Accident




 
 アメリカ人と日本人のハーフで……現在、正体不明の方々数人から逃亡中。
「アメリカって怖いなぁ……」
 路地に置いてあったダンボールの横に隠れながら、はしみじみ思った。

 数日前、アメリカにいる両親から呼び出され、日本からアメリカに飛んだ。
 父の経営する会社へ向かっていた所……空港を出た直後に、いきなり変な人数人に拉致られかけた。
 勿論、には面識が全くない人である。
 と、いうより、面識のある人間にいきなり銃を突きつけられるのは、どうかと思うが。
 とにかく、感謝すべきは日本人の母親から教えてもらっていた体術。
 それでやり過ごしていなければ、今頃誘拐されるか、撃ち殺されるかのどちらかだったろう。
「…うーん…、どうしましょう」
 事前に父から渡された物は二つ。
 会社までの地図と、中身のサッパリ分からないMO。
 なんだかドラマなんかだと、MOのせいで狙われてる…とか、充分ありそうだが。
 中身がなんだか分からない以上、渡すわけにもいかないし。
 どうでもいい物を奪う為に、用意周到に空港で待ち伏せなんかしてはいないだろうし…。
 とにかく、がアメリカで頼る事が出来るのは、親だけだった。
 なんとかして、会社に行きたい。
 けれど、行く前に殺されたらシャレにもならないし……。
「オイ、お前」
「わーーー!ごめんなさいごめんなさい!!!」
 気配すらなく、いきなり背後から声をかけられ、思わず無駄に誤りながら後ずさる。
 側にあったダンボールにけつまずきそうになった。
 声をかけた人物が、慌てて支えたので大事には至らなかったが。
「おっと……すまん、驚かせたようだな」
「あ、ありがとうございます…・えと…・?」
 不安そうに見つめるに、男は笑みを浮かべた。
「俺は敵じゃない。お前の両親に言われて、助けに来た」


