Aim 9 B2F・倉庫内部 スネークはタバコを取り出し、吸おうとして……やめた。 万が一、火災報知気でも作動しようものなら、一発で苦労が水の泡。 一見した所、報知器はないようではあるが。 「スネーク……聞いて、いいだろうか」 「……なんだ」 「どうして、彼女を助けようと……?こんな危険な真似までして……」 そう言ってから、正也は言葉が少し間違っていると思った。 彼はあの、ソリッド・スネークだ。 メタルギアを相手にする人間。 銃を構えた兵士の巣窟にたった一人で潜り込み、任務を果たすスペシャリスト。 彼にしてみたら、こんな会社に潜入するなど、怖くも何ともないのかもしれない。 自分の尺では、とても彼の世界は計れないのだと、今更ながらに気が付いた。 スネークはというと、無表情で天井を見つめている。 「お前は、どうなんだ」 「え……?」 「が友人だから、助けたいのか」 スネークの瞳が正也を射抜く。 全てを見透かされそうで、思わず目をそらした。 「……俺のせいで彼女が捕まったからっていう……負い目もあります」 「それだけか?」 「……彼女が、好きなんです……ずっと、想ってた」 だから、助けたい。 スネークに任せきりではなく、自分も何かしたい。 死ぬかもしれないという思いや恐怖はあるが、自分のせいでが苦しむのは、もっと嫌だ。 「成る程な」 「貴方はどうしてなんです」 ぴくん、とスネークの眉が動いた。 正也から視線を外し、また天井を見る。 「彼女の両親に、身柄を頼まれた。それだけだ」 「本当に?」 「あぁ」 正也は、スネークが嘘をついているように思えた。 顔や仕草に目立った変化はないが……、それだけの為に、死に向かう人間がいるなんて思えない。 ましてや、MGを相手にするスペシャリストが動くのだから…。 スネーク自身、何故、を助けたいと思うか、明確に判らなかった。 だが、単に責任だからと言い張るには、心の内が複雑すぎる。 「……そろそろ行くぞ」 「はい」 2人は立ち上がり、周りを確認しながら、とりあえず第4研究室へ向かった。 B3F・第2研究室 「あら、ネズミがいるみたいね」 B2Fの倉庫付近で警戒信号を受けたシェリルは、監視モニタを見た。 今の所、別段異常はない。 巡回した黒服(兵士)は、警戒の元を発見する事が出来ず、仕方なしに警戒を解いた。 この会社(地下)では、余り長いこと警戒信号を出しておけない。 何故なら、あまりに長い事警戒信号を出していると、地下で働いている職員が緊張の為、実験を失敗しないとも限らないからである。 一応、地下で働く人間は一介の研究員。 別に地下で働いているからといって、全員が全員悪徳ではない。 その為、会社のマニュアル(地下部)に、警戒信号はスタートからクリアまで、大体長くとも5分。 潜入する側からいえば、5分だけ辛抱してしまえば、後は捜索されずに済むのだが、探す方もプロであるから、簡単に逃げられたりはしない筈。 警戒が解除されたという事は、ただの気のせいだったか……それとも……。 「見つけられない程、上手く逃げたか、ね」 前者ならいいが、後者の場合は……。 別モニタから見える鳥篭の中にいるを見て、思わず笑ってしまう。 後者であれば、もしかしたらあの男かもしれない。 第1研究室にいるスレイブに、通信をする。 『スレイブ、B2で警戒信号出たわね。一応、こちらもセキュリティ強化しておく?』 「……そうだな、入口のチェックをONにしておけ。それより……」 モニタを操作し、B3F、第3研究室のシステムを操作した。 もう、使える段階まで成長しているはずだ。 スレイブの操作するモニタに、Type-1・ONと白く点滅している。 「……さて、と。シェリル、アールの状態を報告してくれ。この娘の細胞がきちんと働いているなら……」 『判ったわ。そちらの画面に表示するから』 シェリルが第2研究室で操作をし、スレイブの前にスクリーンを表示する。 の位置からもはっきり見ることが出来、画面にアールとシェリルが映っているのが判った。 彼はカプセルのようなものの中に入れられ、意識はないようだ。 『では、始めます』 そう言うと、シェリルはナイフを取り出した。 何をするのかと、食い入るように見つめる。 シェリルはアールのカプセルを開け、腕を台の上に乗せると、ナイフで彼の腕を傷つけた。 深くなく、浅い傷ではあるようだったが、は信じられないようなものを見るかのような視線を送る。 意識のない人間を傷つけるなんて――……。 腕、太股、脇腹に、順に傷をつけていく。 