Aim 10




 突然、日常から放り出され、
 突然、見知らぬ場所で暮らさねばならなくなり、
 突然、自分の出生を知る人物に出会い、
 そして、自分は人間に造られた人間だと、宣告された。

 何処まで、本当?


「……そ、んなの……信じられない……」
 否、信じたくない。
 スレイブはの狼狽を楽しむかのような表情で、立ち上がって隔てのガラスに近付いた。
「お前が5歳の時、社は研究を止めた。兵器として利用しようとする輩が増えた為らしい。リンクス計画は中止され、オリジナルとなるお前は、社長と副社長……つまり、お前の父と母に、普通の人間として、娘として今まで育て上げられてきた。資料は保管してだ。
 <リンクス・ルナ>はその時、何者かに奪われており、お前だけが子供として生きてきた」
「やめて……嘘よ!」
「嘘?ならば何故、ディスクの中にお前の生態資料が入っていたんだ? 自身を研究された覚えは? お前の超回復力は、生まれ持った類いまれなる力か?」
「それ、は……」
「…お前は、造られたんだ。人の形をまとった、化け物だ」
 ニヤリ、下卑た笑いを含ませ、スレイブはに背を向けて、出て行った。
 言いたい事だけ、言って。
は上手く回らない頭を無理矢理回転させるが、いつものように「なんとかなる」
 なんて、とても言えない状況で。
 いくらプラス思考に持っていこうとしても、スレイブの話の内容がが頭を占めていて。
 ぼぉっとしながら、爪で自らの手を……浅くしか切れないが傷つける。
 ものの1分しないうちに、傷跡すら残らずに消滅した。

 バケモノ。
 人の形をまとったモノ。
 父の、母の愛情は嘘ではなかったけれど。
 自分の存在が嘘だった。
 そんなの、どうして信じられる?
 体の血肉は、偽物。
 どうして。
 どうして、こんな形で教えられなければいけなかった?
 どうすれば、いい?

「いや……」
 もう一度、爪で傷をつける。やはり、直ぐに治る。
「いやだ……」
 何度も何度も引っかくが、みみず腫れでは数十秒できれいな肌に戻ってしまう。
 瞬間は痛いのに。
 傷がついている時は、痛覚もしっかりあるのに。
「いやぁ…………」
 そう、肩を銃弾で貫かれた時だって、痕すら残らず消えうせた。
「いやぁあああーーーっ!!」
 は、涙を零して床に伏した。
 手に、傷は一筋もなかった。

 スネークと正也は、B2Fにある第4研究室へと足を向けていた。
 オタコンの通信どおり、ここに高ランクIDを使用した形跡があるのなら、探してみないてはない。
 わざわざ他の部屋にまで手を出し、見つかる可能性を己で増やす事はないだろう。
 ガラス越しに中を見るが、人の気配はない。
 監視カメラも付いていないようだ。
「……マサヤ、お前1人でここを調べられるか?」
「それは大丈夫ですが、スネーク……貴方は何処へ?」
「俺は、B3Fへ降りる」
 正也のIDでは、B2Fまでしか降りる事が出来ない。
 その下、B3に降りられるのは、オタコンの偽造IDを持つスネークのみ。
 1つの場所を2人で探すより、1人ずつになって探した方が、はるかに短時間で済む。
 それに、目立って危険な感じではないし、黒服の巡回が来た時のみ、身を隠せばいい。
 問題は正也のIDでこの部屋が開くか、だったのだが、差し込んでみると実にあっさりと開いてくれた。
「よし、それじゃあ……に関するものが見つかればよし、なければ武器を探せ。何かあれば通信してくれ」
「分かりました」
 終わったら見つからないようにかくれてろ、と言うとスネークは身を翻して走り去った。

「……彼女は、は眠ったのか」
 スレイブの研究室で、アールはシェリルに入れてもらったコーヒーをすすっていた。
 シェリルはどうした、と問うと、用件を済ませに行った、とだけ告げた。
「で、はどうした」
「あぁ、眠っているようだ。自分が一体なんなのか、教えてやったんで、ショックを受けて泣いて、泣き疲れて……な」
「アンタ、酷いヤツだな。わざわざ教える事もないだろうに」
 アールは、スレイブのオモチャを甚振っている時のような顔が、気に食わない。
 自分だって、と同じ……作られた人間なのだから。
 の細胞を使われる為だけに作られ、育てられてきた。
 ただ彼女と違うのは、自分には母親がいるという事、
 そして、愛してくれる家族が1人もいなかったという事。
「自分を高める素材に惚れたか、アール?無駄な希望は捨てるんだな」
「惚れた?何言ってんだ。あいつは、俺のためにあって、俺はあいつのためにある。違うか?」
「いいや」
 ピ、と電子音を立て、グラフがモニタ上に立った。
「違わんさ」