 ついて行くべきか迷ったが、あのまま隠れているだけではどうにもならず、男性についていく事にした。
 連れてこられた先は、何かの施設みたいだった。
 は、きょろきょろ辺りを見回すが、見たことのないような機材が見て取れる。
 その部屋の一室に通され、イスに腰掛けた。
 先にいた眼鏡をかけた男性に、優し気に語りかけられる。
「やぁ、君が娘さんだね」
「あ、の…・さっぱり状況が見えないんですけど…」
「ああゴメン、君…・一応確認するけど、、だよね?」
「はい、です」
「よかった。僕はオタコン」
「オ、オタ…・…・?」
 本名がこれだと怖い。
 は、通り名なのだろうと勝手に推測した。
は日本に住んでいたんだろう?いいなぁ…アニメとか沢山見れるんだろうね〜」
 アニメ好き…なるほど、それで”オタコン”か、と、妙に納得してしまうがそこにいた。
「オタコン…趣味の話は後でしろ」
「あ、さっきの…・」
 さっきの男。
 をここへ連れてきた男が入ってきた。
 部屋に案内すると、どこかへと消えてしまっていたのだが…まあそれは置いておくとして。
 彼はオタコンの隣に位置を取ると、をじっと見つめる。
 ……なんなんだろうと、怪訝な顔をしてしまう。
「…・…・合格」
 何がだ。
 オタコンは笑いながら、話を元に戻した。
「ゴメン、えーっと…彼はスネーク。潜入のソリッド・スネークって言ったら…・判るかな?」
「ご、ごめんなさい…・余り良く知らないの」
 本当に知らないので、素直に謝る。
 日本の友人が彼の熱狂的ファンだったようだが、は余りそういうのに興味はなく、軽く流してしまっていた。
 今その友人がいたら、物凄く羨ましがられる事だろう。
 オロオロしているを見て、スネークが口を開いた。
「まあいいさ、変な先入観もたれてるよりマシだ。俺はソリッド・スネークだ、よろしくな」
「はい、こちらこそ」
 握手を求められ、慌てては手を出した。
 ――大人の手、だと思う。
 普通の男性より、なんだか…訓練しているみたいな手だったが。
 「俺達は、反メタルギア組織”フィランソロピー”のメンバーなんだ。メタルギアは…・知ってるよね?」
 オタコンに問われ、は自分の持っている知識内で答えた。
「核搭載二足歩行戦車……でしたっけ」
 さすがに、それは日本メディアでも扱われた事があって知っていた。
 核が歩いてきたら、恐ろしい事この上ない。
 そういう意味で、物凄くインパクトがあって忘れようにも忘れられない物体だ。
 今までの話で、ここがそのメタルギアに反する場所だという事も分かる。
 ――だが、自分に何の関係があるのかは、全く解らない。
 確かに、DNA治療やらナノマシンやらの知識をかじっている人間ではあるが、あくまでもかじっているだけ。
 こんな、スペシャリスト達が集まる所に、は自分との関係を見出せなかった。
「…どう考えても、私ここにいる類の人間じゃないんです…ケド」
「落ち着いてよく聞いてくれよ?泣き喚いたりしないでくれるね?」
「は、はぁ…」
「君のご両親は…・殺されたんだ」
 ――瞬時に反応できなかった。
 …なんというか、そう、現実離れしていて。
「え、な…何言って……」
「嘘じゃない。今日の午後か――少なくとも明日には、ニュースで流れるはずだよ」
「…・…・なんで…」
「―君のご両親は、僕等に出資してた。それが気に食わない連中がいた…っていうのが、まず一つ。もう一つは、要求を呑まなかったからだ」
 何の要求なのだろう。
 確かに父は金持ちの部類ではあったが……。
 だが、要求はお金ではなかった。
 は自分が関わっているなんて、思いもしていなかったのに。
「要求は、君の体だよ」
「オイ、オタコン…・やらしい言い方をするな」
 スネークが言葉を突付くが、オタコンは「深読みする、君の方がやらしいよ」とサクッと切り返した。
 だが、当のはそれどころではない。
「どういう意味ですか…・?」
「つまり、だ。敵さんは会社の資金と、君のDNA情報が欲しかったんだ」
「DNA??」
 …聞いたオタコンの話をまとめてみると――の父は、反メタルギア活動をしていて、それが元でどこかの人達の怒りを買った。
 の体、要はDNAには、他の人にはない珍しいものがあり、そのどこかの人達は、それも欲しかったので金と共に要求。
 両親はそれを拒否し、フィランソロピーに出資を止めず、をかくまった為、 殺害されてしまった。
 ……なんともシビアな話だ。
、君…・ディスク貰ってないかい?」
 ディスク…MO、はカバンに入れてあったディスクを取り出し、オタコンに渡す。
 オタコンはすぐにそれを開くと、何やら唸った。
 は横からちろっと覗いて見たが……高度過ぎて完全には理解出来ない。
 一応、DNAに関する知識は備えているが、見たことのない物ばかりで何が何やら。
 だが、オタコンには何となく解っているようだ。
「…・あの、それで私は一体どうしたら…?」
 オタコンは、スネークと顔を見合わせた。
「君のご両親から、何かあった時には助けるように頼まれてる。でも…日本に帰った方が、安全かもしれないよ?」
「そうだな。俺達は戦地に行く事が多いし…、ましてや賞金首だからな」
「え!?」
 確かに、少し普通とは違う雰囲気をかもし出しているが、悪人には全く見えない。
 が日本暮らしで、こちらの国の事情を知らなくても、だ。
 賞金首=極悪人、というイメージは、この時点で覆された。
「まあ、詳しい説明は省くけど…、僕等は非政府組織の中でも、結構過激派だからね。危ない目にあわないとも言い切れないし」
「それに、ガキの子守りはゴメンだしな。何も出来ないんじゃ、いても辛いだけだぞ」
「スネーク……言い過ぎだよ」
 オタコンは慌ててスネークをたしなめた。
 ―確かに、日本に帰れば周りに迷惑をかけず、普段通りの生活に戻れるかもしれない。
 しかし、には出来ない話だ。
 どこの世界に、両親を殺されて、何も考えず安穏とする娘がいるだろうか。
 しかも、日本に帰ったからといって安全とは限らない。
 おおっぴらに犯人一味が入ってくる事はなかろうが…、家は既にわられていると判断していいだろうし、敵方が自分を捜しているのなら、いつ拉致されて殺されても、おかしくないのだから。
 日本は治安がいいとはいえ、それは統計的な事であって、法をかいくぐってくる者が居ない訳ではない。
「…・私の名義で…ええと、大体五千ドルぐらい積んであると思います。日本の銀行だから、その変な人達にも奪われてないハズ。……全部ここに出資するから、私を……ここに置いて下さい」
「どうする?スネーク」
 オタコンに問われ、スネークは唸る。
 ふいに、先ほどからひっかかっていた質問をした。
 話の本筋とは全く関係のない事ではあったけれど。
、泣かないんだな。両親が殺されたっていうのに」
 言われて、オタコンも気付く。
 普通だったら……泣くだろう。
 まだ十代の娘だ。
 しかも、日本に長く住んでいて、殺生沙汰には疎い。
 アメリカと日本ではあったが、両親とはしょっちゅう会っていたとも聞く。
 悲しくないはずはないのだが…。
 返事を返す彼女の声は、気をつけて聞かねば分からない程度ではあったが――震えていた。
「泣く時は、場と状況を考えろ、そう教えられました」
 泣く事がショックや傷を癒す最善の方法である時もあれば、逆に己を追い詰める時もある。
 それに、己を慰めていい場所かどうか、考えてから泣け。
 父に教えてもらった事だった。
 今もし、泣いてしまったら、途端に気力が崩れてしまうだろう。
 それは、自分で自分の道を絶つ事。
 今は泣くべきではないと、判断した。
 …まあ、判断する頭のスペースもなくて、泣いてしまう時もあるのだけれど…。
 両親がしょっちゅう危ない目にあっているのは知っていたし、ある程度の覚悟はしていた。
 だから、立っていられるのだが。
 そう告げると、スネークはニヤリと笑った。
「案外、根性あるな。…いいだろう、ここにいろ」
「ありがとうございます!!」
 何となく闇に光が射した気がして、は思わず微笑んだ。
 その笑顔を見て、スネークが固まる。
「…・あーあ、また悪いビョーキが始まっちゃうよ…・」
「…・うるさい」
 オタコンの呟きは、しっかりスネークの耳に届いたようだ。

