ。姿形は変わらないんだから――」 「ふざけるな!は1人だ。俺が初めに出会った彼女だけだ!」 「そう……残念ね!!」 シェリルとクローンが二手に分かれて、スネークに仕掛けてくる。 スネークは机の上に乗り、足場にして先程自分がいた場所とは逆の方へ飛び出すと、M9を構え、シェリルを眠らせようとした――が。 「っう…!」 「スネーク、私と一緒にいましょう?」 恐ろしい程のスピードで身を躍らせ、クローンはスネークを後ろから羽交い絞めにしていた。 肩から、血が流れ出ている。 けれど、痛みを感じていないのか、力は弱まらない。 当たった瞬間は痛みを感じていたのに。 外そうと渾身の力をこめるが、クローンの手は外れない。 作られる際に、あれこれ強化したのだろう。 「貴方が、好きよ」 ギリギリと締め上げつつ、と同じ声で囁く。 「愛してるわ」 「っ……黙れ!」 イラつく。 偽物の言葉は、所詮偽物だからかもしれない。 の顔で、声で、そんな嘘偽りの言葉を耳にしたくないという気持ちがあって、激しいむかつきを覚えた。 シェリルがそれを見て、嘲笑しながらゆっくり近寄ってくる。 「いい格好ねスネーク、もう諦めて」 「誰が――」 ガクン、と突然壁の向こうから音がし、シェリルが視線を向けると……銃を片手にした正也が立っていた。 そ れを視線の端で捕らえたスネークは、思い切り彼に向かって叫ぶ。 「マサヤ!撃てっ!」 「え、う、わっ!」 正也はスネークを羽交い絞めにしている人間に向かって、思わず引き金を引いた。 ガウンッと音がし、彼は強かに壁に背中を打ちつけ、へたり込む。 発射音と共にスネークは身体を捻ってクローンを引き剥がし、弾から逃れたが、クローンの方は逃れられずにその弾丸に身体を打ち抜かれた。 ――全くの偶然だが、正也の撃った弾は、クローンの心臓を打ち抜き、一瞬で彼女を死へと追いやった。 彼女は膝から崩れ落ち、前のめりになって倒れこむ。 どん、と人の倒れる音がして、自分は人を殺してしまったのだと、急に恐ろしくなる正也。 銃を持つ手が震えた。 「っく……」 「動くな」 シェリルが一瞬倒れるクローンに気を取られた間に、スネークの銃が彼女に標準をあわせ、ホールドアップ状態に持ってきていた。 M9で殺傷能力はないとはいえ、実弾を持つ正也がいる。 ここで眠らされてしまったら、次に来るのは麻酔弾ではなく、本物の鉛弾かもしれない。 大人しく武器を捨て、両手をあげた。 「セキュリティを抜けるまで、一緒に来てもらうぞ。おかしなマネはするなよ」 「……仰せのままに」 ふぅ、と溜息をつくシェリル。 スネークはあえて、クローンの方を見ないようにしていた。 と姿形がそっくりなのだ、彼女を殺してしまった気分になるから。 標準を当てたまま、正也を呼ぶ。 「マサヤ、こっちへ来い」 「僕……僕は……彼女を……を殺して――っ……!!」 フラフラしながら、自分が打ち抜いた人物を見やる。 顔が青ざめきっていて、動悸も激しい。 「マサヤ、それはじゃない、偽物だ」 「あう……え、偽物??」 「そう、クローンだとさ。これから本物を助けに行く、銃を貸してくれ」 「は、はい……」 偽物とはいえ、殺してしまった事に違いはない。 正也は泣きそうになるのを堪え、クローンに向かって両手を合わせた。 「…それにしても、何処にあったこの銃……」 「それは――……拾った、んです」 シェリルの前で、ダニエルの事を言ってしまっていいものかと言いよどみ、嘘をつく。 うろたえる正也の様子に、言うと色々問題が起きるかもしれないと判断したスネークは、それ以上の追求を止めた。 正也はスネークにUSPと弾を渡す。自分はM92Fを装備した。 シェリルの先導で、第2研究室へのセキュリティチェックがある所まで戻る。 「開けろ」 「……判ったわ」 パネルを操作し、青白いレーザーを当てられている四角いくぼみに、手の平を差し入れ、指紋を照合させる。 本人がどんな状態であろうが、アクセス許可をするというのは問題かもしれないが、潜入する側としては好都合。 扉は難なく開き、あっさりと侵入できた。 「この部屋を出て、向かって右の部屋の置くに彼女がいるわ」 「そうか、悪いな……少し眠っててくれ」 ぱしゅん、という音と共に麻酔弾が打ち出され、シェリルはものの数秒でその場に崩れ落ちた。 正也は驚いて、数歩あとじさる。 まさか無抵抗の人間を撃つとは、思わなかったから。 驚愕の視線に気付いたスネークは、少し困ったような表情を浮かべる。 ”必要だったんだ”、と。 確かにそう長く敵を連れて歩いているわけにもいかないし、騒ぎ出されても困ると理解すると、静かに頷いた。 正也はシェリルをなんだかよく判らないが、カプセルのようなものに寄りかからせ、進行方向へと視線を向ける。 2人は部屋を出て、シェリルの言う通り右の部屋の入口へと向かった。 敵がいる事を考え、スネークは慎重に気配を探る。 さすがに中の物音は聞こえない。 がここにいるのであれば、メインの研究者が1人はついているはずだ。 ドアは自動なので、ゆっくり開いてはくれない。 中に誰かがいるなら、瞬発力が勝負。 「マサヤ、俺が行って20秒経ったら、入って来い。いいな」 「わ、わかりました……」 すっと目をつむり、一呼吸置いてから中へ入る。 数秒もしないうちに中の状況を把握し、あっと驚いている研究員の額に銃口を突きつけた。 イスに座ってわなないている研究員――……スレイブは、スネークの身のこなしに驚いた。 「……老化現象が進んでいるとは思えない体だな、ソリッド・スネーク。流石、伝説の英雄だけはある」 「俺を知っているのか」 「まあな、そんな事を聞きにここまで来た訳ではないだろう?一応、名前ぐらい名乗っておく。僕はスレイブ。クローン技術者……という肩書きだ」 額に銃をあてがわれているというのに、この落ち着き方…。 普通の研究者ではない。 見計らったように、ゆっくりした足取りで正也が入ってきた。 「マサヤ、ちょっとこいつを見張ってろ。俺はを助けに行く」 「判りました。……その、えと……こう、かな」 正也はM9の銃口をスレイブにセットしたまま、じっと待つ事にした。 イスに座るスレイブの前で、立って待つ自分がなんだか少し情けないような気もするが。 スレイブの研究室の奥、もう1つの扉を抜け、やっとの事で目的の人物に出会う。 まだ安心できる状況ではないのだが、少しホッとしてしまった自分がいて、スネークは苦笑いをこぼす。 ガラスケースのような場所でうずくまっている彼女に近付き、コンコンと、2度ほどガラスを叩いた。 音に気付き、一瞬肩を震わせる。 「よう、迎にきたぞ」 「……スネーク……」 上げた彼女の顔は、涙に濡れていた。 やっとこ会えました。なげー。そしてまだ続く……(長すぎ) 次回ちょっとラヴラヴで!(爆) なんだか文章がヘタレて微妙ですが、続きを……;; 後何話ぐらいかは計算しておりませんが、そんなに長くしないつもり……です、はい。 つもりで終わってたらごめんなさい……。 2002・8・11 back |