何をしているのかとが言おうとした瞬間、嫌がおうにもモニタに目を奪われる。 「……そんな……嘘……」 傷をつけた腕はすぐに回復し、傷跡1つ残らないきれいな腕に戻っていた。 太股も、脇腹もだ。 本当に薄く皮を切っただけだが、こんなに直ぐに傷が治るはずはない。 「シェリル、もう少し深くやってみろ」 『了解』 今度は薄皮ではなく、普通に切り裂く。 は思わず目をそらした。自分が痛い訳ではないのだが、脇腹を抑えてしまう。 アールの脇腹からは、血が流れ出ている。 …………だが、これもやはりジワジワと治っていく。 先程よりも遅い回復だが、それでも確実に治っている。 「……どうして……」 「判らないのか? お前と同じだろうに」 スレイブが下卑た笑みを浮かべた。 ――そう、アレは、と同じもの。 尋常ならぬ回復力。 紛れもなく、彼女が生まれた時からその身に宿している能力だった。 それがどうして……アールに? 彼もまた、自分と同じように、超回復細胞を持つ人間だったのだろうか。 「不思議か?答えは簡単だ。お前の超回復細胞をアールにもくっつけてやった」 の特異な細胞を、治療用ナノマシンのなかに組み込み、それをアールに投与した。 結果は、御覧の通り。 「量産には時間がかかるだろうが……、極めて高い自己治癒能力を持つ、強力な兵士が作れる」 「……このために、私を?」 「そうだ」 クツクツと笑う彼が、酷く憎らしい。 スレイブはを鳥篭から出すと、入口から向かって右の部屋へと連れて行く。 そこはガラスで部屋を大きく仕切られている場所だった。 ガラスケースのような部屋に入れられ、鍵を閉められる。 「ちょっと!」 「暫くそこにいろ。素材が必要になったら、また出してやる」 ――素材。 人を一体何だと思っているのか。 ガラスを叩き割ってやろうと、備え付けられていたミニチェアーを手にとり、力いっぱい叩きつける。 ――が、イスの方が悲鳴を上げる結果となった。 手が衝撃でジンジンする。 「バカめ、このガラスは超強化防弾ガラスだ。割れっこない」 「……人を素材呼ばわりするような所に、これ以上いたくない!」 「お前は素材だよ。なにせ、これだけの為に作られたんだからな」 「――なに、言ってるの……?」 スレイブの言葉は理解不能でしかなかった。 作られた? 両親がこの会社に貢献しようと、子供を……自分を作ったとでも言うのだろうか。 そんなはずはない。 両親の自分に対する愛情は、紛れもなく本物だったのだから。 確かに小さい頃は、両親不在の日々で悲しかったし、中学の頃はそんな両親を嫌い、反発もした。 けれど、自分は人並み異常の愛情を注がれていたのではないだろうか。 どんな場所へ行っても必ず定期的に連絡してくれたし、気軽に会えない分、話も凄くした。 父も母も、との時間を大切にし、非常に切迫した状態でもない限り、彼女との予定を違える事もない。 間違った事に関しては烈火の如く怒り、どこがどう間違いか、どうしてそういう行動を取ったのかをきちんと考え、結論を出させるまでは妥協しない親。 その親が……そんな行動をとるとは、自分にはとても思えない。 「……フン、知らないなら教えてやろう。お前、何故自分が異常な回復力を持っているか、判るか?」 「そんなの……」 判るわけ、ない。 突然変異、単なる偶然。 それ以外に何があるというのだ。 「……誰かが、私の細胞をいじった、とでも言い出すの?」 「正解でもあり、不正解でもあるな」 は段々イライラしてきた。 ガラスケースに入った自分が、余りに不甲斐なくて。 スレイブの物を見るかのような視線が、腹立たしくもあって。 「……お姫様はご立腹か。まぁいい。時間はあるんだ、焦らずいくとしよう」 「……」 無理矢理自分を落ち着かせ、スレイブと向き合う。 彼は面白そうにイスを持ち、の前に座った。 「お前に初めて会ったのは、お前が2歳ほどの成長過程だったか……」 当時、スレイブはただの子供だった。まだ10代。 同年代に比べれば、頭はよかった。 いや、良過ぎる位。 10歳で大学生の資格を得、12歳で研究施設の責任者になった。 そして、15歳でとあるプロジェクトの見学をする。 <リンクス・プロジェクト> の父と母が率先し、そのプロジェクトを運営していた。 「ああ、君がスレイブ君か。話は聞いているよ。社長と副社長は、今ちょっと手が離せない。私が代わりに案内するよ。ジムと言う。よろしく頼む」 スレイブは一礼すると、挨拶と成した。 