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 フィランソロピー組織内部では考えられない程の静けさに、は目を覚ました。
 何か薬でも嗅がされたか、頭痛がする。
 近くに置かれていたペットボトルの水を、何の抵抗もなく飲むと、幾分か頭がスッキリし、今の状況を把握する事ができた。
 見た感じ、きちんとした部屋、という訳ではなさそうだ。
 小奇麗な小規模のオフィス、または客間に、ベッドサイズになるソファをつけた、という所。
 周りを見回していると、突然ノックの音が響いた。
 自分の状況の不明確さを考え、身構える。
 ロックが外れる音がし、扉が開いた。
 そこには、見知った顔が1人と、見知らぬ顔が数人あった。
 見知った顔、正也は、見知らぬ顔のうちの1人に促され、口をつぐんでいる。
「失礼、?」
 多分、立場が上なのであろう男が、1人で部屋の中に入ってくる。
 正也は外に締め出された状態。
 入ってきた男は、微笑をたたえる事もなく、ほぼ無表情。
「……知らない人に、名前を呼ばれる筋合いはありません」
「強気なものだな……。私の名はケイル・ローダー。見知っておけ」
 は、目の前の金髪の人物を見た。
 長身で短髪……。その端整な顔の下に、何を思っているかは全く読み取れない。
 何を目的として自分を拉致したかは……見当がつくとしたら、MOディスクの事だけ。
 それ以外の理由だとしたら、自身にはサッパリだ。
「どうして、私をここに?」
「お前を必要としたからだ」
 無機質に感じる声。思わず身震いしてしまう。
 ……しかも、MOではなく……おまえ自身と彼は言った。
 自身を必要として、さらった……と言う事になる。
「な……なんで私を必要とするんです」
「詳しい説明が要るのか?」
「当たり前です!」
「それが、今までのお前の全てをくつがえす事実であってもか」
 ……何を言っているのだろう。
 は、彼がどういう意味合いでその言葉を言ったのか、判らない。
 ケイルは口の端を上げ、笑う。蔑まれているような、そんな顔。
 突然扉が開き、正也ともう1人、知らぬ男が入ってくる。
 濃いグレーの髪に白衣……、年の頃は、20代後半か。
 オタコンと同じような感じを受ける辺り、研究者や科学者、またはそれに準じる者かもしれない。
 ……だが、オタコンとは違い、目に狂気を宿しているように見える。
 男の絡みつくような…品定めするような視線が、を不快にさせた。
「ほぅ……こいつが……」
「Dr・スレイブ。わざわざ見にこずとも、今日の午後にはそちらへ移動するものを…」
 スレイブと呼ばれた男は、無遠慮にズカズカ歩き、の前までくると
 陰湿な目を向け、ニヤリと笑った。
「待ち続けた物が手の届く所にあるというのに、待ってはいられないさ」
 から視線を外さず、会話を続ける。
「午後には、取り掛かれるんですね?」
「ああ、手配する」
 目の前の男達は、何が目的なのだろう。
 会話の内容も、全く読めない。
 正也を見るが、自分と同じく状況がつかめていない事が判る。
 スレイブは、の頬をなぞると、目線を外した。
「今のうちに、ゆっくりしておくんだな……。休みたくても休めなくなる。ああ、いや……ずっと休んでいる、というのが正しいか」
「?」
 言いたい事だけ言い、スレイブとケイルは顔を見合わせ退出した。
 硬直状態が解けたかのように、に駆け寄る。
……ごめん、俺……こんな事になるなんて知らなくて……!」
 まさか、拉致するなんて思わなかった。
 きちんと説明し、同意を得て連れてくるものだと思っていたのに――。
 正也がに願った、両親のプレゼントを見立てて欲しいというのは完全な嘘。
 そう言え、と、ダニエルに脅しを掛けられた為、そう言わざるを得なかった。
 最初にその嘘の意味に気付くべきだったのだと、口唇を噛む。
 交渉して連れてくるのであれば、そんな嘘など必要ないのだから。
 今、自分たちが置かれている状況は、異常だ。
 もし、初めからこうする予定で、自分とが友人関係だと言う事を調べていたとしたら……。
 なんの実績もない自分が、この会社に入れるのも頷ける。
 なにしろ、社長のへの執着は並の物ではない。
 先輩のダニエルだって……どの部署か判らない上、を捕まえた時の素早さは、素人では考えられない程のもの。
 様々な事が頭を駆け巡り、手が震える。
「……正也、判ってる、私は平気。それより、あなたはどうするの?」
 ここで普通に勤める事はできないだろう。
 何か重要な事に関わってしまったのだから、咎めなく帰れるとも思えない。
 最悪、消されてしまう。
 は窓の外を見ると、今できること、できそうな事を考え始めた。

