Aim 5





 フィランソロピー組織内。
 オタコンは、ナオミから送られてきたデータと、自分が調べたデータを併せて考え、団体がを狙う理由を見出していた。
 入れた時は熱かったコーヒーが、データに釘点けになっていたせいで、一口も口をつけられる事なく冷めてしまっている。
 少し休憩しようと、冷たくなったコーヒーをすすろうとした時……。
「オタコン!!がさらわれた!」
「ええっ!?」
 コーヒーは、ちゃぷん、と音を立てて、もとあった位置に戻された。

 スネークから事のあらましを聞き、どうするかを考える。
 間違いなく、彼女はフェイト・ワークス内部に捕らえられているだろう。
 以前襲ってきた同会社のメンツが混じっていたから、間違いない。
 他と共謀している可能性も考えられたが、あの男達が他の人物と協力している可能性は、ごくごく低く思われた。
 権力状況からいって、彼らに協力し、なおかつ自分たちに利益が入ってくるような会社というのは、彼等と同じぐらい権限を持っているクラスでなくてはならない。
 だが、調べた所、他にそんな大規模な社はなかった。
 2人は今すぐにでも行動を起こしたい気持ちだったが、相手の状況や目的を知らずに動くのは危険だ。
 今までとは違い、軍や特殊部隊が相手ではない。
 メタルギア相手よりは多少楽とはいえ、侮れない。
 水面下はともかく、上では企業の一部として働く人間がいる所。
「……とにかく、準備しないとね」
「そうだな……オタコン、のMOは……」
「ああ、そうだ。ナオミから結果が届いてる。ちょっと目を通してくれよ」
 が狙われる理由が判る、と、プリントアウトされた用紙をスネークに渡す。
 オタコンはモニタに向かって、が連れて行かれたところに当たりをつけていた。

 ナオミからのデータは、信じられないようなものばかりだった。
 記されたものが全て事実とするならば、はその体1つで、神にも悪魔にもなりえる。
 あくまで、ディスクからのデータを検証しただけであり、実際にサンプリングして調べた訳ではないので、何とも言えないと、ナオミは書き綴っている。
 いくつもの組織、機関が彼女を狙う事から考え、全てがガセとは言い難い。
「オタコン、これは……事実か?」
「さぁ……でもディスクがフェイク、って事はないと思う」
 再度紙面に目をやるスネーク。
 ……極めて高い自己修復能力。
 彼女から抜き出した特定の細胞の一部を特定の人物(例えばスネーク)に組み込むと反応し、老化を留める。
 この辺は、以前ナオミがサンプリングしたスネークのものと掛け合わせて考えたもので、ほぼ確実と言えた。
 自己修復能力についても、以前銃でやれれた傷がそう長くかからず回復し、傷さえ残らなかったのを考えると、誇張ではないように感じられる。
 とはいえ、の細胞組織を検証した訳ではないので、憶測の域を出ないものではあるが。
 その他にも、状況さえ揃えば、特定の毒を無害化したり、命令情報を書き加える事によって、特定物質が毒化したりもする。
 例えば、日常的には全く無害な薬の類に、の組織を注入する。
 ある特定の命令さえ加えれば、その無害な薬は一瞬で猛毒に変わる。
 逆も然り。
 青酸カリ等、人体に猛毒として影響するものに、無毒化の組織を加えれば、それは害のない物に変化する。
 ……これをすぐに信じろと?
 無理な話だ。夢物語もいい所。
「まるで万能薬だな」
 さらった人物たちは、彼女のDNA組織を何らかの形で利用するつもりなのだろう。
 幸いにして、彼らの仕事は薬剤がメイン。
 いかようにも使えてしまう。
 そう考えると、を殺す事はないだろうが……危害を加えないとは限らない。
「周到な準備をする時間は、与えてはくれんだろうな」
 スネークの言葉に、オタコンも頷いた。
「F・W(フェイト・ワークス)にいる事は間違いないと思う。忍び込むのは、基本に乗っ取って夜だね」
「侵入経路を目算するのも、一苦労だな……」
 その前にマップが手元にないよと、武器の残存状態を確認しながら、オタコンが呟いた。
は多分、地下のシークレットエリアに連れて行かれると思う。上の部署なんかはパンフに載ってるけど……。ソリトン・レーダーに頼るしかないね」
「下見して、今夜行ければベストなんだが……」
「焦りは禁物だよ、スネーク。まずは、状況を把握してからだ」
 判ってる、と手で相槌を打つ。
 その日の予定を全て覆し、2人はあくせくと準備をし始めた。

 は、窓から景色を眺め、窓を叩き割って逃げるという事が不可能なのを実感した。
 そっとやちょっとでは割れないだろうが、割れた所で出られる訳ではなく。
 なにしろ、ここはビルの上の方。
 それも、10階ではおさまらない。
 なにもなく身を投げれば、待っているのは確実な死。
 部屋を物色してみたが、ロープなどの類は全く存在しない。
 ロッククライミングなんて無理だし。
 かといって、正面扉は開かず、通気ダクトなんてなく、手詰まり状態だった。
「……スネークぅ……オタコン……」
 うずくまって、信頼する、大好きな人たちの名前を小さな声で呼ぶ。
 本当にちょっとの間会っていないだけなのに、もうずっと会っていない気になる。
 せめて自分が出来る精一杯の事はやりたいと思うのだが、手持ちの武器は小型麻酔銃だけ。
 外に飛び出しても……途中で捕まってしまうだろう。
「正也、ちゃんと連絡してくれたかなぁ……」
 頼みの綱を思い、開かない扉を見つめた。