若い頃の彼は、決して弁舌ではなかったが、周りの人間も前評判で聞いていた為、さほど気にする事もなかった様だ。 ジムに連れられ、ある研究室へと足を運ぶ。 培養カプセルとおぼしき物が、そこかしこに乱設されている。 研究チームごとに別れ、1個体を研究、作成しているらしい。 「ここは、オリジナルから複製された、リンクスを造る所だ」 以前、何かの折にそのプロジェクトを見た事があるスレイブは、その言葉に頷く。 「オリジナルは何処に」 「あ、ああ。こっちだ」 高セキュリティエリアを通り、重そうなゲートを開く。 今まで見てきた、乱立した培養カプセルはなく、モニタが数十台と、部屋の真ん中に割合大きめのカプセルが二つ並んでいた。 片方は赤子、もう1つは……もう少し年齢がいっている人間が浮いている。 研究員達がモニタを見ながら、彼等を見守っていた。 「……随分大きくなりましたね」 「そうか、君は彼女達の生まれを見ているんだったな」 「ここまで無事に成長しているとは思いませんでした」 「右の現1歳児がリンクス・ルナ。左の……2歳児がリンクス・ソルと言う。2人とも完全に遺伝子を操作され、人間に1から作られた人間。遺伝子を色々混ぜて、人間にはない能力を持っていると思われるが……現段階では何とも」 何故、と問うスレイブに、ジムは言ってもいいものか考えたが、彼に協力してやってくれという社長の言葉を思い出し、一度咳払いをしてから、話出す。 「ルナとソルは、キメラのようなもんだ。まっとうな人間にはない、様々な遺伝子を持つ。だが、その遺伝子がどう作用するかは、10歳を越えるまで、判断がつかない。 10歳までに与えられた環境や知識によって、彼女等がどういうモノになるかが決まる。……実際、私達にも想像がつかない。どんな化け物になるのか考えるだけで怖いよ」 コポポ、と泡を立てつつ、カプセルのモノがゆっくりと目を覚ました。 目をパチパチとさせて、ジムを見る。 「やぁソル、ご機嫌はどうだい?」 中に向かって、笑顔を向けるジム。 それに答えるように、中の<ソル>と呼ばれたものは小さな手を開き、ニコリ微笑んだ。 随分人懐こいサンプルだと、スレイブは思う。 対して<ルナ>は、動かず、目線だけをジムに向けていた。 しばらくスレイブを見やると、<ルナ>はつまらなそうに目を閉じる。 「ルナは、相変わらずだな……」 「あと8年もこの状態で待つと?」 「いいや、成長促進させてる。10歳まではあと数ヶ月って所だ」 研究室外に出た2人は、コーヒーを片手に話をしていた。 スレイブの興味は、やはりオリジナル・リンクス達の事。 ジムはこの仕事をしているが、あまり好ましくは思っていないと告げた。 作り出すまでは夢中だった仕事だが、実際に人間を……いや、人の形をとった化け物になるかもしれないソレを造った後は、なんだかやりきれなくて。 特にリンクス・ソルは、全く普通の子供と変わらない仕草をするというのに、あんなカプセルに入れられ、研究対象として生かされている。 まるで、自分の子供みたいに思えるから、尚更彼女等の体を研究するのに、抵抗があって。 だが、スレイブはそんなジムをあざ笑った。 「……研究者にとって、これほど未知で興味をそそられる素材もありませんよ……」 「君は……できるなら、どちらを研究したいんだ?」 「そうですね……」 少し考え、ジムに答える。 「<ソル>を」 「どうして」 「あの明るい笑顔をへし折ってやりたい……」 ボソリと呟いた言葉に、ジムは思わずスレイブの顔をマジマジ見る。 彼の瞳には、暗い色が灯っていた。 「……彼女は兵器にすらなるんだ。素晴らしいと思いませんか? 無限の可能性をもつ化け物でしょう?研究のし甲斐がある」 「なにをバカな……」 元々、不治の病の為に造られた彼女たち。兵器だなんてとんでもない……。 出来ない事はでないのだが。 「僕はいつか、アレを研究したい……」 全てを聞いたは、この男がおかしくなったんじゃないかと思った。 言ってる事に、真実味がなさ過ぎる。 だが……己の体の不思議に当てはめたら……。 「そして、僕は、お前を手に入れた。長年研究したいと思っていた、お前を」 「…………私が……」 「お前は<リンクス・ソル>、科学の粋を結集して無から造られた人間だ」 ……あれ?(汗)なんか当初考えてたのとかなり違う感じに……。 ま、まあ頑張って続き書きます、なんか長いけど;; ソル、って名前だけ見ると、サモナイっぽいけども、気になさらずw しかもなんだかネタがダークエンジェルくさいですな〜(爆) 2002・7・11 back |