Training





「……なぁ、スネーク」
「何だ」
「…・…・あの子に、撃てると思うのかい?…・銃なんて」
「…・どうだろうな」
 スネークは、に銃の扱いを教えようとしていた。
 いくら組織内でかくまっているとはいえ、ずっと外に出ない訳にもいかない。
 スネークに護衛を頼むのも、少々無理がある。
 賞金首らしいので…・一応。
「でも、女の子に銃なんて…・」
「護身用だ、彼女に人が撃てるとは思ってない」
「スネーク〜、来たけど?」
 ひょこっと顔を出す
 反メタルギア組織の中にいる人間としては、一番ホヤホヤッとしているのではないだろうか。
 元々の性格だろうけれど。
「ああ…ちょっと聞くが、銃を扱った事は?」
「うん、あるよ。ゲーセンの銃」
「……
 スネークが深く溜息をつく。
 愚問だった。
 日本人学生が、本物の銃を扱った事があるはずない。
 というより、あったらヤバい。
「まあいい、ついて来い」

 スネークは、を民間の射撃場へと連れてきた。
 一応、組織内にも訓練場というか、射撃場は用意されているのだが、問題なのは、彼女に扱えそうな銃器がないということだった。
 扱えそうな部類のものは、間の悪い事に調整中で、結局外に行く事になってしまったのである。
 賞金首とはいえ、出歩けばすぐ発見されるという訳ではない。
 案外、気付かないものだ。
 バンダナがあるのとないのとでは、とらえ方や感じ方が違うもの。
 ……まあ、女連れの「伝説の傭兵」なんて、ちょっと考えつかないかもしれないが。
「さて……そうだな、一度手本を見せる」
 射撃場に入り、物珍しそうにあちこち見ているに声をかけ、呼び戻す。
 しっかり見てろ、と言うと、スネークは的に向かって銃を構えた。
 テレビドラマなんかで見るより、全然カッコよく見える。
 リアルなものと、そうでないものとの違いかもしれない。
 一呼吸置いて、銃声がした。
 弾は心臓部分を撃ち抜いている。
 は驚くと同時に、感動して拍手をしていた。
「さすが、凄い…よく当たるね」
 …当たらなかったら、彼の場合は命がいくつあっても足りないのではないだろうか。
「さあ、次はお前の番だ」
 銃を手渡される。
 は、本物がこんなに重いと思っていなかった。
 多分、一番最初に大体の人が思う事であろうけれど。
 持てない、とかではないが、ずしっとしている。
「それはべレッタM92F、一般向けといえば一般向けだな。一発的を撃ってみろ」
「う、うん……」
 見よう見マネで、的に向かって撃つ―――が。
 弾が出ない。
 は首を傾げた。
 スネークが苦笑いする。
「…安全装置かかりっぱなしだ」
「……そんなのあるんだ」
 セーフティーを解除して、再トライ。チャキッと構えて、撃つ。
「っわ!!」
「おっと!」
 弾丸発射の衝撃で、の体が後ろによろけ、慌てて受け止めるスネーク。
 弾は的には当たらず、欄外行きになった。
「ごっ、ごめん!」
「俺はいいが…大丈夫か?」
「うん、平気……」
 のろのろとスネークから離れる
 少し、恥ずかしかった。
 …別にスネークに抱きとめられたのが恥ずかしいのではなく、ちゃんと撃てなかった事が恥ずかしいのだけど。
 現在の所、恋愛要素なし。
 作者的にはとっても困る事態だ。
「……うーん、ちゃんと的見てるのに…」
「慣れだ。後は、しっかり的を定めて、足を踏ん張れ」
「わかった」
 一時間も撃ちっぱなししていると、大分サマにはなった。
 の手は、なんとなく疲れたり痺れたりしてきていたが。
「…よし、終いにしよう。どっかでメシ食って帰るぞ」
「うん」

「いただきます」
 手を合わせ、ご飯前の挨拶をする
 …ただし、目の前にあるのは白飯に味噌汁ではなく、ポテトにハンバーガーだが。
「日本人ってのは、皆そうやって挨拶するのか?」
「ううん、人によると思うけど。なんとなく習慣」
 ポテトを摘みながら、は窓の外を見た。
 ファーストフードの味は全然違わないのに、見える風景は凄く違う。
 母国語が殆ど見えない世界というのは、不安をあおるものらしい。
 何となく、ホームシックにかかる気分がわかった。
 …まあ、母国がある、というのは幸せな事だと思うが。
「スネーク、私…上手くやってけるかなぁ」
「なんだいきなり……」
 スネークはコーヒーを飲む手を止めて、を見る。
 不安そうな表情がそこにあった。
「…私ね、アメリカって、殆ど来た事なくて。親同士は行き来激しかったんだけど」
「付いて来たりはしなかったのか?」
「うん、学校もあったし…それに、やっかみの対象になるから。出来るだけ避けてた」
 も食後のコーヒーを飲み始める。
 ミルクをいっぱい入れて飲むのが好きだった。
 亡き父も、同じように飲んだ事を思い出す。
「……私、スネークやオタコンの…足手まといって言うか…あそこに不要な人間だし。アメリカの事全然わからないし、特殊な知識もない。…邪魔なだけとか…思っちゃうと、なんか……暗くなっちゃって」
 静かに、でも強い口調で、スネークはに言葉をかけた。
「そうだな、今は邪魔なだけだ。―だが、それは後の行動で変えられるものだろう。不要かどうかなんて、お前が決める事じゃない。誰かがほんの少しでも必要だと思えば、お前はその人にとって必要な人間だろう」
「それは…そうだけど」
「お前はもう俺達の仲間だ。必要な人間。そんな事を考える暇があったら、しっかり勉強してオタコンの作業を減らしてやれ」
 ぐりぐりと頭を撫でるスネーク。
 は何だか嬉しくて、顔が緩んだ。
 彼の言葉が、を安心させてくれた。
 必要だと言ってくれたスネークや、受け入れてくれたオタコンの力になりたいと、心からそう思える。
 今はまだ何も出来ないけれど、助けになれるようになりたい。
 の当面の目標が出来た。
「スネークありがとう、私頑張るね!」
 笑顔を向け、”ご馳走様でした”と、両手を合わせた。

