Aim 8




F・W(フェイト・ワークス)正面入口前

 スネークはタバコをふかしながら、自分が通る社員用入り口を見た。
 既に、普通の社員であれば退社していておかしくない時間だけに、受付に人の姿は見えない。
 まだ各部署に人が残っているのか、会社内の電灯はかなりついている。
 大企業だけに、徹夜作業など当たり前なのかもしれない。
 上には用事がないとはいえ、もしもの事があれば上に逃げる可能性もある。
 どうせだったら、人は少ない方がいい。
 昼間と比べたら、危険率はかなり下がっているだろうが。
 入口にはガードマンらしき人物が、1人伺えるが、通過するのに別段問題はないはずだ。
 あのガードマンがこの会社に所属する、全ての人物の顔と名前を覚えているなんてありえない。
「……さて、と」
 とりあえず、オタコンに連絡をとる。
【オタコン、これからF・W社に潜入する】
【了解、スネーク気をつけて】
 スネークは、タバコをふかしながら、ゆっくりした足取りで入口へと向かった。

 はっきりいって、正面から堂々と……というのは、初ではないだろうか。
 しかも完全に人目につく状態。
 相手が軍事集団ではないだけに、風変わりな作戦だ。
 IDを通し、ガードマンに挨拶して、入口のロックを外す。
「あんた、こんな遅くに呼び出しでもくらったのか?」
 いきなり気さくに話し掛けられるが、驚く素振りもなく、普通に返す。
「あぁ、上司ってのは、こっちの都合は考えんものらしいからな」
 ピッと電子音がし、ロックが解除される。
「そうか、がんばれよ」
「そっちもな」
 IDを抜き取り、颯爽と中へ入った。
 ゆるりとした足取りで、地下に降りるエレベータを探す。
 所々に監視カメラが設置されているが、今の所警戒されている様子はない。
 普通の社員が使うようなエレベータは、全て上専用。
 上に向かっても仕方ない。
 正也が送ってきたマップを頭から引っぱり出し、下に向かうエレベータを見つける。
 エレベータにはID照合がついており、いちいちカードを入れなくてはいけないようだ。
【オタコン、いるか?】
【どうしたんだスネーク?】
【今、F・Wの1階だ。IDチェックは無事に通過した】
 それはよかった、と安心した。
 自分の作った偽造IDに自信はあったが、頭の切れる社長の事。
 警戒していて損はない。
 ステルスのように、姿が見えない訳ではないし。
【スネーク、マサヤと合流した方がいい。彼は少なくとも、君よりそこのシステムを把握しているからね】
【……そうだな】
 余り気は進まなかったが、この際仕方ない。
 一旦、オタコンとの通信を切り、正也に繋ぐ。
 連絡をとると、すぐ近くにいる事がわかり、1Fまで来てもらった。
 ずっと連れて歩く気はなかったが、とりあえず、少しでも内部情報を知っている人間がいれば、多少楽に事が進められる。
 正也らしき人物が、少し緊張気味に声をかけて来た。
「……スネーク、ですね」
「あぁ。すまんが、協力してくれ」
 勿論、と彼は頷いた。
「マサヤ、は地下だろう?」
「多分、B2Fだと思います。俺のIDでは、B2Fの限られた場所までしかいけないんですけど……」
「……よし、下へ行く」
 地下の内部構造はデータが足りていないが、下にがいることは確実。
 2人は直ぐに、地下へ向かった。

 地下1階は、主に正規ルートの薬品研究エリアであるように見受けられる。
 セキュリティ・チェックもそんなに厳しくなく、ガードが徘徊している様子はない。
 作業研究員は、スネークと正也を疑う事もなかった。
 何故なら、このB1Fには正也の部署、ダニエル達黒服、暗部の者たちがいる所だったからだ。
 一応一般にも公開されている場所に、暗部の部署があるなんていうのは考え物だが、彼等は普段は普通の社員を装っているようだから、別に問題はないのだろう。
 エレベータからほぼ直線上にダニエル達の部署があるが、現在人の気配はないようだ。
 その奥、少し行った所にまたチェック・ゲートがあり、突き当たった左には、地下へ降りるエレベータがある。
「あっちのエレベータは、エリートの養成所直通だって聞かされてます」
「エリートねぇ……」
 一瞥し、目をきつく細める。
 暗部のエリート、エキスパートを養成している、というのは本当らしい。
 これだけの会社ともなると、裏取引も頻繁に行われるだろう。
 そのための人材育成……にしては、やり過ぎだが。
「スネーク、ここがBゲートになります」
「そうか」
 一言だけ返し、スネークはIDチェックを通過した。
 正也は……判ってはいたが、目を大きくして驚いてしまった。
 どうやったら、そんな事が出来るのかと。
 けれど、それを詮索している時間はない。
 ゲートの前で長時間突っ立っていたら、自分のせいで、スネークまで捕まりかねない。
 ……こんな凄い腕の持ち主が、を助けようとしてるなんて……。
 なんだか、が例えようもないほど、遠い人物に思えた。
「この先は行った事があるのか?」
「いいえ、一度も。一応入れるIDを持ってますが……必要がなかったんで」
 今の所、機密施設に入っていいという許可も貰っていないし。
「そうか。……まあいい、どっちにしろ警戒していけ」
「はい」

