Warmth



「オタコン、はどうした」
「ああ、ちょっと買い物に行ってもらってる」
 モニタから視線を外さずに話すオタコン。
 何か調べ物をしている時の彼は、出来る限り画面から目を離さない。
 スネークもそんなオタコンに慣れたもので、文句も言わなければ嫌な顔もしない。
「一人で行ったのか」
「ああ、そうだよ」
「……狙われてるってのに、何処へ何を買いに?」
 嫌な予感が、その身を包んでいる。
 詰め寄るスネークに、たまらずモニタから目を離すオタコン。
 心配性だと思い、苦笑いする。
「すぐそこだよ、お昼を買いに行ってもらってるだけだし」
「……そう、か」
「随分とご執心だね」
 そんな事はないと言葉を濁してみても、付き合いの長いオタコンからすると丸分かり。
 大丈夫だよと落ち着かせるように言い、モニタの周りの資料を整理する。
 危なくなれば体内通信で連絡して来るだろうしと思い、手じかなイスに腰掛ける。
「それで、を狙う奴等の正体は判ったのか?」
「色々と調べてみてるんだけど、どうもね……」
「……なんだ」
「数が多すぎるんだ。正規なのから不正なのまで、結構な数の団体さんが関与してるみたいで」
 自分の体、しかも遺伝子レベルでの事で、正体不明の奴等に追い掛け回されるというのも……難儀な話だ。
「……それにしても、遅いな」

 一方のは、その正体不明の敵さんとやらに、しっかり追いかけられていた。
 街中なだけに、銃の乱発をしてくる事はなかったが、大人の男数人に追い掛け回されるのは、結構辛い。
 慌てていて、体内通信の存在など忘却の彼方だ。
「……どうしよう」
 遮蔽物に身を隠し、なんとか追っ手をやり過ごす。
 だが、のこのこ出て行っていいものかどうか……。
 せめて、オタコンとスネークに連絡をとりたかった。
 あちこち走り回ったせいで、迷子になってしまっていたから。
 もう少し、この周囲の地図を頭に入れて置けばよかったと後悔。
「……あ、そうだ…、体内通信使えるんだっけ」
 今頃気がつく。
 今までは体内通信など不要の産物だったため、あってもなくても変わりなかったが、今この時程、この通信方法に感謝した事はない。
 声を出さずに話が出来るというのも、この状況では好都合だ。
【スネーク、聞こえる?】
、どうした?買い物してるんだろう??】
【それが…変な人に追っかけ回されて、迷っちゃって……】
 スネークの嫌な予感は、しっかりと当たってしまったようだ。
 オタコンは慌てながら、通信を隣で聞いている。
【今何処にいる】
 周りを見渡し、なんとか目印になりそうなものを伝える。
 は通りの名前や番地を教えた。
【よし、そこから動くな。直ぐに行く】
 通信を切り、一応M9(麻酔銃)を持って走り出す。
 これは後でこってり怒られるなと、オタコンは一人になった部屋で思った。

「……っう……」
「気がついたね、よかった」
「!?……オタコン……」
 自分がどんな状況に置かれているのか判らず、は体を起こそうとした。
「っぁ……」
 左肩に激痛が走る。苦痛に顔を歪ませ、肩に手をやった。
 ……包帯が巻いてある。
「駄目だよ、寝てないと……」
「なに……これ……」
「覚えてないのかい?」
 どうやら痛みで、一時的な記憶混乱に陥っているらしい。
 スネークに現在地を教えて、通信を切った所まではしっかり覚えているのだが……。
 オタコンの話によると、スネークが教えられた場所についた時、は追っ手と思われる男たちに、連れ去られる寸前だったらしい。
 その時、既に傷を追って気絶していたようだ。
 スネークが助け出してくれなければ、今頃何処かへ連れて行かれてしまっていただろう。
「そ……か……」
「何か思い出せるかい?」
「……スネーク待ってて…、それで……」
 じわりじわり、戻ってくるシーン。コマ切れだが、思い出す。
 隠れていて、物音がして……。
 振り返る前に発砲音がして……、肩に痛みが走り――……。
「動きを封じる為に、撃ったんだろうね……最悪な奴等だな」
「……スネークは?」
「ああ、今薬を取りに――」
「起きたのかっ!?」
 慌しく入って来たスネークは、オタコンとのきょとんとした顔を見て、急いでいつもの(?)クールなスネークに戻った。
 持って来た薬や包帯累々をオタコンに渡す。
、大丈夫か?」
「うん、ゴメン、また迷惑かけた」
「あの変な奴等には”今度手を出したら、組織ごと壊滅させる”と言っておいた。暫くは大丈夫だろう」
「あはは……イタタ」
 笑いの振動でさえ、痛みを引き起こす。
 利き腕でないのが、唯一の救いだが。
「大丈夫、かすった程度だから、直ぐ直るよ。骨にも異常は見られないし」
 オタコンが微笑みながら言うが、は、かすり傷でこの痛みなのかとゾッとした。
「包帯代えるから、ちょっと肩出し――」
「俺がやる」
 スネークがオタコンを押し退ける形で、の横を陣取る。
 少しビックリしたが、まあ自分では手当て出来ないのではお願いする事にした。
 治療なのだから、どちらでも構わないのだけれど。
 オタコン、不満気ながらも潔く退場。
 の肩の包帯を取り、傷口を綺麗にする。
 痛みに、彼女の顔がしかめられた。
「少し我慢しろ。泣き言は聞かないぞ」
「っ……平気」
「上等だ」
 てきぱきと処置を行う。
 は目をつむって、必死に痛みを耐えた。
「……これでよし。もういいぞ」
「はぁ……ありがと。…スネーク、今日これから用事ある?」
「いや……、どうした」
「あのねっ…………やっぱいいや、怒られそうだし」
「何だ、いいから言ってみろ」
 少し悩み、スネークの目を見て少々小さめの声で言う。
「……寝るまで、側にいて欲しいんだけど……」
「…………」