「オタコンただいま〜」
「お帰り、スネーク」
 いつもの如く、モニタと格闘しているオタコンに、は後ろから抱きついた。
 何だかはオタコンに抱きつくのが好きらしい。
 スネークは表に出さないようにしていたが、内心ピキピキきていた。
 彼自身、何故ピキピキきているのか分かっていないのだが。
、銃は撃てたかい?」
「うん、一応……」
 あはは〜と笑いながら、それでもまだ抱きついている。
 オタコンもまんざらでもないらしく、振りほどく事すらしない。
 仲のいい兄弟か、仲のいい恋人(?)に見える事請け合いだ。
 スネークは壁に寄りかかり、二人を見ていた。
「でも、スネークみたいに上手く当てらんなくて」
「それは仕方ないよ。僕だって無理だ」
「そっか……。オタコンって…細いね」
「女性に細いって言われるのは、何だか複雑だよ」
 苦笑いしながら、の手を握る。
 ……人嫌いだったオタコンは一体何処へ。
「あ、そうだスネーク、さっき―――」
「……何だ」
 オタコンの動きが止まる。
 スネークの表情が、なんというか…こう…、シャドーモセスに侵入した時のようになっていたからだ。
 鬼気迫るというか、そんな感じ。
 オタコンの引きつりっぷりに、もスネークを見る。
「あー!スネーク駄目だよ、眉間にシワよせちゃ。癖になっちゃうよ?」
 オタコンから離れ、てほてほ歩き、スネークの側まで寄ると眉間のしわを突っつく。
「何、怒ってるの?」
「別に怒ってなどいないぞ」
「……」
 いや、明らかに怒っている…というか、不機嫌だろうよと、思い切り心の中で突っ込みを入れるオタコン。
 も気付いていない訳はないだろうが……。
「じゃあ、不機嫌?」
「……」
 何も答えないスネークに溜息をつくと、は一度部屋の外へ出て、戻ってきたときには手にコーヒーを持っていた。
 それをイラついているスネークに渡す。
「?」
「飲んで」
「あ、ああ…」
 彼は一口飲んで…、少し落ち着いたようだった。
「疲れてる時やイラついた時は、甘い物がいいんだって。砂糖とミルクたっぷり入ってるから、少しは落ち着いたでしょ?」
「………ああ」
 日本人の女の子が、あのスネークをコーヒー一杯で落ち着かせている…と、オタコンは少し驚きながら、観察していた。
 色々、物珍しい。
 を口説いた気配もないし。
 ……いや、既に口説いたのだろうか。
「スネーク、君…もうを口説いたのかい?」
「………」
「………」
 スネークが焦ってを見た。
 はきょとん、として、スネークを見返す。
「スネークって、会ったばかりの人口説くの?」
 ストレートな質問。
 確かに、口説いてはいたが…それを彼女に言うのは躊躇われた。
「…オタコン」
 思わず怒りを向けてしまうスネークに、は本当なんだと判断した。
 自分は口説かれていないので、蚊帳の外らしい。
 もしかして、女として認識されていないのではと考えると、悲しいやら腹立つやら。
「私、部屋戻るね。オタコン、後でちょっと教えてもらいたい箇所があるんだ、来ていい?」
「うん、大丈夫だよ」
「ありがとう、それじゃね」
「お、おい……」
 シュンッと扉が閉まる。
 スネークは固まったまま、オタコンを睨みつけた。
 何もそんな事言わなくてもいいじゃないか、という感じ。
 ――その目が怖い。
「ま、まあいいじゃないか、本当の事だし」
「ほう、じゃあお前がモラシた事を言ってもいいよな、本当の事だし」
「えぇ!?い、言わないでくれよー!」
 さすがにそれは情けないので、オタコンは強烈に反対した。
 少なからず好意を持っている者に、自分の情けない過去や姿を見せたくはないものだ。
「…しかし本当に珍しいね、本気の子は口説かない……ってヤツかい?」
「……さぁな」
 彼女が特別というのも、口説かない理由であるのは確かだ。
 その特別というのも、好きだから特別、というのではないだろう。
 出逢って三、四日程度で好きだの嫌いだの考えない。
 言葉にするのは難しいが…強いて言うなら、雰囲気、だろうか。
 ほわほわしていて、掴めない。
 穏やかとでも言おうか。
 ……雰囲気に負け、口説くどころかストレートに愛の告白でもしてしまいそうになる。
「いや、違うぞ、別にに惚れてる訳じゃない」
「スネーク、誰に話し掛けてるんだい?怪しい人になってるよ」
 オタコンは、そんなスネークの姿を見て思った。
 自分の相棒は、案外やられてる、と。



MGS夢その2です。
相変わらず何が言いたいのかさっぱりな内容で。
うちのスネーク…なんかかっこよくないなぁ…(泣)
もっとこう…なんつーか、かっこいいのを書きたいのに…。
駄目っすね〜;;
ラヴラヴさせるのに、ちょっと勇気がいる…。
オタコンはいい思いしすぎです、多分。
まだぼちぼち書いてゆきます、はい。

2002・2・3

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