aim 4 フィランソロピー組織内部では考えられない程の静けさに、は目を覚ました。 何か薬でも嗅がされたか、頭痛がする。 近くに置かれていたペットボトルの水を、何の抵抗もなく飲むと、幾分か頭がスッキリし、今の状況を把握する事ができた。 見た感じ、きちんとした部屋、という訳ではなさそうだ。 小奇麗な小規模のオフィス、または客間に、ベッドサイズになるソファをつけた、という所。 周りを見回していると、突然ノックの音が響いた。 自分の状況の不明確さを考え、身構える。 ロックが外れる音がし、扉が開いた。 そこには、見知った顔が1人と、見知らぬ顔が数人あった。 見知った顔、正也は、見知らぬ顔のうちの1人に促され、口をつぐんでいる。 「失礼、?」 多分、立場が上なのであろう男が、1人で部屋の中に入ってくる。 正也は外に締め出された状態。 入ってきた男は、微笑をたたえる事もなく、ほぼ無表情。 「……知らない人に、名前を呼ばれる筋合いはありません」 「強気なものだな……。私の名はケイル・ローダー。見知っておけ」 は、目の前の金髪の人物を見た。 長身で短髪……。その端整な顔の下に、何を思っているかは全く読み取れない。 何を目的として自分を拉致したかは……見当がつくとしたら、MOディスクの事だけ。 それ以外の理由だとしたら、自身にはサッパリだ。 「どうして、私をここに?」 「お前を必要としたからだ」 無機質に感じる声。思わず身震いしてしまう。 ……しかも、MOではなく……おまえ自身と彼は言った。 自身を必要として、さらった……と言う事になる。 「な……なんで私を必要とするんです」 「詳しい説明が要るのか?」 「当たり前です!」 「それが、今までのお前の全てをくつがえす事実であってもか」 ……何を言っているのだろう。 は、彼がどういう意味合いでその言葉を言ったのか、判らない。 ケイルは口の端を上げ、笑う。蔑まれているような、そんな顔。 突然扉が開き、正也ともう1人、知らぬ男が入ってくる。 濃いグレーの髪に白衣……、年の頃は、20代後半か。 オタコンと同じような感じを受ける辺り、研究者や科学者、またはそれに準じる者かもしれない。 ……だが、オタコンとは違い、目に狂気を宿しているように見える。 男の絡みつくような…品定めするような視線が、を不快にさせた。 「ほぅ……こいつが……」 「Dr・スレイブ。わざわざ見にこずとも、今日の午後にはそちらへ移動するものを…」 スレイブと呼ばれた男は、無遠慮にズカズカ歩き、の前までくると 陰湿な目を向け、ニヤリと笑った。 「待ち続けた物が手の届く所にあるというのに、待ってはいられないさ」 から視線を外さず、会話を続ける。 「午後には、取り掛かれるんですね?」 「ああ、手配する」 目の前の男達は、何が目的なのだろう。 会話の内容も、全く読めない。 正也を見るが、自分と同じく状況がつかめていない事が判る。 スレイブは、の頬をなぞると、目線を外した。 「今のうちに、ゆっくりしておくんだな……。休みたくても休めなくなる。ああ、いや……ずっと休んでいる、というのが正しいか」 「?」 言いたい事だけ言い、スレイブとケイルは顔を見合わせ退出した。 硬直状態が解けたかのように、に駆け寄る。 「……ごめん、俺……こんな事になるなんて知らなくて……!」 まさか、拉致するなんて思わなかった。 きちんと説明し、同意を得て連れてくるものだと思っていたのに――。 正也がに願った、両親のプレゼントを見立てて欲しいというのは完全な嘘。 そう言え、と、ダニエルに脅しを掛けられた為、そう言わざるを得なかった。 最初にその嘘の意味に気付くべきだったのだと、口唇を噛む。 交渉して連れてくるのであれば、そんな嘘など必要ないのだから。 今、自分たちが置かれている状況は、異常だ。 もし、初めからこうする予定で、自分とが友人関係だと言う事を調べていたとしたら……。 なんの実績もない自分が、この会社に入れるのも頷ける。 なにしろ、社長のへの執着は並の物ではない。 