「とにかく、君には覚えてもらう事が結構ある。…まあ、慣れれば問題なくなるからね、それまで一緒に頑張ろう」
「はい」
 オタコンから、どさどさっと通信機器やら何やらの資料を渡される。
 ……結構な量だ。
 日本学校の、夏休みの宿題を三、四年分ぐらい。
「あと…・少し聞くけど、軍の知識とかあるかい?」
「…・そ、そんなにないと思います…必要なかったし」
 日本育ちに何を言うかという感じだ。
 オタコンは、少しずつ教えていく事にした。
「…少し銃の扱いを覚えておけ。後で俺が教えてやる」
「はい、スネークさん」
 スネークが少し複雑な顔をする。
 どうも、名前の呼び方がまずかったらしい。
「はははっ、スネークさん、だってさ」
「…・、俺の事はスネークでいい」
「はい」
 敬語もやめてくれ、と注意され、コクリと頷く。
 一日で生活が恐ろしく変化してしまったが、日本に戻らないと決断したのは自分だ。
 それに対して、後悔は全くない。
 …日本にいる親戚には、後で連絡でもしておく事にした。
「あ、そういえば…・ナノマシンで体内通信出来るんだよね?」
 日本の生活では全く使用しなかったが、体内通信が出来るナノマシン。
 しっかりと体内に注入されている。
 親には、注入されていなかったようだが。
「うん、周波数140.33…だったかな」
「了解。…・ええと、ここを出て突き当たりの部屋を使ってくれるかい? 必要な物があるなら、買っておいで」
 買え……と言われても、金がない。
 フィランソロピーに全部出資すると約束したのだから、は無一文だ。
 それを察したのか、オタコンは笑った。
「必要があれば使わせてもらうよ、だから今は君の物を揃えるんだ、いいね」
「でも……それじゃあ…」
はもう僕等の仲間なんだから、遠慮はナシだよ」
「あ…・…・ありがとう!!」
 嬉しさの余り、は思わずオタコンに抱きついていた。
 スネークの機嫌がちょっと悪くなる。
 オタコンは、慌ててを引き剥がした。
 …スネークがイヤミを言い出しそうになったからだ。
「買い物に行くなら、この近辺でね。日本と違って、治安が凄くいいわけじゃないし、は狙われてるんだからね」
「分かった。…・…・では」
 ぴっ、と、二人の前に立ち、深くお辞儀をする
「今日から、どうぞよろしくお願いします!」
 にっこり笑うと、言われた部屋へと走って行った。
 ……元気なものだ。
 空元気でも、落ち込まれるよりはいい。

「彼女も大変だね…モルモットになりかかってたとは」
 オタコンが呟きつつ、モニタを見る。
 画面には、先程ディスクから出したデータが映し出されている。
 内容は、のDNAと彼女の細胞がもたらす影響についてだった。
 はっきりとは分からないが、どうやらのDNAはエラーを修復し、体があるべき状態にまで回復させる能力があるらしい。
 体の衰えや、細胞の増減にも影響を及ぼす。
 突然変異か何かはしらないが、いい実験材料だ。
 放っておけば、モルモットとして使われてもおかしくない彼女を守ってきたのは、亡き両親だったのだろう。
「…・成る程ね、反スネーク派がを探してたのかもしれないな」
「―何でだ?」
は、スネークを若返らせるって事」
「―――はぁ?」
 スネークの間の抜けた声が、部屋に響いた。
 オタコンは気にせず、モニタ上の物と格闘を続ける。
 運命は、よくよく捻じ曲がった物の見方をするものだと思いながら。



うちのサイトはどんどんコアになって行きます、MGS…・メタルギアソリッド夢(爆)
私はスネークファンですが、オタコン出張ってますね。
尚、私には全く軍や銃の知識、DNA細胞、ナノマシンの知識はありませんので、
訳分からない所、意味不明な所、目白押しです
…すみません、マジメなMGSファンの方は読まない方がいいです;;
愛情だけでは出来ないこともあるのね…(泣)
いや、まだ書くと思うんですが…・(極刑)
とにかく、スネークを死なせたくないので、こんな設定になってます。
今回のはドリームというより、設定ドリームですか(汗)
アクションゲームで書くとは思っても見なかったなぁ…・。


2002・1・23

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