 と言う事で、スネークはが寝るまで付き添う事になった。
 男としては、実に複雑である。
 軽く食事をし、は寝床へと入った。
 彼女が気を失っていた時間は結構長く、既に夜になってしまっていた。
 オタコンもスネークも、勿論も昼食抜きになってしまったのだが……まあ、仕方ない。
「…ねぇ、スネーク」
「何だ」
「…怖くなったり、しないの?」
 天井を向いたまま、質問する。
 質問の意味が判らないと伝えると、は言葉を続けた。
「私、撃たれた時……凄く怖かった。死ぬかもって」
「……」
「―スネークは、私なんかよりこういう目に凄くあってるような気がして……ちょっと聞いてみたくなったんだけど……ごめん、泣き言になっちゃうね」
「…俺は、戦場に関わりのある人間だからな、怖いと思ったら死ぬ。そう考えてる。だが、お前は違う。戦場に立つ人間じゃない、怖くて当たり前なんだ」
 髪を優しく撫でてやる。
 声がとても優しくて、はアメリカへ来て初めて泣く寸前まできた。
 涙を我慢している彼女に微笑みかけ、そっと頬を撫でる。
「…お前は、お前のままでいろ」
「でも私、スネークやオタコンの力になりたい」
「銃を握るのは俺の仕事、お前に銃を振り回す事なんか望んでいないさ」
「……うん」
「いいから寝ろ、体力回復しないからな」
 布団をかけなおしてやり、自分は近くのイスに座り、が寝るのを待つ。
 すると、スネークの手に暖かいものが触れた。
 見ると……の手が、スネークの指を掴んでいる。
 彼は手を指から一度外させ、改めて握りなおした。
「…どうした」
「なんか……ごめ……不安で……」
「俺はここにいる、オタコンも入れさせないようにするから安心しろ」
「あはは、オタコンは別にいいけどね。……スネークの手、暖かくて強そうで、大好き」
 ”おやすみなさい”と、小さく告げ、は目を閉じた。
「……ああ、おやすみ」

「眠ったのかい?」
 いつものように、モニタ前を陣取っているオタコンが、入って来たスネークに言う。
 タバコ片手に、どっかとイスに座り込んだ。
「あぁ……眠った」
「……ごめん、僕の不注意だった」
「お前が謝ることじゃないだろう」
「……でも、に……謝らないと」
 オタコンはオタコンなりに、心配し、罪悪感を感じているようだ。
 スネークはタバコの味を感じながら、が触れた己の手を見た。
 …彼女はこの手を好きだと言ったが……自分では温かみなど感じられない。
 人を殺め、大事な者達を守れなかった手。
 それを知れば―その現実を見れば、も”好き”等とは言わなくなるに違いない。
 暫くメタルギアに関する情報資料に目を通してから、再度、の様子を見に、彼女の部屋へ向かった。
「ん……」
「……?」
 何やらうなされている様子の彼女に近寄り、声をかける。
、大丈夫か?」
「…ぁ……スネーク……」
「泣いているのか」
 悪夢でも見たのか、零れる涙を指でぬぐってやる。
 助けをこうように、彼女の手がスネークの手を求めた。
 彼は直ぐに応じて、手を握ってやる。
「ごめ、ん…、殺される夢、見ちゃって……」
 ただの夢。
 だが、恐怖を表すかのように、体が小さく震えているのが、握った手を通して伝わって来る。
 彼女にとって銃で撃たれたという経験は、思った以上にショックな出来事だったようだ。
 ―無理もないが。
 両親の事や、自分の置かれた状況や環境を考え、泣きたくなったんだろう。
 スネークは、の手を握り締めた。
「大丈夫だ、心配するな」
「……うん」
 弱々しく微笑むの額に、そっと口付けを落す。
 瞬間、涙は止まり、は赤くなってしまった。
「な……!」
「どうした?」
「い、いえ…なんでも…ない…」
 ここはアメリカ。ご挨拶でキスをする国。
 うろたえるなと自分にいい聞かせ、はやはり手を繋いだまま眠りに落ちた。

 …先程のキスが、挨拶だったかどうかは、彼のみぞ知る。


し……失敗……;;
糖度大目にしようと思ったら、なにやらさっぱりな出来に。
げふげふ……ああ、力量のなさ浮き彫りですよ、ほんとに。
かぶり多そうだし…、気をつけてちょっとずつ上手くかけるようになりたいですな。
新しいジャンルは模索時間が長い……。
文体やら設定が固定されるまでは、激不安定だと思われますが……ご容赦を;;
オタコンメインの話とかも書きたいなぁ……っつか、これスネークメインと言えないですな。
出張りすぎ……。
希望としては、メイ・リンも出したい。友人役とかで(笑)

2002・2・24

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