キーボード




 フィランソロピー、ナンバーワンのパソコン技術者といえば、ハル・エメリッヒこと、通称オタコン。
 ジャパニメーション好きで、天才ハッカーの彼。
 その助手の、日本人は、フィランソロピーのファイリング係。
 普段、密室で二人きりでいる事も多いのに、恋愛のれの字も生まれないのは、彼が名前をつけて、愛して止まないパソコンのせいか、それとも、いつまで経ってもお友達感覚ののせいか。

 ともかく、スネークに任務がない時や、調べ物がちょっとしかない時、二人はのんびり、のほほんとコーヒーをすすりながら雑談したり、仕事したりしているのだった。

「ふぅ…」
 ひっきりなしにカタカタいっていた音が、オタコンのため息と共に突然止む。
 それに気づいたは、報告書をファイリングしていた手を止めた。
「オタコン、コーヒーでも飲む?」
「うん、頼むよ」
 オッケー、と軽く言い、がデスクから体を離す。
 手際よく準備し、コーヒーメーカーのスイッチを入れると、暫く後に、いい香りのするコーヒーの入ったカップが、二つ出来上がった。
「はい」
「ありがとう。のコーヒーは美味しいからね」
 コーヒーを受け取りながら、にこやかに言うオタコンに、は笑いながら切り返した。
「あはは、誰が入れたって一緒だよ」
 水の分量さえ間違えなければ、そうそう不味いコーヒーは仕上がっては来ない。
 にも関わらず、オタコンはの入れてくれたものにだけは、必ず言うのだ。
 ほんの小さな事だが、には、それがとても嬉しく感じて。
 オタコンは、パソコンをスタンバイ状態にすると、と向かい合わせで、ソファに腰を下ろす。
 ――暫し、無言の空間が続く。
 けれど、無言が痛いとか、何か話さなきゃとか、変な焦りが生まれない。
 オタコンの年齢が上だからかなぁ――などと、のんびり思う

、疲れてる?」
「へ?」
 突然の質問に、は慌てて思考を切り替える。
「えと、ううん、別にそんな事ないと――思う」
 オタコンに言われ、考えてみるが、そう疲労している訳ではない。
 …まあ、ここでの仕事はファイリングだけではないし、ハードといえばハードな仕事だが、オタコンやスネーク、メイ・リンに比べれば、自分など。
……。
「でも、最近眠たそうだから」
「あ、あー…うん、ちょっと寝不足かも。支部の報告書を読んでたりしたから」
 言葉にしたら眠くなってきたのか、口に手を当てて、小さなあくびをする。
 他人から指摘されたりすると、急に眠くなってしまうものなのだろうか。
 それとも、本当に自分が気づかない所で、激しく睡眠不足…なのかも。

 オタコンは、の小さな行動――というか、疲労を見逃さない。
 一緒にいる時間が長いからかもしれないが、ほんの少しの風邪だったりしても、睡眠不足でも、怪我でも。
 スネークもそうなのだが、とにかく、のちょっとした異変に敏感なのだ。
 逆に、自分自身が鈍感なのかと、疑いたくなるほどに。

 はもう一度、小さなあくびをしてから、コーヒーを飲み干す。
 テーブルにカップを置くと、ソファに体を預けた。
「ごめん、オタコン。ちょっと…三十分ぐらい、眠っていいかな」
「うん、いいよ。僕はもう少し仕事してる」
「三十分経っても起きなかったら、起こしてくれていいから」
「分かったよ」
 ふわりと微笑み、オタコンもコーヒーを飲み干すと、パソコンを起動させ、カタカタとキーボードを叩く。
 は安心したように、ソファに体を横たえた。
「…オタコンのキーボード叩く音って、子守唄みたい」
「そうかい?」
「…うん、なんか、安心する」
「……休憩が終わったら、また仕事だから。ほら、お休み?」
「うん……」

 の耳に、流れるようにキーボードを打つ音が響く。
 オタコンの、手の動きが淀みない証拠だ。
 それをバックミュージックに、は、すぅっと眠りに落ちた。

 オタコンはキーを打ちながら、後ろで寝息を立て始めたに、苦笑いした。
「子守唄、か。そんな風に言われるとは、思ってなかったなぁ」
 それだけ、気を許してくれている、という事なのだろうが。
 ちょっと複雑だが、でも。
「……嬉しい気も、するね」
 兄としてでも。
 …恋人としてなら、もっと嬉しいんだけど。
 でも、それはのんびり、焦らずに行けるから、きっと。

 そんな余計な事を考えながら、オタコンは改めて仕事に集中した。

 キー打ちの子守唄を、奏でながら。




180000キリバンリク、いかいか様からで、オタコン夢でした。
どこがオタコン夢ですか…待たせておいて、こんなんでスミマセン;;
いっつもキリリクとかって不発なんですよねぇ…精進します。
いかいか様、リク、どうもありがとうございました!

2003・9・2

back