先輩のダニエルだって……どの部署か判らない上、を捕まえた時の素早さは、素人では考えられない程のもの。 様々な事が頭を駆け巡り、手が震える。 「……正也、判ってる、私は平気。それより、あなたはどうするの?」 ここで普通に勤める事はできないだろう。 何か重要な事に関わってしまったのだから、咎めなく帰れるとも思えない。 最悪、消されてしまう。 は窓の外を見ると、今できること、できそうな事を考え始めた。 「……正也、協力してもらえるかな」 「できる事なら、何だってやるよ」 自分の失態の償いも含め、友人であり、好意を持つ彼女がこんな状態であるなら、協力しない訳はない。 できる範囲はごく限られたものだろうが、それでも彼女のためならと頷いた。 「私のカバン、どこにあるか知ってる?」 「あ、僕が持ってる。見つからないよう、隠してた」 はホッとした。 もし、カバンがなければ、できることも、できなくなってしまう。 カバンの中身は、丸々無事のようだ。 小さいサイズだったから、見つからなかったのだろう。 中から携帯を取り出すが……。 「やっぱり……」 地下鉄だろうが、どこだろうが大丈夫なはずが、かからない。 圏外でもない。 しかも、先程から試しているが、体内通信も繋がらない。 この部屋に、一種の妨害装置が働いていると考えていいだろう。 「正也、もう一度聞くね。凄く危ないけど、協力してくれる?」 「答えは変わらないよ」 「……ありがとう。あのね、この部屋を出て、私の携帯から、”スネーク”っていう人に連絡を取って欲しいの。番号はメモリに入ってる」 相手は体内通信だが、の携帯には無線と同じ役割を果たす、変化機器が付いているので問題ない。 とにかく、自分がどこにいるかを伝えてもらう必要がある。 「スネークって……メタルギアを壊してまわってるっていう……あの? それとも、別人?」 「”あのスネーク”だよ。私も一応、その組織の人間。つい最近からだけど」 が、別次元の人間に思えてくる。 だが、目の前にいる彼女は、なんの変わりも見られない。 何か理由があるのだろうが、深くは追求しない事にした。 「後は、スネークに従って。私も何とか出るように頑張るから」 「わかった。……やってみるよ」 まずは、この会社にいる事が先決。 秘密を知ったからと、消されてはたまらない。 「……、必ず助けるから」 「うん、がんばろ」 正也が部屋の外へ出ると、ダニエルが腕をつかんで何処かへ引きずっていこうとした。 「先輩!?」 「お前、殺されたくなけりゃ、さっさと日本へ帰るんだな」 マズイ。 ここで社から放り出されては、の状況が判らなくなる。 大切な人を、見捨てる訳にはいかない。 あれこれ考えている暇はなく、彼はいくつかある選択肢の中の一つを選び出し、行動に出た。 「先輩、俺、先輩たちに協力したいんです」 「……なんだと?」 片眉を上げ、小馬鹿にしたような笑みを浮かべる。 頭でもおかしくなったのか、とでも言いた気に。 「俺がいれば、は大人しく言う事を聞きます。損はないはずです。働かせてください」 「いいか?俺達の仕事は簡単に手伝えるもんじゃない。銃を持った事すらないヒヨッコが……」 「貸して下さい。持ってるんですよね?」 半ばひったくるように、銃を手にとり、割合距離のあるゴミ箱に表準を合わせ、引き金を引いた。 軽い発砲音がし、ゴミ箱が衝撃で倒れる。 「……どうです?」 「……いいだろう。社長に言っといてやる。だが、いいか? あくまでお前は、あの娘の為の非常要員だ。派手な事はするな」 正也はホッと息を吐いた。 銃なんて、本当はテレビや漫画、雑誌でしか見た事がなかった。 知識だけはあったので、撃てただけの話。 当たったのは、マグレだ。 とにかく、社に残る事はできた。 正也は、ダニエルに連れられ、彼らの部署へと歩いていった。 るるるー、おそいー、おそいー(汗) 本文、ちょっと長いですね。 ラストまで決まってるんですけど……、書くのが見事に遅いんで;; なるべく硬質な文章を書きたいのに、難しいなぁ……。 2002・4・20 ブラウザback |