Aim 1





 高級な造りの部屋で、その男はいく度もの失敗に、怒りをあらわにしていた。


「まだ捕らえられないのか!!」
「も、申し訳ございません!」
 黒いスーツの男が、自分に怒号を発した秘書の向こうにいる人物に、深く頭を下げた。
 明らかに自分より年下だが、己の主、しかも、失敗を許さない人物。
 社長、ケイルは、ゆったりとした椅子に座り、無表情で、縮こまるスーツの男を見ていた。
 今まで計画にミスがあった、重大な失敗をした等の仲間は、彼の手によって、亡き者とされている。
 自分も今、その運命をたどるのかと思うと、土下座して許しを乞いたくなる。
「社長……申し訳ありません」
 秘書が深く礼をし、許しを乞う。ケイルは、窓の外を見て、溜息をついた。
「……まあいい、邪魔も入っているようだしな。だが、次にしくじれば命はないと思え」
「っ……心得ました」
 一礼し、部屋を出る。
 ドアに掛けられた、社長室、というプレートが、イヤに普通に見えてしまう。
 外では、仲間が待っていた。
「死体にならずに済んだようだな、ダン」
「あぁ……だが、次はないぞ。……俺も、お前等もな」
 ダニエルは、少しでも陰鬱な空気を振り切ろうと、ジャケットからタバコを取り出し、深く肺に入れる。
 紫煙は、天井の通気口に流れて消えた。
 罪悪感なんて人間らしい感情は、とっくに何処かに捨ててきたと思っていたのに……。
 今回のターゲットの写真を見て、ダニエルはまた煙を吐き出す。
 ――気が乗らない。
 上が何の理由で、この女を手に入れようとしているのか、知っているから尚更。
 この仕事……、暗殺や拉致等、色々やって来たが、女子供をターゲットにしたもの、しかも今回ほど気乗りしないものはない。
 だが、変な温情を出して捕まえられなければ、自分が消されてしまう。
 人の命か、自分の命かと問われれば、誰だって自分の命をとる。
「……か……。人体実験の被験者とは……可愛そうなこった……」
 写真を懐にしまい、銃を確認する。
 今度こそ、しくじる訳にはいかない――。

「ダニエルは大丈夫でしょうか……」
 秘書が、ケイルに零した。
 ケイルは、ゆっくりとくつろぎながら、ターゲットであるの資料を見ている。
「……彼女は、どうしても私達に必要な素材だ。どんな手段を使っても手に入れる」
「心得ております」
 秘書は、うやうやしく礼をした。

「おい、お前」
「ん、何か用か?」
 黒スーツ数人が、路地のダンボール脇に立ってタバコを吸っている、サングラスの男に声を掛けた。
 声を掛けられた男の方は、怪し気なス―ツ男の団体におくする事もなく、飄々と言葉を返す。
「今さっき、ここを17、8位の女が通っただろう、どっちへ行った」
「あぁ、ここを真っ直ぐ行って、右に走ってったな」
 それを聞くと、男達は礼も言わず、示された方へと走って行く。
 相当焦っているようだ。
 男達が完全に見えなくなってから、サングラスの男は独り言のように呟く。
「……もういいぞ」
「……はぁ、助かったね」
 脇に置いてあるダンボールの中から、ひょこっと顔を出す。
 その手を掴んで、引っ張り出してやった。
、大丈夫か?」
「うん……。でもダンボールの中狭かった……。スネーク、よく普通に入ってられるね」
 スネークは、サングラスをポケットにしまい、ニヤリと笑った。
「重要アイテムだからな」

 ここ最近、は以前にも増して、その存在を狙われていた。
 とはいえ、四六時中狙われていて、出歩けば必ず見つかってしまうという訳でもないし、自身の危険回避能力も、相当上がって来ている。
 護身用に、小型の改造麻酔銃も持っているし(但し、弾数は一発)、自前の護衛術もあり、一人でなんとか切り抜けられるようにはなって来ていた。
 たまたま、今日はスネークと一緒だったのだが。
「……いい加減、諦めて欲しいのに……」
「向こう様だって、なにか理由があるからお前を追い回してる訳だからな、そうそう諦めんだろう」
「正体ぐらい判ったっていいのにな」
 今さっき追って来た男達は、特にしつこく追跡してくる感じがあった為に、尚更そんな事を思ってしまう。
「まあ、仕方ない……、それより、今は買い物が先だ」
 オタコンに頼まれた通信用ケーブルと、メモリー、それに夕食。
 これだけを買う為に外へ出て、見つかってしまった。
 運が悪かったのだ。

 は、自分の両親が反メタルギア団体の出資者である事は知らなかった。
 ……いや、本当は両親が何の会社を経営していたかも、よく知らない。
 父は大会社の社長でアメリカ人、母は副社長で日本人。
 ハーフだが、日本人色が濃く、髪は黒い。
 その両親は、何者かの策謀により、既にこの世から消えている。
 自身は両親が死んだ所を見た事がないが、スネークとオタコンの話に嘘がなければ、間違いなく故人になっているはずだ。
 日本では普通に生活し、普通の学校に通っていたのに、ある日、アメリカの両親の会社までの地図と、中身の判らないMOディスクを渡され、渡米する事になった。
 渡米するなり訳も判らず、怪しげな人物に襲われ、助けてもらった恩人のスネークとオタコンの所に転がり込んで、既に2ヶ月。
 右も左もわからなかったも、今や立派にオタコンの助手になっている。
 自分を狙う人物は一向に判らなかったが、とりあえず、自分のDNA情報に、何かしら追われる理由がある様子。
 体の内部のことで追われる身になるとは、心外極まりないが、状況は変わらないのだから仕方がない。
 このままずっと変わらないとは思っていなかったが、それでももう暫くは現状維持だと………………思っていた。

「買い物終わったし……後は帰るだけだね」
「ああ、そう……」
……?」
 後ろから声を掛けられ、スネークは反射的にを背後に隠してかばった。
 もし敵であれば、無防備に彼女をさらしておく訳にもいかない。
「やっぱり、だろ!?」

 目の前の男は、を懐かしむような表情を浮かべ、微笑んだ。




MGSまでやっちゃってます、続きもの……。
ちょっと、マジメに硬派っぽいもの目指してます。
……目指してるだけで終わってしまうかもしれないですが;;
ゆっくりジンワリ、書いて行きます。
あくまでも、スネーク×女主で。

2002・3・24

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