 B3F、高ランクIDを持つ人間だけが入れる部署。
 そのせいかは知らないが、人の数は実に少ない……というより、見える範囲ではいない。
 監視カメラも付いていない所を見ると、入口のセキュリティはかなり難度が高そうだ。
 オタコンはB3のどの部屋、とは言わなかった。
 となると、この階は総当りしなくてはならないのだが、そんなに部屋数も多くはなさそうだ。
 通路を何食わぬ顔で歩き、二手に分かれた所で立ち止まる。
 右は、指紋照合システムつきドア。左は……もう少し道が続いている。
 現状では網膜センサーをクリアする事は出来ないので、先に左の方へ進む事にした。
 がいる可能性としては、断然照合システム付きドアの方が高いのだが、入れなければ意味がない。
 今の所、研究員も通らないので作動させる事は出来ないし……。
「……こっちの扉は、普通みたいだな……」
 壁にピタリと張り付き、中の様子をうかがう。
 …………気配なし。
 研究員の1人や2人、いてもいいとは思うのだが……。
 周りに気を配りながら、扉を開く。
 一瞬で周りの状況を把握するが、特に監視カメラの類いは存在しない。
 銃をかまえながら、周りを把握する。部屋は大きく二分されているようだ。
 スネークがいるのは手前の部屋、奥にもう1つ個室がある。
 そちら側は、カードによるチェックはない様子。
 ゆっくりと歩みを進め、ドアを少しだけ開ける。
 ……研究員が2人。
 手前に1人、奥に1人……。
 素早くドアの影からM9で打ち抜き、眠らせる。
 彼等を引きずり、手前の部屋のロッカーに入れると、奥の部屋を調べ始めた。
 ……普通の研究室のようだが……。
「…………!!」
 中央の青白いカプセルの中に、裸で寝かされている人物は、己の探していた人間――。
 カプセルを開こうと、パソコンをいじるが、ロックがかかっていて開かない。
 仕方なく銃の後ろを使って、叩き割った。
 傷つけないよう、慎重に彼女を抱きかかえ、床の方へと移す。
 体に纏う物がないかと探してみる。
 ロッカーの中に、研究員の予備のものなのか、白衣が置いてあった。
 それを彼女に着せてやる。
、おい、しっかりしろ……」
 ペちぺちと頬を何度か軽く叩くと、彼女の瞼が痙攣を起こした。
 もう2,3度頬を軽く叩くと、ゆっくりと目を覚ました。
 スネークの顔を見て、固まる。
「大丈夫か……?」
 固まって、視線をスネークに固定させている
 何か薬でも使われたのかと心配になる。
 彼女はゆっくりと瞬きをし、やっとの事で頷いた。
「うん、大丈夫。何でもないの、驚いただけで……」
 驚いた?
「まあいい……マサヤが上の階を調べてる、直ぐに合流しないと今度はあいつが危ない」
 立てるか?と促すが、彼女は首を横に振る。
 目の前がまだ少しフラつくらしく、立とうと思っても足から崩れてしまう。
「……よし、少し休む。5分したら行くぞ、いいな」
「判った」

 周りに警戒しながらも、を気遣う。
 昔の自分では考えられない行動だと、スネークは苦笑いした。
 大きめの白衣に身をくるむようにして座っているは、目を瞑っている。
 眠いという感じではない。
、何かされたか」
「そんな事ない。皆良くしてくれた」
 ――?
 待遇が良かった……?
 あんなカプセルに入れられて、眠らされていたのにか??
「……ネェ、スネーク」
「なんだ?」
「助けに来てくれて、ありがとう」
 ニコリ、微笑む。
 あぁ、と答えながらも……の顔をじっと見てしまう。
 間違いなく、だ。
 だが、この違和感はなんだろう。
 受け答えがいつもの彼女と、微妙に違うからだろうか。
 何処がどう違うかと問われても明確に答えられないのだが……、とにかく違和感がある。
 気のせいかもしれないが。
「礼なら、マサヤにも言え。あいつの方が大変だったろうさ」
「でも、私はスネークに、ちゃんとお礼が言いたい」
 突然、本当に突然、がスネークに抱きついた。
 白衣の開いた部分から、彼女の素肌の温もりが伝わる。
 首に腕を絡め、しっかり抱きつく彼女。
?」
 ガラにもなく、少々慌ててしまう。
 何しろ、白衣の下は裸。
 頭が完全に任務中のスネークとはいえ、キツイものがある。
 だが、何かが違うと警鐘を鳴らす自分もいて。
「どうした……」
 ポンポン、と背中を叩いてやると、彼女はスネークの耳元で囁いた。


「スネーク、抱いて……」




ぎゃーーーーす。
凄い所で切れてます、ハズーーーーー!!!(滝汗)
表なので余り艶かしく?表現しませんでした。理性バンザイ。
MGSは対象年齢が高いと勝手に自設定しているので、そんなお言葉も出てみたり。
サモンやらハリポタやらは、滅多な事では使いません表現とか用語バシバシ。
続きもガサガサと書いてゆきます、はい。

2002・7・30

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