 B2Fに降りると、大きなホールが広がっていた。
 右の少し先に奥へと進む通路があり、2階部に昇る階段、その下に倉庫らしき物が伺える。
 どうやら、B2Fは2階建て構造になっているようだ。
 1部屋づつ探していかねばならない。
 が何処にいるのか、見当もつかないのだし。
「……いや、ちょっと待て」
「?」
 1つの考えが頭に浮かび、思わず足を止めた。
 ここでは(地下)ソリトン・レーダーが妨害電波ゆえか人物表示しかされない為、一応周りに注意をしながら、体内通信でオタコンに連絡を取る。
 正也はスネークがなにをしているのかサッパリ判らなかったが、とにかく邪魔だけはすまいとした。

【オタコン、聞こえるか?】
【スネーク?何か問題でも?】
【いや、ちょっと聞きたい】
 彼はオタコンに、先程浮かんだ考えを述べた。
 考えていたよりかなり広いこの施設を、1部屋づつあたっていくには、時間がかかり過ぎる。
 もし、シャドーモセス事件のダーパ局長や、一部要人に使われていたような存在を知らせる信号のような物がにもあれば、所在を直ぐに確認出来る――と、思ったのだが。
【そんなものないと思うよ。彼女は一介の女の子だろ?政府のおエライ様でもないし】
【……だろうな】
 ふぅ、と溜息をつく。
 オタコンは通信しながら、F・W社のセキュリティ・システム部のデータを盗み見ていた。
 明らかに、他の一般研究員とは違うランクの、高いIDを使用した部屋が何箇所かある。
 入手時の時間を調べ、何処に、何度出入りがあるか調べてみる。
 ――ここかもしれない、と憶測をつけた所で、バレそうになり、手を引っ込める。
「あっちゃぁ……バレたかな?」
 バレたとは思いづらいが、なんらかの形で、向こうのセキュリティが警戒体制に入ったのだろう。
 とりあえず、ここからだとは判らないはず。
【スネーク、B2Fの奥、第4研究室とB3Fに、高エリアキーを使用した痕跡があった。そこら辺から調べてみるといいかも】
【了解】

 通信を切ると、同時に数人の研究員が横を通っていった。
 特に、怪しまれた様子はない。
「まず、第4研究室へ行く」
「一番近場ですからね」

 階段を昇り、B2F上部へと歩いて行く。
 今の所、セキュリテイlに引っかかる事はなかった。
 ……だが、別の問題が発生。
 階段を昇ったその上、左に曲がる道があり、上にもうひとつ部屋がある。
 そこから、黒服の男が巡回をしている様子だ。
 もし、正也の部署関係の人間であれば、もしかしたらまずい事になるかもしれない。
 男達は、まるで統率された兵士のようにきっちりしている。
 数分置きに奥から出てきては、中2階を回り、戻ってくるようだ。
 走ればどうという事はない距離だが、監視カメラがついている。
 あまり不審な行動は出来ない。
「武器は現地調達……。M9しか手元にないからな……」
 戦闘をする気は、更々ない。
 だが、見つかればそうせざるを得ない。
 自分1人ならともかく、正也も一緒だ。
 その上、を連れて帰ることを考えると…………。
「……仕方ない、俺が先に行く。お前は俺が行ったら、タイミングを見計らって来い。
見つかるなよ?」
「―は、はいっ」
 スネークは頷くと、黒服が見えなくなったのを見計らって、監視カメラの真下をすり抜け、建物の下、死角の部分に滑り込む。
 正也も、黒服が通ったのを見計らい、スネークと同じようにすり抜けようとした……のだが。
「誰だお前。何処の所属だ」
(……嘘だろ……。)
 正也が引きつる。
 なんとも間の悪い事に、戻って来た方の黒服に見つかってしまった。
 出足で少しもたついた為、時間が足らなかったのが要因。
 冷や汗が、背中を流れる。
「答えろ!ここでは不審者は射殺しても……ハウッ……」
「??」
 いきなり、目の前の黒服が気絶――いや、眠っていた。
 正也は驚き、後ずさる。
 ……よく見ると、男の腕に何かが刺さっていた。
 ふと、先を行ったスネークの方を見ると、彼が目で合図している。
 慌てて彼の方へと向かった。
 完全な死角になっている所まで行くと、2人は近くの倉庫の気配を伺い、誰もいないことを確認し、中へと入った。
 倉庫の中は薄暗く、一見しただけでは黒いスーツを着ている2人の姿は見えない。
 一応、用心の為に、隅の方の荷物が多量に積まれている場所の影に隠れた。
 さっきの男が目覚めたら、警戒して仲間を呼ぶかもしれない。
 まだ、ここでやる事があるうちには、事を荒立てないほうがいい。
 暫く隠れて、様子を見ることにした。
「……すみません、俺のせいで……」
「仕方ない、お前はプロじゃなければ、軍人でもないんだからな。――だが、次はないようにしろよ。を助けるどころか、俺達が捕まる」
「はい……」
 項垂れる正也。
 先はまだまだありそうだ。


正面突破(意味違)話。
やっと会社の中です……進みがトロくてすみませんです、ほんとに……。
正也、情けない感じに仕上がっちゃってますか。
なんだか色々中途半端な形容で申し訳なかったりしますが……むむ。
どれぐらいで終わるのか、現時点では不明瞭です……大丈夫か自分(汗)

2002・7・2

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