「……正也、協力してもらえるかな」
「できる事なら、何だってやるよ」
 自分の失態の償いも含め、友人であり、好意を持つ彼女がこんな状態であるなら、協力しない訳はない。
 できる範囲はごく限られたものだろうが、それでも彼女のためならと頷いた。
「私のカバン、どこにあるか知ってる?」
「あ、僕が持ってる。見つからないよう、隠してた」
 はホッとした。
 もし、カバンがなければ、できることも、できなくなってしまう。
 カバンの中身は、丸々無事のようだ。
 小さいサイズだったから、見つからなかったのだろう。
 中から携帯を取り出すが……。
「やっぱり……」
 地下鉄だろうが、どこだろうが大丈夫なはずが、かからない。
 圏外でもない。
 しかも、先程から試しているが、体内通信も繋がらない。
 この部屋に、一種の妨害装置が働いていると考えていいだろう。
「正也、もう一度聞くね。凄く危ないけど、協力してくれる?」
「答えは変わらないよ」
「……ありがとう。あのね、この部屋を出て、私の携帯から、”スネーク”っていう人に連絡を取って欲しいの。番号はメモリに入ってる」
 相手は体内通信だが、の携帯には無線と同じ役割を果たす、変化機器が付いているので問題ない。
 とにかく、自分がどこにいるかを伝えてもらう必要がある。
「スネークって……メタルギアを壊してまわってるっていう……あの? それとも、別人?」
「”あのスネーク”だよ。私も一応、その組織の人間。つい最近からだけど」
 が、別次元の人間に思えてくる。
 だが、目の前にいる彼女は、なんの変わりも見られない。
 何か理由があるのだろうが、深くは追求しない事にした。
「後は、スネークに従って。私も何とか出るように頑張るから」
「わかった。……やってみるよ」
 まずは、この会社にいる事が先決。
 秘密を知ったからと、消されてはたまらない。
「……、必ず助けるから」
「うん、がんばろ」

 正也が部屋の外へ出ると、ダニエルが腕をつかんで何処かへ引きずっていこうとした。
「先輩!?」
「お前、殺されたくなけりゃ、さっさと日本へ帰るんだな」
 マズイ。
 ここで社から放り出されては、の状況が判らなくなる。
 大切な人を、見捨てる訳にはいかない。
 あれこれ考えている暇はなく、彼はいくつかある選択肢の中の一つを選び出し、行動に出た。
「先輩、俺、先輩たちに協力したいんです」
「……なんだと?」
 片眉を上げ、小馬鹿にしたような笑みを浮かべる。
 頭でもおかしくなったのか、とでも言いた気に。
「俺がいれば、は大人しく言う事を聞きます。損はないはずです。働かせてください」
「いいか?俺達の仕事は簡単に手伝えるもんじゃない。銃を持った事すらないヒヨッコが……」
「貸して下さい。持ってるんですよね?」
 半ばひったくるように、銃を手にとり、割合距離のあるゴミ箱に表準を合わせ、引き金を引いた。
 軽い発砲音がし、ゴミ箱が衝撃で倒れる。
「……どうです?」
「……いいだろう。社長に言っといてやる。だが、いいか? あくまでお前は、あの娘の為の非常要員だ。派手な事はするな」
 正也はホッと息を吐いた。
 銃なんて、本当はテレビや漫画、雑誌でしか見た事がなかった。
 知識だけはあったので、撃てただけの話。
 当たったのは、マグレだ。
 とにかく、社に残る事はできた。
 正也は、ダニエルに連れられ、彼らの部署へと歩いていった。



るるるー、おそいー、おそいー(汗)
本文、ちょっと長いですね。
ラストまで決まってるんですけど……、書くのが見事に遅いんで;;
なるべく硬質な文章を書きたいのに、難しいなぁ……。

2002・4・20

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