 その頃、正也はダニエルの目を盗み、スネークに連絡を取っていた。
 武器のチェックをしていたスネークに、突然コール音が響く。
 通信番号を認識してみると、の携帯無線のナンバー。
 何故、体内通信ではないのかと思ったが、とりあえず出てみる。
 オタコンに状況をモニタリングさせ、通信を取った。
【…………お前は、の……】
 通信に出た相手に驚きと、少々の怒りを覚える。
 スネークにとって、正也はをさらった仲間だとしか見えていない。
 そんな相手が、彼女の携帯通信を使ってこちらに連絡してくるとは……。
 正也はスネークの心境に気付きつつも、幾分か緊張した面持ちで話し掛けた。
【あなたが、ソリッド・スネークですね?】
【それがお前に関係あるのか?この回線はのものだ。どうしてお前が――】
「スネーク、余り凄んじゃ駄目だ。相手は民間人だよ」
 民間かどうか判らないだろう、と思ったが、正也は闇を見てきた人間とは言い難い。
 気付かぬうちに、焦っていた自分に気付く。
 落ち着くために一瞬目を瞑り、正也との会話を再開した。
【……すまん。は無事か?】
【はい、今の所は。俺はマサヤと言います。の友人です。……今日の事は(拉致の計画)、知らなかったんです】
【なに?】
【確かに、に会って彼女を社へ連れてくるように、社長に言われてました。でも、任意だと思ってたんです。それが……あんな――】
 彼の言葉に、嘘はないように思えた。
 敵の作戦である可能性も考えたが、正也のような人間に動揺なしで、相手を欺く事は限りなく不可能に近いように思える。
 彼はと同じで、平和というか、温和を背にしょっているようなタイプに見えたからだ。
 ”判った”とだけ告げると、スネークはの意を聞いた。
 どうして、通信させたかを。
 正也はに言われた通りの事を、そっくり話した。
 通信した後は、スネークの指示に従うつもりでいる。
は、地下に移されるんだな?】
【はい、多分……。地下に研究室があるらしいんです。何……実験するみたいで。どうすればいいでしょうか】
 とにかく、必要な情報を集めなくてはならない。
 に何か変化があったら、通信するように指示した。
【地下の見取り図はあるか?】
【一応、俺の動ける範囲までは、先輩から渡されました。会社の見取り図の方は、大まかなものなら、直ぐに手配できます】
【よし、じゃあそれをこっちに送ってくれ。なるべく急げよ】
【わかりました】
 また後で連絡する、と言って、通信を切る。
 中に手引きする人間がいれば、もしかしたら楽に入れるかもしれない。
 数十分後、送られてきたマップをオタコンがデータに移し、細部までチェックする。
 スネークと一緒に図面を見ながら、経路を確認した。
 正面入り口は、社員用と来客用の二つのゲートに分かれていて、来客の方は受付を通して中へ入り、社員は個別に与えられたIDで、扉を開けて中へ入るようになっている様子。
 IDさえあれば、社員と同程度のセキュリティ・エリアまでは怪しまれずに通れるだろう。
 オタコンは、F・Wのコンピューターにハッキングして、架空の社員を人員登録し、IDを偽造して、正面から入れるようにする事にした。
 偽造する間に、スネークは下見を済ませる事にする。

「……監視カメラに、ガードか」
 フェイト・ワークス社の少し横で、休憩するフリをして視察するスネーク。
 正面の守りは、余り堅くはないようだ。
 ID制をとっているから安心しているのか、それとも、中の警備の方が厳しいのか……。
 受付の左に、社員用入り口。そこにガードが1人。
 右には来客用入り口があり、入り口近くにガードが1人と監視カメラ一台。
 正也の話では、余り中の警備も堅くはない様子だったが……もしかしたら、正也の場合、の友人だという事で、多少のしがらみが緩和されているのかもしれない。
 彼は地下エリアに入れるIDの持ち主。シークレット部署の人間として扱われているのだろう。
「……、お前今、何処にいるんだ……?」
 厄介事を増やしてくれたな、と溜息をついた。
 文句とも取れる言葉を吐きながらも、無事であって欲しいと願う自分に苦笑いをこぼし、タバコを取り出して火をつける。

 紫煙は、風に舞って消えた。


まだまだ行きます(汗)
堅くなりきれないウチのスネーク+私の文体…。
もっとこう、激しく堅く書きたいんですけど、どうも無理チック。
無理しないで、いつも通りゆきますです。
あと、女主の体(DNA)ですが、嘘っぱちです(当たり前)
理論もなんもあったもんじゃありません、寛大な心で許してくださいませ。
意味繋がってねぇよー、というツッコミはお許しを。私もそう思います(直せないのは頭が足りないから〜)

2002・5・15

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